民進党がTPP法案で戦うためのアドバイス --- 宮寺 達也

2016年11月07日 18:30
民進党TPP反対@毎日

プラカードを掲げて採決に反対した民進党(毎日新聞より引用)

衆院TPP特別委員会は11月4日にTPP承認案・関連法案を可決した。私はものづくり産業に携わるエンジニアの立場として、TPPには賛成だ。しかし、TPPで生活が脅かされ、反対の立場をとっている人たちの意見を無視してはならない。そのためTPPのメリット・デメリットをしっかりと議論し、賛成派・反対派ができるだけ納得した上で批准するのは当然だ。

ところが民進党は「強行採決反対」「失言の山本農相は辞任を」と叫びながらプラカードを持ち出しているだけで、具体的な反対意見が見えてこず、ピント外れな感覚を覚える。

このままではTPPについて議論が深まらないまま批准となってしまう可能性が高く、とても残念だ。そこで、僭越ながら民進党のTPP法案の議論戦略にアドバイスを送りたい。

民進党のTPP政策を調べてみた

まず民進党のウェブサイトを見て、TPPに関する政策を調べてみた。驚いたのは情報量の少なさである。「政策」カテゴリに「衆議院特別委員会におけるTPP協定の強行採決について」と1ページ・19行・655文字の談話が載っているだけである。これは寂しい。ちなみに自民党のウェブサイトでTPPと検索すると、300件のページがヒットする。

なお、民進党の反対内容を抜粋すると、

・自動車輸出で長期間の関税維持を余儀なくされるなど、十分なメリットが無い

・農産物重要五品目の聖域が確保されていない

・政府の情報公開、国民への説明に対する姿勢は極めて後ろ向き

となっている。

さて、ではこの政策を改善するアイデアを考えてみよう。

民進党のTPP政策へのアドバイス

考察に当たっては、NHKのウェブサイト「今さら聞けないTPP 基本がわかる18のカード」を参考にした。非常によくまとまっており、TPPを理解するためにお勧めのサイトだ。

その1 自動車輸出の関税問題は削除しよう

TPPにおける日米の自動車輸出については、「日本から輸出している自動車にかけられている2.5%の関税を25年かけて段階的に撤廃することになりました」となっている。

わずか2.5%の関税がどうなろうが、1ドル80円の円高を乗り切ってきた日本自動車メーカーにとっては大差無い話だ。

現に、日本自動車工業会の池史彦会長が「協定を生かし、日本経済の発展に貢献していく」と歓迎コメントを出している。よって自動車輸出の関税問題で与党を攻撃するのは得策ではないので、削除するべきだ。

その2 農産物重要五品目に関しては、生産者保護策の議論をメインに

日本の農産物の中で、TPPの影響が特に大きいものが「コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖」であり、これが農産物重要五品目である。この重要五品目の保護のため、2013年4月、国会は政府に対して農林水産物への配慮を求める決議を行っている。

そしてTPP交渉の結果、重要五品目では594品目のうち71%に当たる424品目は関税撤廃の例外となったが、100%例外とはならなかった。

この結果については、農業団体からも反対意見が出ており、確かに検討に値する。

しかし、私は重要5品目に関する合意は妥当なものと考えている。

まず、「原則、全ての関税撤廃」でスタートしたTPP交渉において、重要五品目の全てで譲歩を勝ち取っている。これはオリジナルメンバーとしての参加を決断したことと、甘利元TPP担当国務大臣の努力の賜物である。これを「聖域絶対。関税は絶対に維持しろ」と言っても、「楽な立場からただ反対を言っているだけ」の印象が強いので、お勧めできない。

重要五品目については、生産者保護策の是非を議論のメインにするべきだ。この生産者保護策は、

コメ:輸入枠は増えるものの、高い関税が維持されるため特に影響は少ない

麦:国が一括で輸入して国内業者に販売する「国家貿易」の仕組みを維持するため、影響は少ない

牛肉・豚肉:輸入量を超えれば関税を引き上げる「セーフガード」という制度を導入し、影響を抑える

乳製品:輸入枠は拡大するが、国家貿易の仕組みは維持し、影響を抑える。

砂糖:価格調整に関する制度を拡充し、影響を抑える

となっている。

民進党には、生産者の立場で「保護策が不十分だ」と攻めるのではなく、消費者の立場で「保護策が過剰だ」と攻めることをお勧めしたい。

TPP法案の保護策が実施されれば、重要5品目の流通量はこれまでと大きく変わらない可能性が高い。これは消費者にとってはマイナスだ。

例えば、近年バター不足問題がクローズアップされている。これは日本の酪農家の減少で起きている問題であり、TPPでバターの輸入量が増えれば、問題が解消される可能性は高い。クリスマスシーズンが近づく中、民進党には消費者目線で「もっと輸入拡大を」と与党を攻める作戦をお勧めしたい。

その3 政府の情報公開を追求するのは後回しに

TPP交渉は各国の利害が複雑に絡んでおり、簡単に公開できない内容は多いだろう。ただ、「公開するべきものも非公開にしている」可能性ももちろん有り、これについては国会によるチェックを期待したい。

だが、これはTPP批准後に議論しても良いので、後回しでも問題無い。批准に当たって重要なのはその内容だけなので、今、争点にするのはお勧めしない。

特に、今の民進党がTPPの情報公開を争点にすると「蓮舫代表の戸籍謄本公開しろや」「お前が言うな」と言われる可能性が非常に高いので、避けた方が良い。

その4 著作権についてもっと議論を

TPPで大きな影響が出るのが著作権である。主に「保護期間を作者の死後から70年に延長」「著作権侵害の刑事罰を非親告罪化」という大きな変更がある。

保護期間の延長は現在でも50年であるので、日本ではほとんど影響は無いだろう。やはり、「非親告罪化」が大きな問題だ。

「非親告罪化」が実現すれば、「アニメや漫画などを二次創作する同人誌などの活動に悪影響が出る」と、同人活動を行う人や同人誌ファンを中心に反対意見が強い。一方で、「非親告罪化」によって「オリジナルの著作物の収益に悪影響が出る」ような悪質なケースや、非合法組織の資金源になっているケースの取り締まりが進み、著作者の利益になるという意見もある。

私はこの「非親告罪化」については、「条件付き賛成」の立場だ。上質なマンガ・アニメを楽しみたいから、著作者の負担を減らし、利益を還元したいからだ。

この問題について民進党が問題提起し、著作者の利益と、同人活動への影響を最小限にする「絶妙な線引き」が出来れば、民進党の評価は(特にネットユーザーに)高まるので頑張って欲しい。

頑張れ民進党

TPPは12か国の利害が複雑に入り混じった交渉であるため、「日本にとって100点満点」の結果を取ることは不可能だ。だから日本にとってのデメリットも混じっているため反対意見は必ず出るし、またその人たちの声は大きい。

しかし、民進党がこの反対意見に乗ってプラカードを掲げるだけならば、「やっぱり民進党は何でも反対なんだな」と、多くの国民からの評価は下がってしまうだろう。

私は日本の政治を良くするためには政権交代可能な野党が不可欠と考えている。多くの国民も同意見だろう、だからこそ2009年の政権交代が起こったのだ。

民進党はせめてあの頃の気概を思い出して、「何でも反対」から脱却して欲しい。そのためにもTPP法案の具体的な対案を作成していただきたい。

そのためにも、まずはあの寂しすぎるウェブサイトは何とかしてください。

 

宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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