クリムトの名画「接吻」が観えた!

ハプスブルク家に仕えていたプリンツ・オイゲンの夏の離宮、ウィーンのベルヴェデーレ宮殿内の博物館にはグスタフ・クリムト(1862~1918年)の有名な絵画「接吻」(1908年の作品)が展示されているが、その絵画「接吻」を3D印刷技術でRelief(浮彫細工)を制作し、視覚障害者にもクリムトの名画を鑑賞できるようになったという。同博物館が12日、発表した。

▲3D印刷でレリーフ制作されたクリムトの名画「接吻」

▲3D印刷でレリーフ制作されたクリムトの名画「接吻」

視覚障害者が自由に博物館を訪問し、その芸術品を楽しめるように3D印刷技術を駆使してレリーフを制作する。これは欧州連合(EU)が進めてきたAMBAVis (Access to Museums for Blind and Visually Impaired People)と呼ばれるプロジェクトだ。野心的な同プロジェクトには、経済研究機関、 ベルヴェデーレ博物館、オーストリアとドイツの「視覚障害者協会」、マンチェスター博物館 そして非政府機関(NGO)などが参加している。

▲クリムトの絵画「接吻」(右)

▲クリムトの絵画「接吻」(右)

ドイツの「視覚障害者協会」芸術担当者のライナー・デルガド氏は、「視覚障害者に芸術鑑賞を可能にさせる新しい道が切り開かれた」と今回の試みを高く評価している。ちなみに、絵画を3D印刷技術でレリーフ制作できるまで2年の研究期間を要したという。

例えば、「接吻」のレリーフは42cm×42cmの大きさで、構成から図案までピクセル(画素)レベルの正確さで再現されている。そのうえ、視覚障害者がそれを触れば、特別な指追跡技術(Finger Tracking Technologie)が作動して、音響情報(Audioinformation)が飛び出してくる、といった具合だ。

ベルヴェデーレ宮殿博物館の3D絵画制作プロジェクトは今回、英国のマンチェスター博物館との連携で行われたが、将来は博物館の多数の絵画を3D印刷技術でレリーフを制作し、視覚障害者に提供するという。

もちろん、近い将来、視覚障害者自身が自宅で3D印刷機を利用して博物館のHPから必要なファイルを入手し、レリーフを制作し、それを鑑賞することも可能だ。

博物館を年に1回訪問する視覚障害者は全体の5・5%に過ぎなかったが、博物館で展示された絵画が3D印刷でレリーフされれば、博物館を訪問する視覚障害者が確実に増えるだろうと予想されている。その経済的効果は4億ユーロの利益を博物館にもたらすといわれているほどだ。

なお、当方はこのコラム欄で「メロディーが聞こえた!」(2016年5月3日参考)を書いた。「聴覚障害者には楽聖ベートーヴェンの音楽もモーツァルトのオペラも楽しむことが出来ない。聴覚障害者はメロディーのない世界で生きてきたが、その聴覚障害者に朗報が届いた。聞こえない人にも音楽が享受できるようになるシャツが開発された」と紹介した。そして今回、視覚障害者にクリムトの絵画を楽しむことができる道が開かれた。科学技術の発展によって、全ての人々が芸術を享受できる日が到来してきたわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。