電通の残業規制は逆効果。新しい働き方を提案する --- 宮寺 達也

2016年10月28日 06:00
電通消灯

午後10時に消灯した電通本社(JNNニュースより:編集部引用)

電通の新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した事件は、異例とも言える労働局の立ち入りに発展し、電通は「労働時間の上限を5時間引き下げ65時間にする」「全館午後10時消灯」とする残業時間規制を発表した。

これに対して、「そもそも70時間の上限が守られていなかったのだから、引き下げても効果は無い」「労働基準法36条の特別条項を廃止し、長時間残業の規制強化を」という意見が多い。

しかし、私はただ労働時間を規制しても、過労死防止にはならないと強く主張する。私のメーカー時代の経験から、むしろが、「過労死するまで仕事をがんばってしまう真面目な人」には逆効果である。

実際に残業時間を規制した思い出

2016年まで私が勤務していた大手の事務機器メーカーは、2015年に「午後8時以降の勤務を原則として禁止する」という制度を導入した。それまで終電までの残業が普通だったので、この制度を導入すれば皆効率良く働き、残業代が減ると上層部は期待したのだろう。だが、結果は逆だった。

<残業規制で何が起きたか?>

・新人を含む若手は8時になったら気兼ねなく帰るようになった。

・だらだら残業していた「ソリティア社員」も8時に帰るようになった。

・新人やソリティア社員が受け持っていた雑務が終わらず、中堅社員がフォローした。

・中堅社員は早朝出勤でリカバリーし、サービス残業が増えた。

・「原則として禁止」なので、事前に申請して課長の許可があれば残業OKだった。中堅社員は毎日、残業理由を申請するという雑務が増えた。

・気が付いたら、制度開始前に比べて月10時間ほど残業時間が増えていた。

 

こんな感じで、一部に恩恵を受けた社員はいたものの、元々限界ギリギリで頑張っていた真面目な中堅社員にとっては完全に逆効果だった。もちろん私は逆効果側だった。

残業時間を抑制すれば、高橋まつりさんのような若手に対しては過労死を防ぐ効果はある。しかし、中堅社員の負荷はより増してしまうため、高橋まつりさんの後に過労死が発覚した電通の30歳社員や関西電力の40代社員といった人を救うことは難しい。

中堅社員は何を望んでいるか?

では、どうすれば過労死ラインを超えてバリバリ働いている中堅社員を救うことができるのか?

そのためには、中堅社員の本音を聞き出し、その希望をしっかりと叶えることが必要だ。

 

<中堅社員の本音>

・自分の業務には誇りを持っているので、とことんやらせて欲しい。

・残業は100時間くらいまでは大丈夫。

・残業代が魅力的。というか、残業代前提で生計を建てている。

・意味の無い雑務や会議を無くして欲しい。

・無能な上司の存在が何よりも苦痛。

 

私自身の経験とこれまで見聞きしてきた中堅社員の話をまとめると、こんなところだ。

世間ではサラリーマンは「やりたくない仕事を無理矢理やらされている」というイメージが強いかもしれない。確かにそういう人もいるが、会社の業績や技術を支えている中堅社員は、強烈なプロ意識を持ったスペシャリスト達なのだ。

だから、「労働者は可哀想だから、勤務時間を減らしてあげよう」なんて言われてもピンと来ないし、そんな制度を導入しても上手くいかないだろう。

中堅社員の過労死を防ぐための新しい働き方

しかし、現実にこういった中堅社員が自分の限界以上に頑張りすぎ、過労死するという悲劇が続く以上、今の働き方を続けては駄目だ。

これからは中堅社員の希望を叶えつつ負荷を下げながら、会社の業績は悪化しない、新しい働き方が必要だ。これを実現する、私なりの提案をまとめてみた。

その1 「残業代を下げて、基本給上げる」

私の場合、メーカー勤務の最後の年は、残業時間80時間、基本給30万円、残業代27万円という具合だった。この残業代はやはり魅力だ。

「ワークライフバランスのために早く帰ろう」という意見は多いが、実際は「ワークライフバランスのために多額の給与が欲しい」と思う人が多い。長時間残業で家族になかなか会えなくても、その残業代があるから住宅ローン、教育費といった家族が希望する生活を実現できているからだ。

そこで、「最初から100時間程度の残業代込みの基本給とし、これまでと同じ成果を求める」給与制度を提案したい。

これならば、会社としては売り上げと人件費が変わらず、損しない。逆に社員としては給与が変わらない分、、少しでも効率的、生産的に働いた方が得なので、早く帰宅するモチベ―ションが発生してお得だ。

なお、月100時間超といった長時間残業は、健康管理の観点から厳しく制限すべきだ。

その2 「業務入札制度の導入」

メーカー勤務時代にとにかく苦痛だったのが、定例会議、勉強会、議事録作成、カイゼン活動、週末清掃、といった雑務だった。こういった雑務は若手・ベテラン関係なく、ローテーションで行われていた。

正直、「なぜ、こんな誰でもできる仕事を私がやらなければいけないのか?」と思っていた。私が他人の雑務を代わることはできても、他人は私の専門業務を代わることはできない。私が雑務をするだけ、私の帰宅時間は遅くなる。

そこで、「全業務に社員が入札を行い、担当者を決める」制度を提案したい。

これならば、私は自分の専門業務にのみ入札し、私の労働時間は最小になるだろう。雑務は、若手やソリティア社員が入札するだろう。

これならば、会社の売り上げが変化せず、人件費が下がるため、業績は向上する。

なお、過去に実際に提案したら「仕事に貴賎無しだ。お前は雑務を馬鹿にしているのか?」「誰も入札しなかったらどうする?」と怒られた。

「そこまで雑務に価値を感じているなら、あなた(ソリティア課長)がやれば良いのに。」と言ったが、無視された。

その3 「上司選択制の導入」

筒井さんも書かれているが、「張り切る無能上司」の下で働くのは本当に辛い。私のメーカー時代にも「無能な働き者の、ソリティア課長」がいた。そいつは「読点(、)が多くて読み辛い。」「フォントが揃っていない。」としか指摘できない無能だったが、書類は必ずそいつのチェックを通す必要があり、多大な時間を無駄にした。

今の大企業の課長・部長は「ソリティア上司」が多く、、中には、現場の足を引っ張るだけの給料泥棒がいる。

そこで、「部下が上司を選ぶことができる制度」を提案したい。

ほとんどの上司はいてもいなくても同じなのだから、部下がどの上司を選んでも、現場のオペレーションには差は発生しない。シン・ゴジラでも主人公が言っていたが、「我が国の最大の力は、この現場にあり」なのだ。

しかし、自分の意思で選んだ上司なのだから納得感は高まる。これはストレス軽減に大きく寄与する。高橋まつりさも上司を選ぶことができていたら、悲劇を回避できたかもしれない。

また、上司も選ばれるという競争に晒されることによって、良い上司になろうと努力することが期待できる。全くもって、良いこと尽くめだ。

以上、これが私の提案する新しい働き方だ。

現在、電通事件を受けて過労死を防ぐための議論が活発に行われている。安倍政権も働き方改革の議論を進めている。どうか、その議論の際には今の日本を支えている現場の社員の意見を大事にして欲しいと思う。

プロフィール
宮寺 達也
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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