【映画評】ジェイソン・ボーン

渡 まち子
Jason Bourne

世間から姿を消して暮らしていたジェイソン・ボーンの前に、CIAの元同僚ニッキーが現れ、CIAが世界中の情報を監視・操作する事を目的とした極秘プログラムが始動したこと、さらにボーンの過去にまつわる衝撃的な真実を告げる。再び姿を現したボーンを追うため、CIAはボーンの追跡を開始。追跡をまかされた若手エージェント、リーは、ボーンを再び組織に取り込もうと接触を図るのだが…。

CIAの暗殺者養成極秘プログラム・トレッドストーン計画によって生み出された最強の暗殺者ジェイソン・ボーンの孤独な戦いを描く大人気アクション・シリーズの新章「ジェイソン・ボーン」。旧3部作は記憶を失ったボーンが全ての記憶を取り戻すまでを描いたが、新シリーズのスタートとなる本作では、ボーンがトレッドストーン計画に志願した理由と、ボーンの父の死の新たな真相に迫る物語になっている。

やはりボーン・シリーズは、マット・デイモンとポール・グリーングラス監督でなくては!と思うファンの一人としては、この新シリーズのスタートは心から喜ばしい。リアルを追求してきた過去作同様、世界中を監視するプログラムという、生々しすぎる設定や、ギリシャの抗議デモに紛れ込むボーンの姿は、現実に起こっている出来事としっかりとリンクして、臨場感たっぷりである。さらに、ラスベガスでのカーチェイスのド迫力には、驚かされた。約10年、待たされただけあって、期待感がハンパないので、何を見ても興奮してしまいがちだが、落ち着いて考えると、マット・デイモンはさすがにちょっと老けたと感じる。アクションの創意工夫も物足りない。やはりもう少し早くこの新章をスタートさせるべきだったのではなかろうか。

それでもボーン・シリーズのストーリーのリアリティーは秀逸だ。自分で自分の首をしめるかのようなCIAの作戦とその後始末、ハッキングに対するそれぞれの思惑、殺人と憎しみが新たな因縁となるボーンと暗殺者の関係は、まるで現代アメリカの病んだ姿そのものではないか。上昇志向の強い切れ者エージェントのリーの、ストイックな仕事ぶりと暗躍がとびきりクールで、オスカー女優のアリシア・ヴィキャンデル演じるリーのニコリともしない冷徹な表情が、彼女が敵か味方が最後までわからないというサスペンスの緊張感を増加させてくれた。
【70点】
(原題「JASON BOURNE」)。
(アメリカ/ポール・グリーングラス監督/マット・デイモン、トミー・リー・ジョーンズ、ヴァンサン・カッセル、他)
(リアリティー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。