M&Aコンサルタントが語るMBOの最新事情(下)事業承継に使えるのか?

2016年10月30日 06:00

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自らが育てた経営陣に会社を承継させようと、MBOを考える未上場企業のオーナーは少なくないだろう。しかし、実際に活用するには資金調達をどうす るかというハードルもある。果たして事業承継にMBOを使えるのか。ストライクのM&Aコンサルタント、井上美沙氏が解説する。

今回は、未上場企業におけるMBO(マネジメントバイアウト)について解説したい。
前回紹介したMBO指針は上場企業でTOB(株式公開買い付け)を伴うMBOが対象である。未上場企業におけるMBOは視野にない。

単純に未上場企業のMBOが社会的に取沙汰されることが少ない為というのみならず、そもそも未上場企業においては、少数株主を別にすると、上場企業ほどには株主の保護の要請が強くないためだ。

未上場企業においてはたいていオーナー社長が誰よりも会社の情報を有している。加えて、株式が非公開である以上、誰かに売却を強制されることもない。価格 決定においても、MBOそのものに関しても、オーナー社長がイニシアチブ(主導権)を持っている。そのため、上場企業における非公開化を伴うMBOのよう に株主が一方的に弱い立場に立たされることがない。

■未上場企業、メリット乏しく

それでは未上場企業にはMBOが馴染むかというと、一概にそうは言い難い。

上場企業が裁判沙汰になってまで行うMBOだが、対象会社にとっては上場維持コストの削減や、株価の変動を気にせず中長期的な経営戦略を実現しやすいこと、株主にとってはMBOプレミアムの価値を享受できるなど、それ相応のメリットがある。

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一方で、未上場企業においては、MBOのメリットは決して多くはない。自らが育てた経営陣が会社を承継出来るという点に関しては魅力を感じるオーナーも少なくないだろう。では、そのメリットと比してデメリットはどれほどか。

ここでMBOのスキームについて確認したい。

まずは経営陣が買収の受け皿会社となるSPC(特別目的会社)を設立し、このSPCが現オーナーから対象会社の株式を譲り受けて子会社化する。その後2社が合併することでMBOが完了する。

スキーム自体はシンプルだが、問題は資金調達である。

経営陣には通常それほどの資金力がないため、金融機関から買収資金を調達するのが一般的だ。未上場企業においては、対象会社のキャッシュフローを担保に借 入を行うLBO(レバレッジド・バイアウト)という訳にも行かず、借入の際には対象企業の資産を担保とすることになる。よって、対象会社に資産がない場 合、あるいは借入過多の場合には資金調達が行えず、MBO自体を断念せざるを得ない。一方で、問題なく資金を調達出来た場合も手放しには喜べない。この借 入はそのまま合併後の対象会社の借入となる。

■借入金が重荷、最悪のシナリオも

対象企業が優良企業であればあるほど株価は高く、買収資金の為の借入もかさむ。まず、BSが崩れるのは避けられない。なおかつこの借り入れは買収後 の対象会社のキャッシュフローから返済をせねばならない為、損益計算書(P/L)、キャッシュフローの悪化も否めない。MBOの際の借入の返済がキャッ シュフローを圧迫し、本業に必要な投資さえままならず、事業そのものが傾く――そんな最悪のシナリオも決して他人事とも言い切れない。

せっかくなので資金調達についてもう少し検討しよう。

未上場であってもそれなりの規模のある優良企業なら、MBOにファンドを活用する手もある。この場合には対象会社の貸借対照表(BS)はもちろん、 P/L、キャッシュフローも毀損しない。ただし、出資比率を考えれば、経営陣の議決権は当然に希薄化する。経営権を握るのはファンドである。

当然ファンドは数年後にエグジット(売却)を行う為、対象会社で株式を買い取るか、第三者に株式を転売されるかいずれかを選ぶことになる。前者であれば、 対象会社に十分なキャッシュがなければ結局借入を行わざるをえない。後者であれば、当初は予想しなかった第三者に経営権が移転する。MBOの目的は果たし て達成出来るのか。

■メザニンファイナンス、コスト高く

近年は金融機関借入や通常のファンドの活用時のデメリットを排する解決策として、メザニンファイナンスの活用も提唱されている。こちらもファンドが 出資することに変わりはないのだが、保有するのは議決権のない優先株式だ。経営陣の議決権は希薄化せず、BS、P/Lも毀損しない。ファンドのエグジット 時までは元本の返済が不要であり、キャッシュフローの負担も軽い。

ただし、優先株式の配当自体は高くつく。一例をあげると、この手法で斯 業大手の某ファンドが求める配当は年に10%である。資本コストとは言え実態は利息であるから、マイナス金利の今日においては、費用対効果として悩むとこ ろだ。当然、ファンドのエグジット時には株式を買い取る必要もある。

MBOの資金調達方法(赤点線は合併ライン)

MBOの資金調達方法(赤点線は合併ライン)

こうした資金調達の問題を根本的に解消するには、SPCでの借入を低く抑える必要がある。そのためには経営陣の自己資金を厚くするか、買収価額を抑 えるかのいずれかだ。前者の難しさから資金調達を検討している以上、現実的なのは後者であるが、オーナーからしてみれば手塩にかけて育てた会社を安く売ら ねばならないことになる。優良企業であればあるほどに、税務上の問題をクリアする手間もさることながら、第三者に売却をした場合とのキャピタルゲインの差 は開く。
自身や会社を理解してくれる経営陣に後を委ねることが出来るのはMBOの大きな魅力だが、同時にキャピタルゲインを求めるならば、委ねる会社は今のままとは行き難い。

MBOを事業承継に活用出来るか否かはオーナーが事業承継に何を求めるか次第である。

文:株式会社ストライク 井上 美沙
編集:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年10月29日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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