【映画評】お父さんと伊藤さん

2016年10月11日 06:00
お父さんと伊藤さん (講談社文庫)

書店でアルバイトをしながら気ままに生きる彩は34歳。アルバイト先のコンビニで出会ったバツイチ・54歳の伊藤さんと付き合っている。二人は、いつのまにか同棲し、特に将来のことを話し合うことはないが、古いアパートで穏やかに暮らしていたが、ある日、彩のお父さんが、兄夫婦の家を追い出され、彩のアパートに転がり込んでくる。伊藤さんの存在に対して驚くお父さんだったが、この家に住むといって譲らない。こうして彩、お父さん、伊藤さんの奇妙な共同生活が始まり、お父さんと伊藤さんの間に不思議な友情が芽生える。だがある日、お父さんが突然行方不明になってしまう…。

ヒロインと歳の離れた同棲相手、ヒロインの父親との奇妙な共同生活を描く「お父さんと伊藤さん」。原作は中澤日菜子の同名小説だ。34歳のヒロイン・彩は、正社員や結婚などに価値観を見出さず、自由きままに平凡に、でも穏やかに毎日を暮らしている。この肩の力が抜けた感じがとてもいい。同性相手の伊藤さんもまた、給食センターでアルバイトをしながら、これまた淡々と日々を送っている。バツイチであることや、子どもがいること、彩のお父さんが行方不明になる大ピンチには、どこからともなく情報を得て、タダモノじゃない感じを醸し出すが、そのことは本作の重要事項ではない。

お父さんと伊藤さんのとぼけた友情が微笑ましいが、爆弾のように激しい性格のお父さんが行方不明になってからは、それぞれが家族の在り方について真剣に考えるようになる。お父さんが大事に抱えている箱の中身は何だろう。お父さんはいったい誰と暮らすのが望みなのか。彩と伊藤さんの関係は新たな展開を迎えるのか。答えを観客が追い求めても、映画ははっきりとした結論を提示しない。この演出がリアルだ。

年老いた(少しボケ気味)親への接し方や、アラサー女性の生き方に、もともと正解などないし、何をもって成功、あるいは幸せとするかなど、個人差があって当然である。無理に頑張る必要はないが、日常を大切に生きていくことは忘れてはいけない。この映画、ボンヤリとユルい話に見えて、なかなか鋭い佳作だ。ヒロインを自然体で演じる上野樹里、ひょうひょうとした伊藤さん役のリリー・フランキー、すっとぼけているのに哀愁があるお父さん役の藤竜也のアンサンブルがいい味を出している。
【70点】
(原題「お父さんと伊藤さん」)
(日本/タナダユキ監督/上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也、他)
(自然体度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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