北は永遠に「核保有国」の認知得られず

長谷川 良

北朝鮮は第68回建国記念日の9日、5回目の核実験を行った。これまでの最大規模の核爆発で、その規模はマグネチュード5・3で10キロトン以上だった。ここまで書きながら、「北は5回の核実験を実施したが、核保有国の認知は得ていない。一方、インドもパキスタンも国際社会では『核保有国』と受け取られている。なぜ北は『核保有国』と認められないのか」という点を考えた。

核爆発(CTBTOのHPから)

▲核爆発(CTBTOのHPから)

「核保有国」と認知されようがされまいが、北朝鮮は既に「核保有国」、という事実は変わらない。国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長(当時)は2006年8月31日、ウィーンのホーフブルク宮殿で開催された包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開始10周年記念シンポジウムの基調演説の中で、「世界は現在、9カ国の核保有国を有している」と述べた。そして9カ国には、米英仏露中の国連安保常任理国5カ国にインド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮が入っていた。エルバラダイ氏は10年前に北朝鮮を核保有国と見なしていたのだ。

繰り返すが、エルバラダイ氏の発言は北朝鮮の初の核実験実施(2006年10月9日)40日前だ。同発言を聞いていた外交官たちは「事務局長の9カ国発言」の真意に首を傾げたものだ。なぜならば、北朝鮮は核実験をまだ履行していなかった上、北朝鮮の核兵器保有能力については懐疑的な意見が欧米では主流を占めていたからだ。それに対し、加盟国の核開発が平和目的かを検証する国際機関のIAEAは、北が核実験を実施する前から北が核兵器保有能力を持つ国と判断していたわけだ。

興味深い点は、イスラエルは正式には核保有国と認知されていないし、同国自身がそれを望んでいないことだ。イスラエルは核兵器の保有については否定も肯定もしない立場を死守している。ただし、IAEA53回年次総会に出席した同国のチョレフ原子力エネルギー委員会事務局長は、「わが国は中東で核兵器を最初に導入することはない」と表明し、同国が核兵器を保有している事を暗に認める発言をし、世界を驚かせたことがあった。西側情報機関筋によれば、イスラエルは約200基の核兵器を保有している。

インド、パキスタン、そしてイスラエルの3国は核拡散防止条約(NPT)に加盟していない。北は加盟していたが2003年1月に脱退している。すなわち、核クラブ(核保有国)9カ国中、4カ国はNPT加盟国ではないのだ。その意味から、北がNPTに未加盟だから核保有国とみなされないという論理は成り立たない。

それでは、北朝鮮が核保有国と認定されていない理由は何だろうか。考えられることは、①北の核開発が国際機関の監視外にあることだ。北朝鮮は09年4月、IAEA査察員に国外退去を要求。そのため、IAEAは北の核施設へのアクセスを完全に失った。インド、パキスタン、イスラエルは軍事施設以外の核関連施設へのIAEAのアクセスを認めている。②北には民主的に選出された機関が存在せず、独裁国家であること、などだ。北朝鮮の「核保有国」の認知では、技術問題というより、どうしても政治問題が絡んでくる。例えば、日韓の核武装化問題が浮上してくる。

核保有国の認知を得て、米国と対等に交渉できる国家になるという北の野心は、金正恩氏(朝鮮労働党委員長)がいる限り“見果てぬ夢”に終わる宿命にある。金正恩氏もそのことを知っているはずだ。にもかかわらず、「核保有国」の認知を叫ぶのは、核保有なくして独裁政権を維持できないからだ。「核保有国」の認知問題は国際社会のアジェンダではなく、金正恩氏のアジェンダなのだ。

なお、朝鮮中央通信(KCNA)によれば、北外務省は11日、「米国の核戦争への威嚇に対抗するため今後も核実験を実施する」と示唆している。北が今後、6回目、7回目、そして10回以上の核実験をしたとしても、同国は永遠に「核保有国」という認知を得ることはないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。