M&A用語の歴史 その3

2016年09月16日 06:00

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ライブドア/ニッポン放送の買収合戦(2005年)

グッドイヤー・タイヤの事例(1986年)を前回ご紹介したが、こうしてみると当時話題となったライブドア/ニッポン放送(2005年)の騒動と似ていることがよくお分かりいただけると思う。

ライブドアの背後には投資銀行のリーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers 2008年倒産)がおり、これがMSCB(Moving Strike Convertible Bond;転換価格修正条項付転換社債)という聞きなれない方法で買収資金を貸し出したことにより、積極果敢な株式の買い付けができたこと、ニッポン放送が株式市場において本来の価値よりも低い株価しかついていなかったこと、結果的にニッポン放送が上場廃止になったこと、ニッポン放送経営陣の対応が後手に回ったことなど、本当に似ている。

ライブドア/ニッポン放送の騒動の過程では、フジテレビの株式やポニーキャニオンの株式など優良資産を第三者に売却してしまうことも検討された。その他の買収防衛策として、ゴールデン・パラシュートなどの方法もあるが、いずれにしても買収防衛策は”諸刃の剣”である。

つまり、ポイズン・ピルにせよ、クラウン・ジュエルにせよ、企業価値を意図的に毀損させることによって相手の買収意欲を削ぐことが戦略の基本にあるからだ。

過度な買収防衛策は、経済社会にとってよくない面もある。買収防衛策の王道とは、自社の株価を適正な価値に保っておくようIR活動に力を注いだり、いたずらに内部留保を溜め込まず利益が出たときには適切な配当をしたりする、あるいは自社株式の買入消却をすることだろう。

意外に思われるかもしれないが、「増配」は敵対的買収に対する対抗策としてかなりの効果がある。増配とは文字通り配当を増やすことだが、内部留保が厚く、借入金が少ない会社は、カネを溜め込んでおくことについて合理的な説明ができない場合が多く、得てして株式市場では低評価となっている。

ここに敵対的買収者がつけ入る隙がある。

かつてスティール・パートナーズ(Steel Partners)というアメリカの投資会社(現在は日本から撤退)が、内部留保が厚いうえに借入金が少なく、カネを溜め込んでいながら株式市場では低評価となっている日本企業に対し、敵対的買収を仕掛けてきた。

これに対して経営陣がとった防衛策が「増配」だった。効果はてきめんで、経営陣が内部留保を吐き出すぐらいの配当を発表すると、株価が急上昇し、スティール・パートナーズにとって魅力的とはいえない水準まで株価が上昇する。

敵対的買収者は極めてビジネスライクであり、買収企業を保有したいという欲求は低い。自分たちが買収してもうからないとするならば、今度は持ち株を売却し、敵対的買収から撤退するのである。

こうしてスティール・パートナーズは株価上昇によって十分な利益を得たので、敵対的買収を諦めはしたが、投資としては大成功であったといえる。

【M&A用語解説】

MSCB(Moving Strike Convertible Bond;転換価格修正条項付転換社債)

通常の転換社債と異なり、株価下落時には転換価格も引き下げられるため、MSCBに投資した投資家はまず損をしない。しかもMSCBは大株主からの大量の貸株契約とセットになっていることが多く、MSCBを引き受けると同時に、借りた株を市場で大量売却して株価を大幅に引き下げた後にMSCBを株式に転換して返却すれば、損をすることがない。MSCBはこのような性質を持つため、信用力の乏しい企業でも多額の資金調達が可能だが、発行したあとは株価の下落と、発行済株式数の大幅増加による1株あたりの価値の低下を招くなど、”副作用”が大きい。まさに魔の資金調達方法といえる。

ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute)

買収対象企業がその経営者に対し、買収が成立した場合に多額の退職金を支払うことにより、財務内容が将来的に悪化することを利用して、買収阻止を狙うこと。退職金自体も高額だが、高額であることから退職金の一定額以上分の損金算入が否認されるため、買収後に被買収企業のキャッシュフローに大きな悪影響が出てくる場合があり、アメリカではかなり有効な防衛手段とされていた。

クラウン・ジュエル(Crown Jewel)

王冠にちりばめられた高価な宝石になぞらえられる優良な関連会社などの資産を王冠である買収対象企業から外してしまい、買収後の企業価値を著しく低下させることで、買収対象企業としての自社の魅力を削いでしまうこと。日本では焦土作戦などと訳されている。ニッポン放送のケースでは、ポニーキャニオンの増資をフジテレビが引き受ける形で、ニッポン放送という王冠から宝石(ポニーキャニオン)外しをするという案があった。

パックマン・ディフェンス(Pac-Man Defense)

敵対的買収を仕掛けてきた相手に対して、こちらからも逆買収をかけ、真っ向から勝敗を決めにかかるという買収対応策。茶の間を賑わせることにはなるが、ワイドショー以上の価値はない。
株の買占め合戦のほか、資金調達合戦を繰り広げたり、まさに消耗戦と泥仕合になりかねない。当時アメリカで流行ったパックマン(日本初のテレビゲーム)になぞらえた。

■おわりに

こうした用語の中には、時代の役割を終えて死語となったものも多いが、M&Aの歴史の所産としてあえて紹介した次第である。

文:株式会社ストライク 鈴木伸雄
編:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年9月10日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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