【映画評】函館珈琲

2016年09月29日 06:00


北海道・函館にある古い西洋風アパートの翡翠館では、オーナーが夢を追う若者たちにアトリエ兼住居として部屋を貸し出していた。そこに住んでいるのは、装飾ガラス職人、テディベア作家、ピンホールカメラの写真家たち。夏のある日、入居予定だった家具職人・藪下の代わりに桧山英二が翡翠館にやってくる。古本屋を営む予定の英二は、実は小説家だが、昔書いた小説「不完全な月」以降、思うような作品が書けず苦悩していた。英二が仕事の合間に淹れるコーヒーの香りに誘われるように、翡翠館の住人たちが集まり、互いの距離を縮めていくが…。

函館港イルミナシオン映画祭のシナリオ大賞映像化プロジェクト第1弾作品である「函館珈琲」。函館を舞台にするのが条件のオリジナル脚本で、いわゆるご当地映画だが、無理に伝統芸能や特産品、観光地やお祭りなどを盛り込むことはせず、おしゃれな癒し系映画に仕上がっている。その街をただ背景にするだけで、魅力や風情がしっかりと伝わるのだから、函館という街は本当に絵になる街だ。翡翠館のオーナーが住人を選ぶ基準は“翡翠館にふさわしい人物かどうか”。そこに住むアーティストたちは、それぞれ心に傷や悲しみを秘めながらも懸命に前向きに生きていて、新しい住人となる英二にも、それが求められている。珈琲とその香りは、孤独を抱える大人たちをつなぐツールの役割を果たしているのだ。

我が子に会えない寂しさ、遠い故郷への想い、人と接することへの恐れなど、それぞれの思いを知った英二が感じ取るのは、何も生み出さない自分への怒りと苛立ち。同時に、逃げ続けていた自分の時間をもう一度動かす勇気だ。傷ついた主人公の再生というストーリーに目新しさはないが、ゆったりと柔らかな時間が流れるこの作品には、確かにちょっと癒される。

【55点】
(原題「函館珈琲」)
(日本/西尾孔志監督/黄川田将也、片岡礼子、Azumi、他)
(癒し度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年9月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は「函館珈琲」Facebook公式ページより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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