ナチスは「かっこいい」ので使用上注意

2016年11月08日 17:16

「かっこいい」写真の裏にあるものを考える

3人の写真を見ていただきたい。普通の人は、イケメン、そして制服のかっこよさで、第一印象を「かっこいい」と好感を持つのではないか。彼らは何物か。

(写真1)

Joachim20Peiper

(写真2)

wittmann_22

(写真3) 

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答えを示してみよう。

これはナチスドイツの武装親衛隊の騎士鉄十字章という最高殊勲賞の受賞者の写真だ。これは襟元に下げた黒い十字の勲章だ。

ドイツ人の軍への動員は当時人口8000万人のうち1000万人程度になったが、そのうち7313人にしか叙勲されていない。受勲者は英雄視された。

そして3人はSS(親衛隊)というヒトラーの政権党ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)の軍事組織Waffen-SS(武装親衛隊)の隊員だ。第二次世界大戦中は、アドルフ・ヒトラーを最高司令官とするドイツ国防軍の指揮・統制下にあったが、補給・装備は「党の組織」としてある程度の独自性を認められていた。

ナチスは党組織を使い、武装SSをPR。党員獲得に使った。さらにドイツ国民は20歳(戦時に18歳)からの徴兵だったので、人員確保のためにSSに16-17歳の志願者をを集める必要があった。また外国でもドイツ系住民を中心にSSは募兵したが、それにも活用した。

当時、貴重なカラーフィルム、カラー印刷を使って、全欧州で1ライヒスマルク(300円ぐらい?)程度の廉価で、ブロマイドが売られていた。軍事国家ナチスドイツでは、一種の「アイドル」だったのだ。

写真1は、ヨーヘン・パイパー。終戦時30歳、大佐。武装親衛隊の戦車部隊指揮官。戦後訴追を逃れてフランスに逃れ暮らしたが76年、彼を狙ったテロで殺害される。1944年のドイツ最後の攻勢作戦「ラインの守り」では、先鋒を務めたが、指揮下部隊が米兵捕虜の虐殺事件を起こす。

写真2は、ミヒャエル・ビットマン。1944年ノルマンディーで戦死、大尉。戦車破壊は戦車長として推定138台。全ドイツ軍の中で4位。

写真3は、オットー・スコルツァーニ。終戦時37歳、中佐。顔の傷は当時風習のあった決闘の跡とされる。粗暴な男は、戦場では英雄になった。親衛隊の特殊部隊指揮官で、ムッソリーニの救出、「ラインの守り」作戦では国際法違反だが米兵の服を部下に着せ、後方攪乱を行った。逃亡先のスペインで76年没。

彼らの黒い軍服、銀の線はとても美しい。黒は中世のドイツ騎士団がモチーフに使い、ドイツの土を意味するという。SSの最高指導者ハインリヒ・ヒムラーは、党勢拡大と自己の権力確保のために、親衛隊にエリート意識を持たせようと、軍服の美しさにこだわった。そして建築家、画家を目指して挫折した最高指導者ヒトラーも、ナチス全体の見栄えの美しさにこだわり続けた。おそらくヒトラーも、この制服の美しさを喜んだであろう。

SSは、ナチスが権力を拡大する中で、党の一部局なのにドイツ全体の警察・治安を担当する。そしてドイツの支配が広がる中で、進めた治安活動と称する一説には600万人とされるユダヤ人の殺害、他国の反ドイツ勢力や自国の政治犯殺害なども行うになった

ここで強調したいのは、デザインの力をナチスは理解していたことだ。どの国でもプロパガンダの一貫で、軍装は美しいものになるが、その力を特に活用していた。SSに入隊したのは、モンスターではない普通の青年だったはずだ。青年を入隊に駆り立てた理由の一つは「かっこいい」などの好感であったろう。上記の3人は、治安部門ではないが、いずれも「エリート」にあこがれ、SSを目指したと回顧している。

そしてその青年たちの中の一部が、異様な残虐行為を遂行するようになる。その理由の一つはSSには異様な選民思想、エリート意識があったことだ。それらの形成では残酷さを覆い隠す「かっこよさ」がある程度影響しただろう。

 「化け物」ヒトラーに70年後に踊らされる愚かさ

さて、日本のアイドルグループの欅坂46がナチス風のデザインの制服を着て話題になった。ソニー、また総合プロデューサーの秋元康氏が謝罪した。

(写真4)

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私はジャーナリストの端くれとして、言論・表現の自由を最大限、認め、拡大したいという立場だ。しかし、これらの服は明らかにSSの軍服に類似している。自由の行使は放埒であってはならない。使うべきではなかったし、決めた関係者には自省をしてほしかった。

平和ボケ日本では、軍や歴史をめぐる、世界基準の常識が欠落している。たしかにナチスのデザインはかっこいい。そしてこのデザイナーも、大きな問題になるとは思っていなかっただろう。しかし、その無邪気さが問題なのだ。

ヒトラーやヒムラーが制服にこだわった理由の一つは、デザインの力を通じて、「かっこいい」という好印象を自分たちの組織に持ってもらうことにあった。その組織は、歴史上類例のない犯罪組織・政治集団だった。

そうしたナチスを「かっこいい」という理由だけで使うのは、ヒトラーや、ヒムラーの意図にはまってしまうことになる。その行為は無知ゆえの滑稽さを伴うし、そして犯罪行為の肯定につながりかねない。70年経過して、歴史上まれな化け物たちに、現代日本の私たちが踊らされることはなかろう。

ナチスの軍装は世界的に今でも不思議な魅力を放っている。ちなみに前述の騎士十字章は欧米では、マニアの間で、実物で1万—3万ドル(300万円)で取引されているらしい。こうした魔力を私は不気味に思う。

ナチスだからといって、思考停止のまま、それにすべて触らないように萎縮するのは愚かしい行為だ。しかし、その背景にある歴史や意図を考えて接すると、軽々しく扱ってはいけないと分かるだろう。

ナチスは「かっこいい」からこそ、使用上の注意をしなければならない。

(この論考は、劇作家・演出家の藤沢文翁さんのブログ「ナチの衣装を着てはいけない本当の理由」を参考にさせていただいた。私は素人軍事史家としての知識を使ったが、芸術家も同じ発想のようだ。適切に分析している。)

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