食欲の秋をガトーショコラのマリアージュで楽しむ

尾藤 克之

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ケンズカフェ東京の氏家健治シェフ(写真は氏家より提供)

いよいよ、食欲の秋到来です。この時期に楽しみたいのがスイーツです。夏場にはなかなか手が届きにくいスイーツも、秋から年明けの春先までは存分に楽しむことができます。

今回は、ケンズカフェ東京(東京・新宿御苑前)の氏家健治シェフ(以下、氏家)が監修したガトーショコラを紹介します。フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、TBS「ランク王国」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」「嵐にしやがれ」などで紹介されたことがあるので、ご存知の方も多いことでしょう。

氏家は、ガトーショコラでポジショニングを確立していることから「成功者」と称する方も多いですが、実はイタリアン・レストランの経営で一度挫折を経験しています。その後、店を立て直していくなかで、ガトーショコラ一本で勝負することを決意します。本日は、「ビジネスの勝負勘を養う秘訣」について伺いました。

■商品の格が上げればお客様の格もアップする

ケンズカフェ東京のガトーショコラは、当初は1300円(500g)でした。当時の売上げは現在のように多くはありません。しかしこれでは品質が担保できないため、1500円に値上げをして容量は従来の1/2の250gにダウンサイジングをおこないます。さらに、品質を維持するという理由から、期間を空けずに2000円(250g)に値上げをおこないます。

「サイズが半分になって値上げをするの」という声も少なくなかったようです。しかし販売数はむしろ増加し売上げも伸びていきました。理由としては、商品の格が上がったことや、手土産としてもらった人が来店するという好循環が生まれてきたと分析しています。

「商品の格が上がると、お客様の格がアップしてきます。本場フランスの味を知るチョコレート通が増えてきました。」(氏家)

そして、チョコレート通を唸らせるために、チョコレートの最高峰ともいわれるフランス・ヴェローナ社の「クーベルチュール・チョコレート」の「カライブ」に変更をします。すべてのお客様が気が付くわけではありません。しかしチョコレート通なら美味しいと思ってくれるはずだという確信があったそうです。

既に「ガトーショコラで勝負できるのではないか!」と感じていた氏家ですが、お客様には本物のガトーショコラを食べてもらいたいと思っていました。コース料理のデザートからはじまったガトーショコラが、いまや全国から注文が集まるようになっていました。

その後、メディア等で取上げられるようになり、商品の軸足をガトーショコラ一本に移すことになります。レストランの収益に頼れなくなること、ガトーショコラ単体の売上げを増やすために、2008年に3000円への値上げを決断します。

既存のお客様にはソッポを向かれてしまうかも知れません。しかし、3000円でまた新しいフアンを獲得すればいいとポジティブに考えて腹をくくっていました。そして誰に相談することもなく独断で値上げを断行します。実は氏家には明確な戦略がありました。

「一般的に考えれば1本3000円のガトーショコラは高いと感じるでしょう。だからこそ話題になるとも考えました。『1本3000円のガトーショコラはどんな味がするのか』と、よりディープなチョコレート通の食指が動くとも考えました。」(氏家)

この機会に、材料やパッケージもより高級なものに変更しています。箱も手提げ袋も一新して、高級ブランドのパッケージを研究して高級感を意識しました。そして、値上げは当面せずに、3000円の価格で勝負する覚悟を決めました。

■勝負のタイミングは自分の意思のみで決める

3000円への値上げを断行した際、従業員のほとんどは反対したそうです。しかし、氏家は70~80%は成功するだろうと確信をしていました。失敗したら廃業をするしかないような勝負は無謀ですが、失敗したら2000円に戻せばいいやという逃げ道をつくっていました。レストランもあるわけだから、またやり直せばいいと考えていたのです。

「心配は杞憂に終わりました。フジテレビ系列の人気番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』のコーナーで、藤井フミヤさんがガトーショコラを紹介してくれるという機会にも恵まれました。その後も、テレビや雑誌などのメディアに紹介されるようになり、売上げは安定するようになりました。」(氏家)

次にこだわったのが徹底的なブランド化です。本場のフランスには「ジャン=ポール・エヴァン」「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のようなブランド化している専門店がいくつもあります。それに習おうと考えたのです。

「ブランドマーケティングは誰かに依頼することもなく、自分でできることを精一杯やろうと思いました。理由は、ガトーショコラという商品の思い入れと、知識は誰にも負けないという自負があったからです。」(氏家)

価格競争に巻き込まれずに済むようなスペシャリテ(シェフにとって思い入れの強いメニューという意味)があってこそ、小さなお店が突き抜けたビジネスモデルを築けることをお分かりいただけましたか。

さて、『ガトーショコラの日』として制定されている、2016年9月21日(水)から来年3月まで、コラボ新メニューが南青山レクサスカフェ(INTERSECT BY LEXUS- TOKYO)で提供されています。この機会に食欲の秋を楽しんでみては如何でしょうか。ガトーショコラを味わうためのワインセレクトもお忘れなく。

尾藤克之
コラムニスト

PS

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