アメリカ自動車販売にみる景気予想

岡本 裕明

アメリカ人にとって自動車は生活の一部でありますが、景気のバロメーターとして住宅販売と並び、その自動車販売分析は絶好の統計でもあります。その上、自動車選びは消費者のライフスタイルや性格、あるいは社会トレンド映し出すミラーであり、かつ、他人の目が最も行きやすい上、自慢もしやすく世の中の動きをとらえやすいとも言えます。

通勤、ショッピング、ゴルフなどで使う自動車は日本以上に知り合いとの接点が多いものであります。駐車場などで「やぁ」とあいさつすれば「新しいクルマだねぇ、乗り心地はどうかね?」という会話が弾むことは請け合いであります。なぜなら、多くの人は一定期間に車を買い替えるため、次は何にしようかと常に頭の中にインプットをすることを心掛けていることもあるでしょう。

アメリカの自動車販売はリーマンショック後のアメリカの景気回復をそのまま映し出したようなものであります。販売台数は当時からぐいぐい伸び続け現在は年間1750万台水準の新車が売れる状態が続いています。これはアメリカの世帯数が1億2500万ですからリーマンショック後にほぼすべての世帯が車を買い替えた数に匹敵します。そして、今回の販売のブームに火をつけたのがライトトラック(ピックアップトラック)と称する分野の大躍進があげられます。

アメリカの自動車販売の実に61%(2016年9月)はこのライトトラックが販売を主導しています。トヨタの9月の成績は前年同月比1.5%増でしたがその内訳をみるとライトトラックの「タコマ」が35%増となっています。あるいは看板車、Fシリーズのトラックを持つフォードは9月、8%減と成績が悪かったのですが、1月からの通期で見ればトラック販売は15%以上伸びています。同社の総販売台数のうちトラックが占める割合は実に42%にも上り、日本の市場とは明らかに違うことが見て取れるかと思います。

その好調な自動車販売もそろそろ息切れするのではないか、と懸念されているのは8月、9月と2か月連続前年同期比割れとなり、これはリーマンショック時以来の出来事であるからでしょうか?更に拍車をかけるかもしれない懸念はガソリン価格の上昇懸念でしょう。

ライトトラックの最大の敵はガソリン価格。価格が安い時期は良いのですが、じわっと上がる原油価格の動向から先行き上昇トレンドを描く可能性はあり、心理的なバリアになりやすくなります。先日の非公式産油国会議で減産の合意がなされており、11月のOPEC総会で正式な形となる見込みです。

では、ガソリンが上がれば人々はライトトラックから燃費が良い乗用車に乗り換えるのか、といえばそのようなライフスタイルの変化は受け入れないでしょう。一度大きいクルマに乗ると小型車に乗れないのが心理であります。となれば、買い替えではなく、じっと同じ車を乗り続けるという選択を取るのも自動車販売の統計に表れやすい傾向であります。

ところでアメリカで新型プリウスの評判がたいそう悪いという記事がブルームバーグに掲載されています。燃費は良いが人に見せたくない車、と思わせたのに対してトヨタは必死の反論をしています。「日本では一番売れている車です」と。が、あのデザインが酷評されているのは事実であり、好き嫌いがはっきり出るともいわれています。事実、アメリカにおけるプリウスの販売台数は2012年をピークに減少を続け、15年末に新型が出たので本来ならば16年はV字回復があるべきですが、今年3か月を残す現在、15年を超えることはありえないほど落ち込んでしまっています。

さて、自動車は住宅に次ぐ高額消費財。販売会社はクレジットヒストリーの悪い人にもオートローンを付けて販売していますが、今後、その焦げ付きや不良債権回収が顕著になれば自動車販売にも影を落とすことになるでしょう。

高水準の販売が6年も続いたこと自体が夢物語のような話で消費者側も買い疲れが出ておかしくないと思います。ちょっとしたきっかけで販売が落ち込みやすい状態でありますので原油価格の動向次第でアメリカの消費をリードしてきた自動車販売が調整期に入ることはあり得るでしょう。

金利は12月に引き上げる公算はありえると思っています。よって、ローンの金利にも多少の影響は出るわけでアメリカの景気が一つの節目を迎えつつあるように見受けられます。

オバマ大統領もリーマンショック冷めやらぬ時期に就任しました。次の大統領も厳しい景気のシャワーが待っているのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月6日付より