米国の労働参加率は、高圧経済で回復するのか

2016年10月23日 06:00

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バロンズ誌、今週はカバーに半導体メーカーの推奨銘柄を挙げる。日進月歩の半導体メーカーと言えば競争が激化し再編が進むなかで速く、改良が進み、より高度な技術を盛り込んだ勝ち組はどこか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は高圧経済と労働市場に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。


失われた米国労働者の謎—The Mystery of the Lost American Workers

金槌しか持っていないなら、あらゆる問題は釘にしか見えないだろう。中央銀行にとっても同じだ。彼らの道具はマネーだが、何兆ドルをもってしても全てを解決できない。

とはいえ、中銀は挑戦をやめない。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は”高圧経済(high-pressure economy、供給より需要が上回る状態を維持し投資などを進める経済、転じて物価上昇や労働市場の加速を許容する考え方)”の導入により、低迷する経済成長をある程度改善できるとの考えを示した。特に、働いていないだけでなく労働市場にすら参加していない多くの人々に影響を与えうる。

イエレンFRB議長が”高圧経済”を通じた金融危機後の経済拡大策に言及した一方で、次回利上げの機会が迫る。11月1〜2日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での可能性はゼロに近いが(10月ベージュブックでは、米大統領選が不透明要因として登場)、12月12〜13日の会合では68%の可能性が織り込まれいてる。

利上げペースの減速に対しイエレンFRB議長が与えた弁明によると、力強い成長は将来への自信を高め企業投資の拡大につながるというわけだ。同時に研究開発にも資金が向けられ、スタートアップ企業の業績加速につながる。

イエレンFRB議長の真の狙いは、労働市場にある。いわく「(需要と供給のバランスが)ひっ迫した労働市場は様子見でいる潜在労働者を市場へ戻し、効率的な転職を推進し、生産性が増すとともに雇用のマッチングが進む」という。

転職が生産性を高めるという認識は別として、イエレンFRB議長は非労働力人口にターゲットを置いているのだろう。より多くの人々が労働市場に参加すれば、雇い主の選択肢も広がり適任者が見つかりやすくなるというものだ。

低賃金職にも、好影響を与えるだろう。教育水準が低く、マイノリティで、犯罪歴のある層にも恩恵が生じる可能性もある。ゴールドマン・サックスのエコノミスト、デビッド・メリクル氏とアビシャ・タッカル氏によれば、長期的な失業者は失業者全体の4分の1(9月時点で24.9%)と、前例のない水準に及ぶ。労働参加率自体(9月こそ62.9%と6ヵ月ぶりの高水準だったが)、2015年9月には62.4%と女性が労働市場に完全に組み込まれていなかった1978年以来の水準まで落ち込んだ。

労働参加率と非労働力人口に占める今働きたい人数、金融危機後に大きな変化。
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(作成:米労働統計局よりMy Big Apple NY作成)

イエレンFRB議長が”高圧経済”について言及したボストン連銀のカンファレンスでは、オバマ米大統領の経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたプリンストン大学のアラン・クルーガー氏が”あらゆる労働者はどこへいった?(Where have all the workers gone?)”と名付けた論文を発表した。クルーガー氏によると、金融危機後の失われた雇用の5分の4は人口動態によるもので、ベビーブーマー世代の引退を挙げている。ただし65歳以上のベビーブーマー世代は、低水準であるものの上昇中だ。

クルーガー氏は失業率が9月に5%へ上昇した点について、非労働力が労働市場へ復帰してきたとして評価する。しかし、21〜30歳の男性において労働参加率は2014年10月までの過去10年の間に89.9%から82.3%と7.6ポイントも落ち込んだ。雇用に最適な知識や技能を習得するためであり、教育にかける時間は週当たり5.3時間に及ぶ。同時にゲームに費やす時間も増え、週当たり6.7時間と3.1時間の2倍以上に達した。TVを視聴する時間は2時間減少しつつ、21.7時間だった。

いずれにしても産業関連の職は1970年代から衰退し、金融危機後に発生した事象ではない。いずれにしても、労働市場には根深い問題がある。労働市場に参加しない若い世代はソファに座ってゲーム三昧野路間を楽しみ、その間に年老いた世代は薬を服用し痛みを和らげつつ、低金利によってもたらされる高圧経済に苦しまなければならない。

10月17〜21日週のマーケットは、何事もなく引けを迎えた。ダンキン・ドーナツは決算結果が市場予想に届かなかった理由に米大統領選を挙げたが、それが本当ならハネウェルに続き通期の本業での売上見通しを従来の2〜4%から0〜2%に引き下げたゼネラル・エレクトリック(GE)はどうなるのだろうか。

少なくとも多国籍企業は、再燃するドル高という重荷を背負っている。ドル実効為替レートは過去3ヵ月間で3%上昇し、1月からの下落をほぼ相殺した。ドル実効為替レートはユーロや円の比重が大きいものの、人民元の対ドルでの下落も見逃せない。人民元はドルに連動(2015年12月にドル以外の通貨バスケット制ヘの移行を発表)する傾向があれば、尚更だ。

ドル高は多国籍企業の業績だけでなく、原油先物相場にも悪影響を与える。今のところ消費者物価指数(CPI)は原油先物が50ドルを回復した流れを汲み改善を続け、バークレイズはCPIの年末予想を従来の1.5%から2.3%ヘ引き上げた

住宅や医薬品の価格も、今後はインフレを押し上げるだろう。Fedにとっては、利上げを先送りしづらい環境が出来上がりつつある。米債市場はこうした状況を織り込んでいないが、米大統領選後にあらためて考慮すればよい。


イエレンFRB議長の”高圧経済”発言の経て、フィッシャーFRB副議長が異議を唱える見解を表明しました。FRB体制の綻びを示す事例として取り上げられる見方もあるでしょうが、筆者はイエレン体制でのバランス感覚を感じさせます。料理が得意なイエレンFRB議長、塩味を甘みを引き立てるように、フィッシャー副議長の発言で緩和寄りスタンスのうま味を引き出しているかのようです。

無理に料理を例えに出さずとも透けて見える思惑は、”利上げは継続でもペースはゆるやか”というメッセージ。12月利上げを前に、利上げの頻度や回数への過剰な思惑を回避したいのでしょう。その裏に、ドル高を抑制したいFedの意図が見え隠れします。2015年12月の利上げ開始の年明け1月、マーケットが急変しリスク選好度の低下に伴うドル高を招いた事実を踏まえれば、納得です。しかも、足元でドル高がひたひた進行中ですから、念入りに舵取りする必要があるのでしょう。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が絶妙に量的緩和(QE)延長とテーパリングの可能性を残しましたが、ユーロ安加速に伴うインフレ一段高を回避したいECBの思惑と、一致しますね。

(カバー写真:John St John/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年10月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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