不動産は儲かるのか?

岡本 裕明

日本の不動産業界などで囁かれていること、これは賃貸住宅の作りすぎと論理的価格を通り超えた不動産売買にピーク感か、ということです。前者は相続税対策で作りすぎた賃貸アパートのこと、後者は金融緩和で余った資金と銀行の熾烈なる貸し出し意欲で不動産取引価格が健全利回りを超えて高く売買されていることです。

こんな日本の不動産市場をどう考えるべきでしょうか?

一般的には公示価格や路線価を通じて大きなトレンドを見ることができます。明らかに言えることはそれらの指標は改善する方向に向かっており、指標そのものが水面下からプラスに転じたといってよいでしょう。が、私は今年に入ってピークアウトしていると何度か述べたと思います。何故でしょうか?

株をやる方はお分かりになるかもしれませんが、株式チャートに於いて短期平均移動線が長期平均移動線を下から上に切ったとき、株価上昇のブレイクと言われています。ゴールデンクロスとも称されています。ところが日々の株価の動きと平均移動線には乖離があり、ゴールデンクロスという言葉とは裏腹においしいところはもうあまり残っておらず、株価は案外そこからあまり上がらなかったという経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

これは平均移動線が遅行型統計であるためなのです。つまり、今日の相場は統計よりうんと先の現実であり、遅行する統計を見ていても判断が遅いともいえるのです。

では公示価格や路線価はどうかといえばこれも遅行型統計であります。それぞれ国交省、財務省が一年に一度発表する指標でありますが、その調査はその前に行われています。さらに問題は不動産の取引は売り手と買い手の相対でありますが、取引成立までに一定期間必要です。つまり、その金額で取引が決定する因子は公示価格や路線価の基準に1年程度遅行している可能性が高いとも言えます。年に一度しか発表しない評価額でさらに実態はその一年ぐらい前の数字だとしたらどのぐらい遅れているかお分かりになるかと思います。

では相続税対策によるアパートの作りすぎ問題はどうなのでしょうか?もともと過剰供給を生んだ理由は15年1月の相続税の実質引き上げに伴う資産家の相続税対策が引き金です。つまり、対策に伴う供給増は14年頃からスタートしています。しかし、税金対策を打つ人の需要が一巡し、現時点でアパートの過剰供給は止まってきているとみています。不動産の現場からの声もそのように伺っています。但し、作ったアパートは20年とか30年、存在するわけですから供給過剰が直ちに解消することはありません。古いアパートが新しいものに入れ替わる市場の先食いをしたと考えています。

アパート運営に於いて平均空室率はざっくり3割程度。古いものほど稼働率は下がります。特に一定期間賃料保証をして建てた物件は10年以内でその保証期間が切れ、突然ガラガラのアパートに変身することもあります。その際、賃料の値崩れが生じる可能性があり、時期的には2023年頃から始まるとみています。アパート市場は長期的に下向きで経営側は厳しい状況が続くことになります。なぜかといえば個人事業主は事業をキャッシュフローで見るからです。言い換えれば銀行ローン元本返済や固定資産税、様々な付随費用を払えないとアパートを持っていても足が出ることになるのです。その為、キャッシュフロー赤字になりかねない物件は賃料を下げてでもこれを回避する動きが出やすいと考えています。

次いで大型物件の取引を考えてみましょう。京急が所有していた「グランドニッコー台場」を別の業者が購入したその価格がホテル業界を震撼させたそうです。日経によるとその利回りは2%台前半。これは確かに驚愕の数字です。不動産ブームのバンクーバーで私は所有していた商業物件の一つを売却したのですが、利回り4.1%水準での取引でした。これでも仲介に入ったCBREはベストパフォーマンスだったと述べていますので物件の種類こそ違えど利回り2%台前半は私も思わず唸ってしまいます。

では購入した業者は採算が取れるのか、ですが、考え方ひとつだと思います。金利がほとんどない時代に於いて2%プラスのリターンは悪くはありません。もう一つは法人は所有に伴い損益計算がプラスかどうかがより重要になりますが、こういう思い切った買い方ができるのは低金利の恩恵とホテル業界において稼働率が極めて良好だという数字のマジックが存在することです。

ホテル稼働率は場所により大きく変わりますが、好立地ならば9割近い数字を挙げることができるでしょう。問題はこの傾向をどうとるかですが、一つ言えるのは稼働率は100%以上にはならないということです。つまり、2%プラスのリターンは稼働率が理論上の100%となっても利回りは計算上、わずかしか上昇する余地はありません。

但し、稼働率がそこまで上がるとルームレートが必然的に上がる上にホテルのようなビジネスは付随消費を取り込みやすくなります。レストランや駐車場、各種サービスであります。

これが実は個人が経営するアパートと最大の違いなのです。アパートは部屋を貸すかどうかの黒か白の一本勝負。これに対して商業不動産は付随サービスや付加価値を設定しやすいことで利益を上げる対策がいくらでも打てるのです。

ですので私からするとグランドニッコーのような驚愕の価格が提示される物件があり、「お前はその金額で買う気があるのか」と言われれば「精査する価値は大いにある」と答えると思います。

不動産事業に何十年も携わっていると不動産もいろいろな顔が見えます。儲けられる不動産と儲からない不動産です。アパートは応用が利かない上に利益を上げる算段が少ないので私はあまり手を出さないのです。バンクーバーでも個人向け賃貸をやらないのは不動産の値上がり期待は別にして貸すか貸さないか、黒白一本勝負では古典的単純ビジネスモデルすぎてドキドキさせないと申し上げておきます。

不動産は儲かるのか、といえば儲ける気があればもうかりますし、人任せ、不動産屋任せではやられてしまう、これが答えではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月13日付より