マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門プリンシパル、佐々木玲子氏 インタビュー(3)

2016年10月27日 06:00
マーサージャパン 佐々木玲子氏

マーサージャパン 佐々木玲子氏

組織・人事面を中心にクロスボーダーM&Aの支援を行ってきたマーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門プリンシパル、佐々木玲子氏が語る、日本企業が目指すM&Aの新たなステージとは何か。連載第三回は、事業や組織の強化・再編という課題と取り組みについて話を伺った。

日ごろのガバナンスを含めた、当たり前のことの積み重ねがM&A成功のカギ

――M&Aの売り手側に立った企業は、人事面ではどんな取り組みが求められるのでしょうか。

事業会社の場合、ファンドのように売却価格だけで判断して売却するわけにはいきません。売却対象事業の従業員、それ以外の事業の従業員、組合・ワークスカ ウンシル等、目配りすべきステークホルダーは多岐にわたり、ステークホルダーとの中長期的関係性を考慮する必要があります。そのため、売却に際しては海外 の売り手企業は、専門の人事アドバイザーのサポートを得て、ディールが始まる以前から入念な準備を行うことが一般的です。

人事的に必要な準備の例を挙げると、まず各国の売却対象となる事業の従業員や、他部署と共通の間接機能のうち、売却に伴って移管が必要な従業員の確認があ ります。その上で、適用されるストラクチャーを踏まえて、各国の法的な要件から、どのような転籍・移籍のプロセスとなるのか、雇用条件の維持・変更におけ る要件、対象者や組合・ワークスカウンシル等とのコミュニケーション上の要件も理解しなくてはなりません。

年金をはじめとする福利厚生にも注意が必要です。日本でいうところの健康保険組合や厚生年金基金のような複数企業の従業員向けプランに加入している場合、 脱退するには、これまでの積み立て不足分の補填を求められることがあります。ディールの前に準備する時間を持てる売り手側は、年金・福利厚生制度をどう処 理すれば、自社および転籍する従業員の利益につながるかを検討しておくべきです。

――転籍となる従業員にとっては、転籍条件は重大な関心事です。

売却される事業部門に関連する従業員は、新しい事業体に移る人と、元の会社に残る人に分かれます。売却計画の検討はオープンに進められるものではないの で、それぞれの従業員、組合に対して、情報をどのタイミングで、どんな形で伝えるのか、といったコミュニケーションの取り方も大切です。特に転籍条件につ いては、買い手との交渉で、妥当かつ合理的なものにする必要があります。処遇に対する従業員の期待の程度を把握し、一定期間は報酬水準を維持するといった 売り手として譲れない条件を、ディール前にあらかじめまとめておけば、交渉時にポジションが取りやすくなります。

また、事業・資産譲渡の場合、転籍や移籍を拒否する権利を従業員に認めている国もあります。その場合は、転籍や移籍を促進するボーナスや退職金加算 などのインセンティブの設定も必要になります。さらに、売却に伴うコストをどういう形で交渉に載せていくかも、より時間のある売手の方が事前に検討できる ポイントでしょう。

転籍条件において留意すべき点としては、あまり転籍条件をよくし過ぎると、それが自社において前例となってしまうことです。後続の売却時には前例を踏まえ た同様の条件を期待されてしまい、問題の種になりかねません。条件設定は売却する事業内容やタイミングによって変わってきますが、各国の市場慣行を踏ま え、他とのバランスに配慮する必要があります。

――最後に、M&Aを有効に活用してきた米系多国籍企業と、ようやく慣れ始めた日本企業との違いはどこにありますか。
米系企業の場合、本社人事部門が子会社の人事について相当程度把握しているという具合に、ファンクション軸でガバナンスを利かせているので、かなりの程度 可視化が進んでいます。一方、特に人事については現地任せになりがちな日本企業は可視化が不足していて、事業の切り離しを検討する際には、情報を一から収 集しなければならなくなります。売却の計画があることを公開できない段階では、一連の情報収集にはかなりの困難を伴うでしょう。日頃からガバナンスを十分 に利かせているかどうかは、M&Aのやりやすさという点に大きく効いてきます。

ガバナンス強化、可視化の問題は、あまり緊急性を感じないので、取り組みが遅れている企業は多いかもしれません。しかし、M&Aが経営の重要な手段となった今、その重要性については改めて認識されるべきではないかと考えます。

インタビュー・編集:M&A Online編集部

d21798f1-69fa-4b93-ac90-7e80a7d82021佐々木 玲子(ささき・れいこ)略歴
マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門プリンシパル
SAP ジャパンを経て現職。国内外の企業のM&Aに伴う組織・人事全般のコンサルティングに従事。 近年のクロスボーダーM&A案件ではデューデリジェンス、経営者報酬・リテンションおよび報酬ガバナンス、従業員コミュニケーションやグローバル 人材マネジメントに関わる支援多数。著書に「人事デューデリジェンスの実務」中央経済社(共著)、「M&Aを成功させる組織・人事マネジメント」 (日本経済新聞社、共著)、「合併・買収の統合実務ハンドブック」(中央経済社、共著)がある。
国際基督教大学教養学部卒、London School of Economics and Political Science (LSE)組織心理学修士(MSc.)

グローバルM&Aコンサルティング マーサージャパン


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年10月26日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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