「火力発電に収入保証」がもたらすIoTのビッグバン

本日の日経新聞に「火力発電に収入保証」という記事が掲載されました。

太陽光など再生可能エネルギーの普及で採算が悪化した火力発電に収入保証を検討する。不安定な再生エネの発電量をならす役割を重視し、電力会社が火力の新設投資を続けられるようにする。

日経新聞 9月28日(水)付朝刊

実際、ドイツでは、固定価格買い取り制度(FIT)により太陽光・風力発電を大きく優遇したため、火力発電の値段が付かず、電力会社の経営が極端に悪化しています。日本でも民主党政権の置き土産として、1kWhあたり42円というFITが導入され、太陽光発電が爆発的に普及し、そのコストが電気料金に賦課され、国民負担が増しています。自民党政権になって、行き過ぎた高価格が若干是正されましたが、一方で中国が採算度外視で太陽電池の増産を今も進めているため、市場価格が暴落し、コストが下がった太陽電池の導入が、国内外で今後とも進むことが予想されます。

例えば、入札により太陽光の売電価格が決まるインドでは、中国の価格破壊のおかげで、今年のはじめに民間発電事業者が1kWhあたり約6円で落札しました。2022年までに1億kWの太陽光発電を普及させるというモディ首相の野心的な政策が奏功したと世論は好意的に受け止めています。確かに1kWh6円というのは常識外に安く、インドの一般的な電源である石炭火力発電価格は1kWh10円程度なので、インド政府の関係者は「もうインドは石炭火力発電所を作らなくてもいい」とまで言っています。商才に長けたソフトバンクの孫社長やゴールドマンサックスなどがインドに乗り込み、インド太陽光発電市場は今や、ハゲタカや山師の草狩り場と化しています。

しかし、発電コストの単純比較だけで再生可能エネルギー発電の普及を進めるのは、大変危険な発想です。太陽光は日照が無いと、風力は風が吹かなければ全く発電できず、その発電の振幅が大変大きく、簡単には貯蔵できない電気は、その需要に供給を常にあわせることが出来なければ大停電に陥ります。だから、いざという時のバックアップを確保する必要があるのですが、その役割を担う火力発電を維持するコストが莫大なのです。だから、太陽光発電を他の電源と価格比較する際には、バックアップ電源のコストを加えなければフェアではありません。実際、ドイツではいつ運転できるか分からない火力発電を建設する事業者がいなくて困っています。そこで、記事にあるような「容量市場」という考え方が生まれます。

火力発電所が運転しないときでも一定の収入を得られる制度を検討する。太陽光の普及で火力は稼働率が落ち、電力大手のあいだでは新設をためらう動きがある。火力発電所が少なくなれば太陽光が発電しない夜間や降雨時に電気が不足しかねないため、収入を確保して投資を続けさせる。

ところがです。太陽光発電を普及するための追加コストは、この待機電源だけではありません。電気は瞬間瞬間で需要と供給をマッチさせなければいけないので、常に変動する太陽光発電の動きをフォローして、待機電源を動かしたり止めたり、出力を調整する必要があります。これを人間の手で行うことは不可能です。そこで、ICTの出番となります。全国レベルで太陽光発電の出力が次の瞬間どうなるかを正確に予測して、足りなそうになったら、市場を通して、一番安く待機電源を動かしてくれる事業者を探し出し、指令を出し、実際に待機電源を動かす。逆に、需要以上に太陽電池が発電しそうになったら、揚水発電所や蓄電池で電気を貯めるわけですが、これも入札で一番高い価格で買い取ってくれる事業者を探し出して、そこに送る。そういったICTシステムを構築するのに莫大な設備投資が必要です。そのコストは結局は消費者か納税者に転嫁されていくのです。だから、太陽光発電が経済的と言えるには、下の式が成り立つ必要があります。

太陽光発電コスト + 待機電源コスト + 新しいICTシステムの減価償却費 < 既存電源コスト

こうした経済合理性によって政策判断がなされないのは世の常で、中国の国の威信と存亡を賭けた太陽電池の価格破壊が進む中で、太陽電池の普及は世界的なトレンドです。しかし、我が国の経済全体を俯瞰すれば、それは必ずしも悪い話ではありません。

このICTシステムこそ、もののインターネット(IoT)とビッグデータそのものです。だから、世界でいち早くこのシステムを構築できれば、付加価値インフラ輸出の絶大なビジネスチャンスを握ることができます。ある意味で、アベノミクスの第三の矢の筆頭候補になるのです。そして、もの作りに長けた日本は、最も優位な位置にいる国の一つです。このレースの競争相手は、欧米、中国・韓国でそれぞれ一長一短があります。

また、このICTシステムの適用範囲は、電力業界だけに留まりません。自動運転と電動化が進む自動車業界とも親和性があります。リチウムイオン電池を持つ自動車を待機電源とすることができれば、大きな合理化に繋がるとともに、交通業界とエネルギー業界の壁が崩れます。

こうした世界のIoT・ビッグデータの動向を、私は今後ともフォローし、皆さんに発信していきたいと思います。