トクホ問題にみる、官製許認可ビジネス --- 本元 勝

寄稿

消費者庁は、先日の大阪の特定保健用食品販売会社の許可取消処分のあと、トクホ全1270製品の成分再調査について業界団体を通じて指示したという。トクホの許可が取消は今回が初めてであり、取消し理由は、特に悪質であったからだという。

実は、既に1年前の2015年の10月の時点で、累積実質許可品目数 1203 品目のうち、294 品目が失効していることが明らかになっている。そして、現在は約半数が既に販売を休止しているという。これらの背景には、2014年に消費者庁は、トクホ業者に対しトクホのこれまでの基準とは全く違う高度な新基準の通知改正を実施し、段階的ではあるが、大幅な品質改善を求め、不適商品については、自主的な販売休止を求めていたという。つまり、処分を科された業者は、自主的な販売休止を行わなかったということだろう。

トクホの許可とは、91年の施行時は医薬品との明確な区別を中心とした、非常に緩やかな条件での許可・更新が行われるものとしてスタートした。あくまで食品である為、許可の要件も簡易的食品分析であり、更新も許可時のエビデンスをそのまま適用する運用であった。第1号許可からわずか3年後に更新期間は2年→4年間に延長され、その1年後には、永久ライセンスとなっている。これらを見てもトクホ許可がいかに低いハードルであったかがわかる。

しかし、2009年の消費庁の発足に伴い、主管庁が厚労省→消費庁に移管することになった。そして、ここから大きく動いていくことになる。消費者の保護を謳った一般食品との違いの更なる明確化。又、超大手メーカーの相次ぐ参入により、更なる高機能化を謳った商品が続々開発され、トクホ資格の基準向上の検討議論が次々と行われ、先述した新基準に移行した流れだ。

そして、この新基準には、「ヒト試験に関する主な要求事項」という要求事項があり、「人体による臨床的検証が必要」ということなのである。2014年には、疫学研究に関する倫理指針に従う。さらに2015年には、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従うと通知された。

ちなみに、三菱UFJリサーチの調査資料によると、トクホ業者が「ヒト試験に関する主な要求事項」に掛かった費用は、4千万以上が40%、1億円以上が12%となり、許可開始当初の検査費用の50~100倍に上る費用負担となっているのだ。

果たしてあくまで食品である、トクホにそこまでの検査が実際に必要なのか? そのレベルを誰が求めているのか? そこに社会の要請が存在するのかということだ。

当然このような高額の検査を一般の中小食品会社に出来る訳がなく、中小企業の多くのトクホ事業は廃業に追い込まれるだろう。しかし、主管である消費庁すら、これらの知識及び管理能力等、一切持ちあわせていないのだ。実際、今回の再検査も、業界団体を通じた再検査指示であり、検査能力すら持っていない。

実はこれに似た事例は、古くから多くの産業界で起こっている。今回の件についても名目は、業界・市場の急速な拡大による「消費者保護」を目的とした行政措置と言われているが、目的に対する手段の選択に整合性が見られない。また、高度化が本旨あるなら、上位許可を新設すればいいだけだ。

これら行政措置が講じられる時、必ずと言っていいほど背景に見え隠れするのが、本省庁の外郭団体であり、予算付けも行われる独立行政法人と、建前上無関係だが、実質的に省庁の関係組織といえる公益財団や社団だ。ISOやPマーク、他様々なライセンス発行やその審査や検査等を行っている機関や団体もそれである。

上記の機関と団体の役割は異なる。市場において、成長しそうな新たな需要が発生すると、公益財団・社団等が登場し、関連する講座の開講や試験などを実施して、公的資格でないライセンス発行事業を開始する。次にこの市場規模に一定の拡大が見えると、ひとつの主管官庁の元、独立行政法人が登場し、これまでのライセンスを公的資格に格上げするか、旧基準とは一線を画す高度な許可基準の資格に移行する。そして、その新資格の取得条件には、サブライセンス的な検査等が条件として付帯されることが多く、その管理団体として、先程の公益財団・社団等が指定される。さらに、その新資格取得者が営業を行う為に加盟が義務付けられる「協会」等団体が新設される。

これら一連の流れにより、官製「資格ビジネス」と「協会ビジネス」が出来上がる。そして、今回のトクホの新基準における許認可に必要な検査証明の発行は、1つの独立行政法人が指定した、全国でわずか5つの検査機関の結果しか認定しない仕組みなのだ。

消費者にとって現在の安価なトクホは、「健康になるような気がする食品」の位置づけではないだろうか。行政が目指す新たな高価で高度なトクホ市場が、消費者の多くが望む場所であることを祈ろう。

本元 勝
消費者市場調査コンサルタント
東京商業支援機構