絶やしてはいけないフィリピン人の笑顔

岡本 裕明

私の会社にはフィリピン人が少なくとも過去20年近く間断なく従業員として出入りしています。いろいろな方を見てきましたが、まじめで一生懸命でどんな仕事にも音を上げることなく、ニコニコして「やっておくよ」と言ってくれたりすると「あの人は神様だよ」と他の従業員と囁き合ったこともしばしばであります。また、私の業務の関係、取引先などでもフィリピン人の方が担当であることもしばしば。長年取引先の担当であったこともあるのですが、けっして無理を言わず、話を聞いてくれて一緒に汗を流してくれたりします。

日本とフィリピンはある意味、最も近い東南アジアの国として、また同じ島国として近親感が強いものです。またフィリピン人の日本人に対する評価も悪くなく、両国には安定した信頼関係が生み出されているとも言えます。

そんな中、ドゥテルテ氏は「アジアのドナルドトランプ」と揶揄されながら大統領選挙を勝ち抜き、国民から圧倒的な信頼を得ています。フィリピン女性はマッチョが好きらしいのですが、それが強さと女性に対する優しさという意味であるならドゥテルテ大統領はladies’ man (女好きでもてる男)という言葉がぴったりかもしれません。

麻薬組織殲滅を掲げ、6月30日に大統領に就任するなり 組織の人間は3000人以上が殺害されたとされています。その効果は目覚ましく、麻薬取引量は9割減少したというのですからladies’ manにとってこれほどの勲章はないのでしょう。彼の写真には多くの女性に取り囲まれニコニコしながら握手をしているものも多いのですが、超法規的措置が海外からは厳しい目線となっていることにはお構いなしのようです。

ドゥテルテ大統領がなぜ、オバマ大統領を敵に廻してでも麻薬組織と戦うのか、それはフィリピンがその温床としてこれまた海外から厳しい目で非難されていたことはあるのでしょう。よって、どっちにしても厳しい目ならば何もしないでよい子にしているよりヒーローとなった方がマッチョマンとしての誇りとなるでしょう。

では大統領が大統領としての資質を持っているかといえばこれはまだ、着任して3か月も経たない中、判断するのは危険でありますが、オバマ大統領に暴言を放つそのスタイルからは常軌を逸していると言わざるを得ません。ドゥテルテ大統領によほどの自負があるのでしょうが、世の中には付き合い方もあります。ましてやフィリピンという人口1億人ものリーダーであり、世界とのリンケージがより強化されている中、仮に敵対国の主にでもそのような暴言は許されません。

それより不思議なのはなぜ、ドゥテルテ大統領が中国に接近しているのか、であります。もともと、フィリピンはアメリカと相互防衛条約がありましたが、90年代にソ連崩壊に伴う緊張緩和、火山爆発による米軍基地への被害もあり、米軍は撤退、さらに米比合同軍事演習も95年でなくなりました。

が、その直後からそれを待っていたかのように南シナ海を巡り中国と敵対関係になり、一度撤退した米軍との関係を再び強化して今日に至るという歴史があります。つまり、フィリピンにとって国を守るため、南シナ海の安全と領有を守るために米軍の支援は絶対不可欠であったはずです。

が、ドゥテルテ大統領はその援軍のアメリカを足蹴にし、敵である中国にすり寄り武器を中国から買い付けるという指示を出したともされます。この180度転換ともとれる施策が本気なのか、浮気心なのか、本人も認める中国人からの選挙寄付金に踊らされたのか、功名心なのかその真意はわかりかねます。

しかし、このような恐怖政治をすると国際社会のフィリピンに対する目が厳しくなるとともに貿易や海外からの投資を通じた国内経済への影響は避けられなくなります。フィリピン経済はGDP7%程度の成長を維持するアジアの優等生であります。その経済はフィリピン人の消費性向の高さからきているものされますが、その消費をくすぐるのは西側諸国からの投資によるところは大きいでしょう。

不人気であれ自国の大統領をコケにされたアメリカにとって積極的にフィリピンに投資したいと思うでしょうか?いや感情論だけではなく、一大統領によって今までの政策方針が全く転換されるとなれば民間投資の手も縮こまってしまいます。海外投資家の目はその国で安定的成長を期待し、投資回収ができるという大前提が必要だからです。

人口1億人は魅力的な市場であるはずです。そして少なくとも今日に至るまで良い関係を築き上げてきたのにここで水を差すのは外交上のみならず、経済的にも社会的にも懸念するところは大きく、日本の対フィリピン外交もその対処は頭痛の種となるのかもしれません。それより私はフィリピン人のあのニコニコした国民性が大好きで今日まで業務を通じて積極的に雇用してきています。そのイメージが壊れないようにだけはしてもらいたいと願う一心です。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月21日付より