大統領がこんなことを言っては.. オランド氏の失言録

2016年11月01日 09:32

« Un président ne devrait pas dire ça… »(仮邦訳「大統領がこんなこと言ったらだめでしょ。。」)というタイトルの本が先月12日に発売されて以来フランスで大反響を呼び、今やベストセラーになっている。(Amazon.frでも売り上げNo.1となっている。)

ル・モンドの調査報道記者である Gérard Davet氏とFabrice Lhomme氏によって書かれたこの本は、オランド氏が国民に対してこれまで隠してきた(がジャーナリストには漏らしていた)「本音」が余すところなく語られている。

従ってこの本の内容はオランド氏が普段公の目に触れるという前提で話すようなことと真逆のことが書かれていたりする。

オランド大統領の「本音」

例えば、「イスラム教には問題がある」(”Il y a un problème avec l’islam”)という、およそ自己の信条の政治的正しさを誇示する社会党の党首の発言とは思えないようなことを言っていたり、しかもそれについてさらに以下のような補足をつけてさらに墓穴を掘っている。

Ce n’est pas l’islam qui pose un problème dans le sens où ce serait une religion qui serait dangereuse en elle-même, mais parce qu’elle veut s’affirmer comme une religion dans la République. Après, ce qui peut poser un problème, c’est si les musulmans ne dénoncent pas les actes de radicalisation, si les imams se comportent de manière antirépublicaine…(リンク先記事より引用)

邦訳しよう。

回教(イスラム教)が問題的だというのは、回教がそれ自体において危険な宗教だという意味ではなく、フランス共和国の一宗教であると(つまりカトリックなどと同等の地位を持つ宗教だと)自己主張したがっているからです。また、もし回教徒が過激派の行動を非難しないのであれば、もしイマーム(回教指導者)達が反共和国的に振る舞うのであれば、そのことは問題になると言えるでしょう。

念のために言っておくと、オランド大統領率いる社会党は、2012年の大統領選時には回教徒の間で最も支持されていたのであり、支持率は58%にものぼったと言われている。これはまさに「左翼の偽善」をこれ以上ない見事さで反論の余地のないほど曝け出してしまった稀に見る例である。

失言はこれだけにとどまらない。

Je pense qu’il y a trop d’arrivées, d’immigration qui ne devrait pas être là.(リンク先記事より引用)- (邦訳) フランスにやってくる移民の数が多すぎると思いますね、本来(フランスに)いてはならないはずの移民が。

一体この人はどの口でBrexitを決めた英国に対しカンカンになって怒気を込め、「移民を受け入れろ」などと言っていたのであろうか。本音の部分で正直なのは骨の髄まで偽善で固めているよりもマシではある(と少なくも私は思う)が、結局これが本音なら何故最初からもっと正直にそう言わなかっただろうか。何故同じ本音を共有している人たちを言葉の限り罵倒し非難する側の代表として活動してきたのか。

もしかすると、オランド氏は実はマキャヴェリの君主論に忠実に従う本物の「マキャベリズム」の実行者だったのかもしれない。きっと、それがフランスにおいて政治権力を握る為に必要だったのだろう。実際オランド氏は左派の中にあって、イデオロギー的に「赤」に染まり切らない「バランスの良さ」を上手く生かし見事大統領の地位を手にいれた。彼の目論見は大成功したのだ。そうして欲しいものを得て満足した後であれば、この程度の本音を漏らすことは本人には痛くもかゆくもないことなのかもしれない。

「嘘がつけない」フランス人の国民性?

もっとも、オランド氏がこのように本心を偽って左派代表として大統領になるという偽善を働いたことは、フランス国民にとってはある意味不幸中の幸いであったかもしれない。現にオランド大統領は2015年のテロの際も左派の大統領とは思えないほどテロリストに対して手厳しい反撃に出たし、しかもその際に「極右」とされるFNや右派の従来の主張を飲む形で次々に反テロ対策を実施して行った。またつい最近にも長年「目の上のたんこぶ」となっていたカレーの移民キャンブ(ジャングル)を解散したし、先日もパリ郊外の「スターリングラード」と呼ばれる移民スラムにも警察を投入するなど、移民達が形成してきたスラム街を一掃しようとしている。

同じ社会党の政治家や左派支持層はこのことに対し非常に憤っておりオランド氏の社会党内における支持は落ちるところまで落ちきっている(無名時代と全く同じ)が、しかしラディカルな反移民政策を掲げる右派がそもそも選挙に勝てない仕組みの中で動くフランス政治においては、一見真逆の方向を向いている左派のトップに隠れ反動分子が居座っている状況こそ真に必要な政策をとる絶好の機会である。

とはいえ、フランス国民自身は純粋にオランド氏に「裏切られた」と感じ憤っている者が大多数であろう。右派からしても、オランド氏のやったことに反対しないとはいえ、口先で言うことと行動が真逆の方向を向いている彼を信用することなどできないし、特に経済政策の面で現状以上のことも期待できないので支持する気にはなれないだろう。

もしオランド氏が最初から右派的政策を最も効率良く実施することを目的にその政治人生を歩んできたというのなら大したマキャヴェリストだと感心してしまうところだが、実際のところどういうつもりで政治をやってきたのかはよくわからない。

いずれにせよ、フランス人というのはルソーの「告白」などにも表現されているように、嘘が下手であるかあるいは最後まで嘘を突き通せない「正直さ」をやっぱりもっているのかもしれない。それ自体はそんなに悪いことではないと思うが、そうはいってもやはり大統領という立場にある以上、他人に口外していいことと胸に秘めておくべきことの区別くらいは持っていて欲しいというのが、彼を大統領に選んだ国民の「正直な」気持ちでもあるだろう。

 

 

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