季刊 巽 震二の国内株式TOBマーケットレビュー 第2回

2016年11月16日 06:00

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新進気鋭のアナリスト巽震二が送るTOBマーケットレビューの連載第2回。M&A Onlineでしか読めないレポートは必見です。

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こんにちは、マーケットアナリストの巽 震二(たつみ しんじ)です。
前回に引き続き、国内株式TOBマーケットの振り返りとこれからについて述べたいと思います。

巽 震二のTOB注目銘柄

昭和シェル石油<5002>に注目したいと思います。

報道されている通り、昭和シェル石油は同業の出光興産<5019>との合併を計画していましたが、出光興産創業家の反対により合併計画が頓挫している状況です。

そもそもこの統合案件は、昭和シェル石油と出光興産の経営陣と昭和シェル石油の筆頭株主(33.24%保有)であるロイヤルダッチシェルの利害が一致して始まったものでした。

両者の経営陣には、日本の石油製品需要がバブル崩壊後一貫して減退し続けている中で業界全体の設備過剰が問題となる中、先陣を切って業界再編を進めるJXホールディングス<5020>と東燃ゼネラル石油<5012>との経営統合の動きなどを見て、もはや単独での生き残りは困難という危機感が高まり、残された者同士での経営統合をしたいという意向がありました。

またロイヤルダッチシェルは、日本市場を見限り、保有する昭和シェル株式を売却したい意向がありました。

そこで、出光興産がロイヤルダッチシェルから昭和シェル石油の保有株式全部を買い取ったのち、合併により経営統合を行うことが計画されました。

しかし、資産管理会社や関連財団を通じて出光興産の実質的筆頭株主(33.92%保有)となっている創業家がこれに真っ向から反対し、昭和シェル石油の株式0.1%「以上」を取得することにより金融商品取引法の規制によりロイヤルダッチシェルの保有株式の取得にTOBが必要となる状況を作り出し、かつTOBの手続きに必要となる出光創業家が保有する昭和シェル石油株式の数量情報を曖昧にしか開示せず、正確な株式数を秘匿することでTOB手続きも阻止するという手法で上記の計画を実行不可能なものとすることにすることに成功し、出光興産及び昭和シェル石油は10月13日に合併の延期を発表しました。

この一連の動きをみると、出光興産と昭和シェル石油の合併の可能性はほぼ潰えたと見ざるを得ないでしょう。

しかし、重要なポイントは、出光興産の創業家は経営統合を阻止したものの、経営統合が計画されるに至った根本原因である日本の石油製品需要の減退までは阻止できていないということです。よって、ロイヤルダッチシェルの株式売却の意向も、昭和シェル石油も出光興産も単独での生き残りが困難である状況も、何ら変化は生じていません。

そのため私は、早晩昭和シェル石油の売却は実現するとみています。

そのキーは、昭和シェル石油の負債スラックが比較的潤沢であり、LBOの対象となりうる点です。

昭和シェル石油の純有利子負債は2016年第2四半期末で137,855百万円、5年平均フリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)は44,948百万円ですので、現時点の債務償還年数は3.1年程度です。仮に一般的に正常な債務償還年数の上限値の目安とされる10年まで負債を積み増すとすれば、449,480百万円まで純有利子負債を調達できますので、負債スラックが311,627百万円ある状況です。2016年10月26日終値ベースの昭和シェル石油の時価総額は364,037百万円ですから、時価総額の86%に相当します。仮に、売り急ぐロイヤルダッチシェルから市場株価で、一般株主に対しては15%のプレミアムでTOBを行うとすれば、必要な自己資金は889億円となります。かなり大規模な投資にはなりますが、出光興産以外の第三者、たとえばLBOファンドなどによるTOBであれば創業家のブロックは問題とならないので、そのようなシナリオもあり得ると考えられます。石油精製業界の再編は経産省も重視する課題ですので、場合によっては政府系資金の投入もあり得るかもしれません。

2016年第3四半期(7-9月)の国内株式TOBの概況

2016年第3四半期に公表された国内株式を対象とするTOBは14件でした。

直前四半期の公表件数は11件でしたので、3件の増加、前年同期の公表件数は8件でしたので、6件の増加となります。国内株式を対象とするTOBの件数は、やや活性化しているといえるでしょう。

14件のうち、3件が親子上場会社における親会社が上場子会社に対して実施したもので、2件が持分法適用関係会社に対して実施したものでした。また、親子上場会社の親会社が子会社の全株式をファンドに売却したケースが1件ありました。引き続き、親子上場の解消に取り組む動きは継続中と考えられます。

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残り8件は、親子上場会社以外のTOBで、うち4件はファンドによる買収、残り4件は事業会社による買収でした。各事例のTOB発表時のプレスリリースによれば、ファンドによる買収の目的はMBO1件、PE投資2件、事業再生投資1件でした。事業会社による買収の目的は、いずれも事業拡大を目的としたものでした。

2016年第3四半期のTOBプレミアムの動向

2016年第3四半期のTOB全11件のTOBプレミアムの平均は、27.25%、マイナスのプレミアムを除いた平均は56.27%でした。マイナスのプレミアムを除いた平均は前年同期は42.9%、直前四半期は34.68%でしたので、上昇しています。上昇の要因としては、上場廃止を伴うTOBのケースで、非支配株主の比率が比較的高いため高めのプレミアムが必要なケースが多かったこと、ポジティブなPE投資、事業投資のTOBが多かったことなどであると考えられます。

また、連結グループ内のTOB取引全5件の平均は33.32%そのうち事業再生を目的としたマイナスプレミアムの事例1件を除外すると55.94%でした。その他のTOB9件の平均は23.46%、事業再生系のマイナスプレミアム事例3件を除外すると56.53%でした。今回は事業再生色の強い事例のマイナスプレミアムが比較的深く、またポジティブなTOBのプレミアムが高いという二極分化した状況となりました。

関連リンク 2016年第3四半期TOBプレミアム分析レポート

今後のTOB市場予測

引き続き、グループ再編型のTOBは一定の取引量を維持するものと考えられます。

親子上場会社の子会社に注目です。

ただし、上場子会社自身が連続して赤字であったり債務超過であったりするような事業再生型のTOBの場合は、マイナスのプレミアムとなる可能性が高まったといえるでしょう。

プレミアムについては、為替や商品市況、現状の景況感は第2四半期よりは持ち直しがみられるものの、なお米国利上げリスクや米国大統領選挙での不確実性などが重しとなっているところもあり、現在の水準程度から前四半期の水準程度のレンジでの推移をメインシナリオとして考えたいと思います。

文:巽 震二(マーケットアナリスト) 編集:M&A Online編集部

関連リンク
【緊急インタビュー】激動のエネルギー業界とM&A(石油業界編・前編)
【緊急インタビュー】激動のエネルギー業界とM&A(石油業界編・後編)

巽 震二(たつみしんじ)プロフィール紹介

フリーランスマーケットアナリスト。
証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。現在、フリーランスマーケットアナリストとして活動中。


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年11月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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