少子化でも日本の大学が増え続ける不思議?

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写真は講演中の石川和男氏

立冬を過ぎて暦上では冬にはいった。末頃になれば霜がおり紅葉が色づいてくる。そして紅葉が散る頃には暖房がはいり冬を迎える。ちょうど、この頃、受験生も大切な時期に差し掛かる。年が明ければ受験シーズン到来である。

税理士の石川和男(以下、石川)氏は、「勉強嫌いだったあの頃から30年以上が経ちましたが、当時は勉強をする意味がわかりませんでした。」と次のように述べている。

■学ぶヒントは「ふぐちり」にある

当時、金八先生シリーズに人気があったそうだ。武田鉄矢扮する金八先生が心に響く言葉を連発する人気番組である。そして、「なぜ勉強しなければならないのか?」が、この番組を通じて偶然わかったそうだ。

「むかしむかし、海の近くに住んでいる一人の男が、奇妙な魚を食べた。その男はその魚を食べて死んでしまった。その魚はフグだった。周りの人たちは、そんな危ない魚を食べるからだ。馬鹿だな、と笑ったが、その男はただの馬鹿ではなかった。

死ぬ間際「どうもあの目玉を食べたのが悪かった」と言い残して死んでいった。そして、また違う男が同じようにフグを食べて死んだ。その男も死ぬ間際に「目玉も悪いけど皮も悪かったみたいだ」と言って死んだ。

次にまた別の男が、フグを食べて死んだ。そしてその男は「目玉も皮も悪いかもしれないが、骨も悪いみたいだ」と言って死んでいった。そんな人たちのおかげで今、安心してフグを食べられるのだ。

当時の金八先生のセリフは、小説家、坂口安吾の『文化とはふぐちりである』という話からの引用だった。石川は学ぶことの重要性を「ふぐちり」から学んだのである。

■大学はつぶれない不思議

学ぶことの重要性は「ふぐちり」から理解できた。しかし、学ぶための環境はどうだろうか。2018年からは18歳人口が大幅に減少することが明らかになっている。現在約120万人の18歳人口が、2031年には100万人を切ると試算されている。

18歳人口の進学率を50%、入学定員を1000名と仮定すれば、単純計算で100大学分の入学者が消えることになる。そう考えれば事態は相当深刻といえよう。まず、石川は2018年問題について次のように答えている。
「驚くことに、大学の数だけをみれば、いまのところ少子化はあまりその増減に影響を与えていません。2015年時点で、日本の大学の数は779校。むしろ2010年くらいまでは、右肩上がりで増え続けてきたのです。」(石川)

確かに、学校法人は民間企業と違い、経営が行き詰まったからといって即座に破綻するわけではない。文部科学省から出ている補助金や助成金などによって、学校法人は守られている。今後もスタンスが大きく変わることはないだろう。

「この状況をふまえ、2008年には、文部科学省が『2020年までに30万人の留学生(専門学校生・日本語学校生を含む)を受け入れる方針』を打ち出しました。30万人という数字は、大学生全体の10%強にあたります。これから大学生の10人に1人を留学生にしていくのです。」(石川)

■次のターゲットはシニア層

現在、大学などの教育機関に魅力的な市場として考えられているのが「社会人教育」である。以前から大学は、若者だけを対象とする教育機関ではなく、中高年層の生涯学習の場でもあるというスタンスをとっている。

大学院を例にとってみよう。現在、専門職大学院の学生は約2万人である。一方、社会人学生は8,000人程度で減少傾向にある。キャリアアップのために勉強をしたいというニーズはあるものの、受け皿としてのレベルが至っていないところが少なくない。

「社会人が仕事をしながら勉強をすることは大変です。ですが、多くのメリットが社会人大学(大学院)には存在します。学ぶことに対する意識が貪欲になり目的も明確になるからです。しかし市場の伸びは鈍化しています。」(石川)

「ターゲットは団塊世代へ移行するでしょう。団塊世代は、65歳を超え、お金と時間に余裕のあるシニア層が増えています。シニア層の知的好奇心を満たすようなプログラムを開発できれば、この市場はさらに拡大していくものと思われます。」(同)

シニア層の知的好奇心を満たすようなプログラムとはどのようなものだろうか。

「大学教員というのは、専門分野の研究のプロであって、試験問題の解法テクニックを教えるプロではありません。簿記論を教えている講師が、必ずしも日商簿記検定講座を担当できるとは限らないのです。」(石川)

「こういった実務系講座は外部から担当講師を探すことになります。そして、実務経験が豊富な講師を採用されることで知的好奇心を見たすプログラムを提供することが可能になるのです。」(同)

■向かうは生涯学習なのか

一般人向けに開講されている「エクステンション講座」をみればその形態がよく理解できる。一般向け講座の数は年間3万講座以上にものぼるともいわれている。講座内容は「経営」「営業」「広告宣伝」「流通」「簿記」「絵画」「手芸」といった座学ではなく実務型の実践的なものにニーズが集まっている。

人が生涯にわたり学び・学習の活動を続けていくことが生涯学習の定義(昭和56年中央教育審議会答申「生涯教育について」)とされているが、学びの多様化は、生涯学習のあるべき姿を体現していくことになる。

参考書籍
仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』 (明日香出版)

尾藤克之
コラムニスト

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