日本版トランプ待望論

二度も大統領候補に名前が挙がり、30年以上のキャリアを誇るヒラリー・クリントンが政治的には全くのド素人の大富豪ドナルド・トランプに叩き潰された日から一夜が明けようとしています。

大統領を目指す「政治家」トランプは日本人にとっては突然出てきたように思われますが、実はその歴史は思ったよりも長いのです。

1.トランプ大統領誕生までの「5か年計画」

今から6年前、トランプは自らの財団を通じて救世軍やユナイテッドウエイ、最高裁判所判事の妻が設立した人権団体や同性婚、人工中絶に反対する保守系の団体、キリスト教系団体に多額の寄付を行ってきました。前回の大統領選では出馬を断念したものの、関連団体への寄付行為は休まることはありませんでした。

もともとの知名度に加え、こうした地道な努力があったからこそ、テッド・クルーズ上院議員、マルコ・ルビオといった共和党の「若きホープ」(いずれも40代)を打ち破り等の公認候補を勝ち取ることができたのだと思います。

トランプは大富豪ですが、予備選から今に至るまで自らが突っ込んだ選挙資金の量ではヒラリー陣営の選挙資金の実に10分の1程度にすぎません。

それでも、トランプが投じた約5610万ドルはトランプの選挙資金全体の4分の1程度を占めていました。

事前準備から最終局面に至るまで、他人に頼るのではなく自らの資金でリスクを取って戦い続けてきた結果が昨日の結果につながったのだと思います。

2.オバマに対する「怨念」

オバマ政権にはかねてから批判的で、彼の出自はアメリカではないという陰謀論(?)を2011年から広く訴え、いわゆる「バーサー運動」を展開してきました。選挙戦が過熱してきてからも両者の確執は激しくなり、オバマが広島を訪問した際も「原爆のことを言及してパールハーバーに言及しないのは不公平だ」とtwitterに投稿もしていました。

これらを受けて日ごろ強い口調で特定の人物を非難しないオバマも「大統領職はリアリティ番組じゃない」(トランプ氏が過去に人気のリアリティ番組に出ていたことにちなんで)などと言い返し、両者の舌戦は大統領選の象徴的なシーンの1つでもありました。

トランプを5年の長きにわたる大統領選に向けた「計画」に駆り立てた原動力には、穏健でスマートでポリティカルコレクトネスを体現したかのようなオバマへの「怨念」があったのだと思います。

二大政党制を擁するアメリカのような国では大統領選は事実上の1対1の戦いであり、両者ともに「全か無か」を争う権力闘争です。闘争に打ち勝つには自分を高めるという綺麗ごとだけではなく、いかに目の前の怨敵を出し抜くかという「計画」の狡猾さも重要になってきます。

大統領選開票日直前でのヒラリーのいわゆる「メール問題」FBI捜査再開に関して、トランプ陣営がFBIコミー長官にどのように絡んだのかは周到な計画があったものと思われますが、これもまた怨念を背負うからこそ手段を択ばずにいたからこそ取り得た選択肢でした。

そして、怨念を背負っていたのはヒラリー側も同様で、9割以上の米国メディアがヒラリーに対して同情的な報道を繰り返し、10年前の失言ビデオが持ち込まれた背景にも怨敵を出し抜く計画があったからだと思います。

有権者に広く理念・政策を訴え得票を重ねるというのが民主主義の「表」の側面であるならば、怨念めいた権力闘争が「裏」の側面であることを我々は記憶しておいて損はないでしょう。

大統領の座を狙う架空の下院議員の権力闘争を描いたNetflixの人気ドラマ「ハウスオブカード」ではアメリカ国旗と血にまみれた手がイメージ映像として多用されますが、今回の大統領選もまた両陣営共に血みどろの権力闘争がありありと感じられるものでした。

3.日本版トランプ待望論

トランプ大統領確定を受けて早くも日本の政権が揺れています。すでに議会を通過したTPPを含め、トランプ大統領とどう向き合うべきなのか?と。

例えばTPP。自民党幹部は取材に対し懸念を示していますが、「トランプはTPPを廃止しようと訴えているが、どうせ無理だろう」と内心タカをくくっているのが実態でしょう。
しかし、Brexit、トランプ大統領確定を見てもわかるように我々の生きる時代はすでに従来の常識が通用しないほどに不確定要素をはらむようになってきています。

「トランプの号令にホワイトハウスはどうせ従わない」という常識も捨ててください。トランプ大統領すら予測できなかった常識なんだから、何の信用もありません。

外交や対外的な経済政策は政権を超えての各国官僚間の実務の積み上げによるところが大きいとこれまでの常識では相場は決まっていましたが、これからはそうはいきません。変動する状況に応じて常識を捨ててアドリブで考え、対応できる為政者が日本でも1人でも多く求められるでしょう。

合衆国憲法修正第22条第1節において大統領の任期は少なくとも1期4年、次の選挙に再びトランプが出馬して勝てば長くて2期8年は続くことがはっきりとしています。

世界のGDPの半分以上がインド、中国、ロシアといった新興国で稼ぎ出されるようになった今においてさえ、アメリカ単独のプレゼンスは突出しています。

TPPや米軍のトランスフォーメーションといった各論での修正・変動はあっても、日米同盟を基軸として、我々の国益を最大化させていくためにも、トランプ陣営としっかりとコミュニケーションできるような人物を生み出していかなければならないと思います。

何が言いたいかといいますと、日本でもトランプを生み出す必要があるということです。

この記事を書いている間もずっと流れている英国BBC放送ではトランプを「(政界の)アウトサイダーだ」というフレーズが繰り返されていますが、日本でも既存の政党や官僚からアウトサイダーな人物こそが決起していかなければならないと思います。

5年スパンで、自己資金をもって、既存政界への問題意識、否怨念をもって計画を実践していけるような日本版トランプにならんとする気概を持った人を、私も微力ながら応援したいと思っております。

水谷翔太( Shota Mizutani)
前大阪市天王寺区長
株式会社Field Command’s Triumph CEO
金沢大学 アドバイザー
内閣府地方創生推進事務局 地域活性化伝道師