OPEC合意:「削減」ではなく「据置」では?

岩瀬 昇

ロイターの市場アナリストであるJohn Kempが興味深い分析をコラムとして投稿している。要点はタイトルに集約されると思うが、”Saudi Arabia gambles it can raise oil prices without losing too much market share”と題しているものだ(30 Sep 2016, 1:42pm BST)。

記事の要点をまとめると次の通りとなっている。

・今回のアルジェ合意は、原油供給量の削減ではなく、市場のセンチメントを変えることにより価格上昇を目指すもののようだ。

・OPECコミュニケは700字以下、(プロトコールを除く)105字からなる2つの文章2つお決定を伝えているとして、Kempの言葉に置き換えて次のとおり紹介している。

1. OPEC ‘s 14 members committed themselves to a collective production target ranging between 32.5 million and 33.0 millions per day.

2. A high-level committee will be established to study and recommend the implementation of the production level by individual member countries and consult with non-OPEC oil producing countries.
(原文は弊ブログ#243「OPEC、驚きの『削減合意』か?」参照。対比して読むと興味深いものがあります)

・今回の合意を「削減(cutback)」とみるか、「据置(freeze)」とみるか、あるいは「漸増(continued growth)」とみるかは、基準値(baseline)をどこに置くかによる。

・サウジの8月の生産量は、夏季冷房需要が増加する前の本年5月との比較で40万B/D増えている。夏季が終わると(電源燃料としての原油需要が減少するので)原油生産が減少するのが通例。

・一方、7月1日に再加盟したガボンの生産量が20万B/Dあり、8月のOPEC生産量3,324万B/Dには含まれている。

・ガボン再加盟+サウジの夏季需要前の、5月のOPECの生産量は3,250万B/Dだった。

・したがって今回の「合意」、3,324万B/Dから25~75万B/D(Kempは「24~74万B/D」を丸めている)減少するということは、実質は「据置(freeze)」とみるのが最も公平だ(fairest)。

・サウジが今回、柔軟性を示したのは、高コスト原油の減産と低油価による需要増によりリバランス(供給過剰が解消されること)が達成できる、との戦略が、想定以上に時間がかかっていることを認識した結果。シェールの減産はOPECの増産で打ち消されてしまっている。需要増も想定以下だった。

・また、収入源により外貨準備を2014年8月以降1,820億ドル、今年1月から7月までだけでも530億ドル減少しており、現在は5,640億ドルになっている。財政赤字の更なる悪化を防ぐためには、価格上昇が必要との判断に至ったものと見られる。

・一方、イラン、リビア、ナイジェリアなどの短期的な生産余力には限界があるので、今回特別待遇としても、サウジはさほどシェアーを失わずに済むだろうとの読み。

・米シェールのリグ稼働数が5月末以降100基以上増加しているが、資金繰りが逼迫している状況は続いている。サウジは、ある程度の収入増が実現でき、シェールの増産が脅威となるほどの水準にならないと思われる50~60ドル程度への価格上昇を目指しているものとみられる。

・このように、アルジェ合意は、サウジがシェアーをさほど失わず、OPEC生産量を「据置(freeze)」き、口先介入で価格を上げ、リバランスを加速させることにより、穏健な価格と収入増を目指すという賭け(gamble)なのである。

なるほどね。
賢い事務局が見事な落としどころを見つけて、いざとなったらサウジ一カ国だけでも実現可能な数値目標を巧妙な文章で織り込んでいるんだな。

サウジの今年度国家予算をバランスさせるためには、油価67ドルが必要、とIMFは見ているそうだが、年末に発表される来年度予算がどういう内容になるのか、興味津々だな


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年10月1日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。