「強い米国」と「強いロシア」は吉か凶か

2016年11月11日 11:27

ロシアのプーチン大統領が“強いロシア”の回復を願い、そのために腐心していることはよく知られている、そして次期米大統領に選出されたロナルド・トランプ氏も大統領選では「強い米国を取り戻す」と主張してきた。冷戦時代のライバル、米国とロシアの両国指導者は偶然にも共に、「強い国」を標榜しているわけだ。

プーチン大統領は9日、トランプ氏の勝利が確定すると直ぐに、「米国とロシアの関係再建に共に取り組もう」とエールを送っている。同大統領は、シリア内戦やイランの核問題で強硬姿勢が目立つヒラリー・クリントン氏よりも、トランプ氏のほうが交渉しやすいと判断、密かに同氏を応援してきたことは周知の事実だ。

その願いがかなって、トランプ氏が次期大統領に選ばれた。ロシア指導者は大喜びかというと、決してそうとも言えないのだ。トランプ氏の外交政策が読み取れないからだ。どの方向にいくのか、トランプ氏自身も選挙戦では詳細には何も言及していない。吉と出るか、凶となるか、さすがのプーチン氏も予測できないのだ。

ちなみに、トランプ氏の勝利は予想外の結果だった。特に、ヒラリー氏の勝利を疑わなかった多くの欧米メディアにとってショックだった。それに対し、ロシアのメディアは最初からトランプ氏の勝利を疑わず、同氏に肩を入れて報道してきた。だから「大多数のロシア人にとって、トランプ氏の勝利はショックではなかった」(オーストリア日刊紙プレッセ10日付)という。

シリア内戦は既に5年目に入ったが、アサド政権とそれを支援するロシア、イラン陣営に対し、米国は反アサド政府陣営を支援してきたものの、反政府側が分裂状況であり、支援も効果が出ていない。ウクライナ問題ではクリミア半島を支配下に置いたプーチン氏の作戦勝ちが目だつ。米国はロシアの蛮行に対し経済制裁を実施しているが、ウクライナ問題の解決の見通しは目下、ない。

オバマ政権の平和志向の弱腰外交の結果、ロシアの外交攻勢が目下、優勢だ。そこに「強い米国を取り戻す」と表明するトランプ氏が登場する。大統領選ではトランプ氏を支援したプーチン氏がトランプ新政権と対立するケースも完全には排除できないわけだ。

トランプ氏は日本、韓国に対し、「自国の防衛は自国でカバーすべきだ」と主張し、財政負担だけではなく、軍事負担も要求している。日韓両国だけではない。欧州でも「トランプ氏の米国では、欧州の防衛に対して欧州が責任を負うべきだという声が飛び出すだろう」(オーストリアのラインホルト・ミッターレーナー副首相)と予想する声が聞かれる。欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相は9日、「トランプ氏の米国との協調は民主主義の基本的価値観を尊重するという前提で行われるべきだ」と主張。フランスのオランド大統領は、「欧州もしばらくは不安定な時を迎えるかもしれない」と指摘し、欧州諸国の結束を訴えている。

東欧諸国ではトランプ氏の勝利を歓迎する声が支配的だ。欧州のチェコのミロシュ・ゼマン大統領(71)は9月20日付 Dnes 電子版で、「自分が米国民だったら、トランプ氏に投票する」と述べている。ハンガリーのオルバン首相は9日、「米国から偉大な知らせが届いた」とトランプ氏の勝利を称賛している。ポーランド、チェコ、スロバキア、そしてハンガリーのヴィシェグラード・グループ(V4)首脳は難民・移民政策では、メキシコからの移民殺到の阻止を主張するトランプ氏と同一路線だ。意気投合するのも当然かもしれない。

東欧国民は一般的に親米派が多数を占める。共産党政権から解放し、民主化を支援してくれた米国への感謝があるからだ。それだけに、レーガン、ブッシュ時代(任期1989~93年)の“強い米国”への思いが強い。だから。「強い米国を取り戻す」と主張するトランプ氏の登場に期待せざるを得ないわけだ。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は「わが国に駐在する米軍兵士の増員約束を忘れないでほしい」と述べているほどだ。

なお、トランプ氏は大統領選当選の翌日から米情報機関関係者から世界の情勢、治安、テロ情報などの国家機密に関するブリーフィングを受ける。トランプ氏はそこで世界の政治がどのように動いているかの生々しい情報を聞くわけだ。ロシア、中国、シリア、北朝鮮などに関する機密情報を知ることで、トランプ氏の外交政策に変化が出てくるかもしれない。
CNNは、「トランプ氏は国家の機密情報を知ることで、選挙前に語った政策に修正を余儀なくされる可能性がある」と指摘、トランプ氏への“大統領教育”の重要性を強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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