【映画評】ダゲレオタイプの女

渡 まち子

ダゲレオタイプの写真を撮り続けている風変わりな写真家ステファンのもとで働き始めた青年ジャンは、ステファンの娘で写真のモデルをつとめるマリーに惹かれる。マリーは、写真のために長時間、拘束器具に身を委ねてポーズをとるという苦行に耐えていた。自分の人生を歩みたいマリーを自由にさせたいという思いから、ジャンは、彼女をパリ郊外の古い屋敷から連れ出そうとするが…。

特殊な撮影方法に固執する写真家とそのモデルを務める娘、娘に恋した青年がたどる悲劇的な愛を描く「ダゲレオタイプの女」。独特のホラー映画で世界的にも評価が高い黒沢清監督が、全編フランス語、仏人キャストで撮り上げた初の海外作品だ。ダゲレオタイプとは世界最古の写真撮影法で、長時間の露光を必要とするため、その間被写体を拘束する。直接銅板に焼き付けるのその写真は、世界にひとつしか残らないという。パリ郊外にある古い屋敷にこもり、そんな写真を撮り続けるステファンは孤高の芸術家だが、かつて被写体だった妻ドゥニーズが自殺したことから妻の幻影におびえている。黒沢清作品の特徴でもある、どこか寒々しい空気感と不穏な気配は本作でも健在で、それは、現実と幻影、生と死の境界線を限りなく曖昧にしてしまうのだ。

永遠を焼き付けるダゲレオタイプの写真に写る古風な衣装の女性の姿はゴシック・ホラーのようだが、幻影のような存在の女性に愛を捧げる青年の恋は、むしろ、「雨月物語」にも通じる日本の怪談噺を思わせる。マリーを演じる、はかない美しさをたたえた女優コンスタンス・ルソーの姿は、最初に登場したその時から、生死を超えているかのよう。ホラーテイストだが、クラシックな美しさをたたえた恋愛物語に仕上がっている。
【70点】
(原題「THE WOMAN IN THE SILVER PLATE/LA FEMME DE LA PLAQUE ARGENTIQUE」)
(仏・ベルギー・日本/黒沢清監督/タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、他)
(ラブストーリー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月18日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。