都議会議員の条例提案2.9%、原案可決99.6%

高橋 亮平

都議会への提出議案の90.4%は知事提案。議員提案はわずか9.6%

図表: 都議会議案提出者割合(知事・議員)

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2013年6月に行われた前回の東京都議会議員選挙以降の2013年第3回定例会から2016年第2回定例会までの3年間で知事が提出した議案は769件と90.4%もを占めているのに対し、議員提出議案はわずか82件、9.6%しかなかった。

こうした状況はけして東京都議会だけの問題ではなく、多くの地方自治体で起きていることだが、都議会においても例外ではなく、そのほとんどが知事提案に依存している事が分かった。

知事提案と言っても、その議案を知事が全て考えているというわけではなく、実際には東京都庁の職員たちが議案を作成しているのが実態だ。

「自治体の官僚」とも言える行政職員に活躍してもらいより良い都政になることは、都民にとっては悪いことではないが、都知事はあくまで行政府のトップであることを考えれば、議会には立法府としての政策提言の役割をしっかりと果たしてもらいたいという側面もある。

その立法府の提案が1割にも満たないというのはいささか残念な気がする。

東京都議会における議員による議案提出は、「意見書」や「決議」などを除き、議員定数の12分の1以上の賛成者が必要となっている。定数は127人なので、11人集まれば提案できる。2006年の地方自治法改正以降は、委員会も議案を提出ができるようになり、この場合は委員長名をもって提出されている。

こうした議員提出議案の増加についても期待したい。

 

議員提出議案の約半数は意見書。決議と合わせて約7割・・・

図表:議員提案議案の内訳

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問題は、単に議案提出者の比較の問題だけではない。

82件と紹介した議員提案の議案のうち半数近い48.8%が「意見書」であり、残りの19.5%も「決議」になっており、「条例案」の提案は25件、30.5%に留まっている。

全体の851件のうちから考えれば、議員提案による条例案の提案はわずか2.9%にしか過ぎない。

「意見書」とは、地方自治法第99条に位置づけられたもので、地方公共団体の公益にかかわる事柄に関して、議会の議決に基づき、議会としての意見や希望を意見書として内閣総理大臣、国会、関係行政庁に提出できることとされているものであり、「決議」とは、都民生活に直接かかわる緊急、重大な事項に関し、議会の意思を対外的に表明するために行うものを言う。

「意見書」や「決議」に意味がないとは言わないが、立法府という役割を考えれば、もう少し条例提案を増やしてもらいたいものだと思う。

 

図表:議員提出議案内訳の推移

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この3年間の任期の間の都議会の議員提案内訳を推移で見ていくと面白いことが見えてきた。

議員提出議案自体は凸凹があり、ここ1年の提案数がむしろこの3年間で最も少ない。

しかし実際にはこの数の凸凹に影響している大きな要因は意見書の提案件数によるもので、条例案に限定して見ると、3件、8件、14件と年々増えている事が分かる。

こうした部分では、まだまだ議員提案の件数は少ないものの前向きに捉えられる傾向だと言える。

今後さらに都議会の中で活性化されていくことを期待したい。

 

図表: 議員提出の条例案一覧

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<図表を見る>

この3年間に審議された議員提出の条例案を一覧で見えてくることもある。

25件の中には、議員提出議案第4号の「東京都議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例の一部を改正する条例」が2015年第1回定例会から2016年の第2回定例会まで6議会連続で継続審議になっていること、否決になっている条例案12件のうち11件は日本共産党東京都議会議員団が賛成している議案であること、東京都議会自由民主党と都議会公明党が賛成しない条例案は可決していないこと、さらに可決している6件のうち5件は全会派一致で可決していることなどだ。

 

図表: 審議結果別条例案の内容割合

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図表: 条例案の内容別審議結果割合

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議員提出の条例案の内訳を見ると、最も多いのが32.0%の議員報酬についてのもので、それ以外にも議員定数と委員会に関するものが12.0%、議会の情報公開に関するものが8.0%と、議会に関するものだけで64.0%もを占める。それ以外では知事給与に関するものが1件あっただけで、残りは、奨学金、助成金、補助金など名称や分野に違いはあるがある意味バラマキ的な政策の提案が32.0%あった。

この議員提出の条例案だが、議会での審議結果を見るとさらに顕著な結果に表れていた。

可決した条例案は全て議会関係のものであり、とくに都議会の委員会関連条例案、議会の情報公開に関する条例案については100%が可決していることも分かった。

一方で、都民に対する奨学金、助成金、補助金といった言い方は悪いかもしれないが、ある種のバラマキ的な条例案は、その全てが否決されている。

また、知事給与については100%が継続審査になっている他、議員自身の報酬に関する条例案についても75%が継続審査になっており、結論が棚ざらしになっている印象も受けた。

こうした中、もう一つ注目してもらいたいのが、「議員定数」に関する条例についての審議だ。

審議結果が可決と否決に分散されているわけだが、議員提案条例案一覧を見てもらうと分かるように「議員提出議案第11号」を都議会民進党と民進党都議団が、「議員提出議案第12号」を日本共産党東京都議会議員団、かがやけ Tokyo、都議会生活者ネットワーク等が、「議員提出議案第13号」を東京都議会自由民主党、都議会公明党がと、どういつのテーマに対して都議会が3分割して議論されたということには可能性を感じる。

実際には、都議会構成を見ると東京都議会自由民主党が60人、都議会公明党が23人おり、ここだけで127議席の過半数に達してしまうわけだが、今後はさらに原案修正などを含み、都議会の中での政策論争や政策の修正などを行ってもらいたいと期待する。

 

行政のチェック機能、都知事提出議案の99.6%はそのまま原案可決・・・

これまでも地方議会の問題については、『99.1%の原案がそのまま通過、議員による政策的条例提案はわずか0.143%という地方議会の現実<最新2013年データ分析>』( http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52005483.html )など、とくに基礎自治体のデータを元にコラムも書いてきたが、総理が国会議員から選ばれる一元代表制の国政と異なり、首長も議員も選挙によって選ばれる二元代表制を取る地方自治現場では、「行政と議会は車の両輪である」とも言われる事も多く、議会側からの提案だけでなく、行政をチェックする事もまた議会の重要な役割だと言われることがある。

そこで、都議会による「行政チェック」の実態についても調べるため、知事提出による議案の議決態様についても見てみることとしよう。

冒頭で書いたように前回の都議選からこの間の都議会議員の任期中のこの間の知事提案による議案は769件だが、その内訳は、条例案が最も多く56.8%と大半を占め、この他にも知事の専権事項である予算案が12.6%、契約案が13.9%、その他の事件案が16.6%と並ぶ。

 

図表:知事提出議案の内訳

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図表:知事提出の条例案の審議結果

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問題はその審議結果である。

市長提出のうちの99.6%もの議案が原案のまま修正もされることなく可決しているのだ。

件数で言うと、継続審査になったのは1件、撤回したものが2件あっただけだった。

ちなみに継続審査になったのは、2013年第4回定例会の第235号議案「東京都知事の給料等の特例に関する条例の一部を改正する条例」、撤回となったのは、2013年             第2回臨時会の第235号議案「東京都知事の給料等の特例に関する条例の一部を改正する条例」と、2014年第1会定例会の第118号議案「武蔵野の森総合スポーツ施設(仮称)(25)新築空調設備工事(その2)請負契約」だけだった。

もちろん議会の活性化とは、何でもかんでも反対すればいいというものでもない。

議会でよく使われる用語の中に「是々非々」という言葉がある。

いいものは認めながらも、問題があれば指摘し、そこは修正していく事が重要だ。

仮にどんなに都庁の職員が優秀であったとしても、796件の議案のうち793件は原案のままで修正する必要もないというのは、いささかやり過ぎな気がしてならない。

筆者自身も地方議員も経験もしてきたし、会派代表として、他会派との調整や理事者との調整などもやってきた。

一方で、部長職として行政側で、議員への説明や議員との調整などについても経験してきた。

地方議会の仕組みや状況については、それなりには認識しているつもりだ。

議案の事前説明や調整なども含めて「議会の前には全て決まっている」などと言われるいわゆる「議会の常識」と言われるものについても、そろそろ「世間の常識」とずれ始めた部分を修正していく必要性があるのではないかと思う。

いみじくも新都知事は「都民ファースト」という言葉を使う。

知事だけでなく、議会もまた「都民ファースト」の立場に立ちつつ、新しい議会の形や、地方自治における新たな民主主義のモデルの構築を期待したい。

 

 

高橋亮平

高橋亮平(たかはし・りょうへい)

中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。

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