粛々と論理的に相手を打ち負かす数学のテクニックとは

尾藤 克之
写真は講演中の深沢真太郎氏

写真は講演中の深沢真太郎氏

ここに興味深い調査結果がある。ニューヨーク(CNNMoney,2013)によれば、数学を苦手にしている人が住宅ローンの返済に行き詰まって物件を差し押さえられる確率は、数学が得意な人の5倍に上るそうである。しかし、重要性は認識しつつも数字を苦手と考えるビジネスパーソンは少なくない。

■数字を使わないビジネスは存在しない

数字アタマのつくりかた(三笠書房)』の著者である、深沢真太郎(以下、深沢)氏は、数字力を高める専門家として知られている。日本数学検定協会「ビジネス数学検定」国内初の1級AAA認定者であり、研修講師や大学教員として数字力を指導している同氏に数字の必要性について聞いた。

まず、数字を使わないビジネスは存在しない。営業・マーケティング・マネジメントなど、社内のすべての仕事は数字を必要とされる。数字に強い人は出世が早く、数字に弱い人は取り残されてしまう危険性がある。そのように考えれば、数字は社内のコミュニケーションツールともいえる。深沢はいつ頃から算数や数学が得意だったのだろうか。

「そうですね。学生時代はとにかく数学に没頭していました。数字で考えることが当然になっていました。ところが、社会人になってから、誰もがそうではないということに気づきました。定性的な議論ばかりで、誰も数字を使おうとしないんです。」(深沢)

「実際の研修で、私はあえて算数の問題を解かせることがあります。すると、大多数の『部長』や『課長』は解くことができません。四則演算と論理的思考(算数)にもかかわらず、問題が解けません。実はこれは非常に危険なサインなのです。」(同)

このような経験をするなかで、ビジネスパーソン向けの数字力トレーニングが必要なのだと感じ、人生のミッションになったとそうだ。タイトルの『数学アタマ』は、深沢独自の造語だが「数学嫌いの文系サラリーマンでも心配御無用」という意味が込められている。

■社内マネジメントも数字で解決できる

多くのビジネスパーソンが悩む社内政治も数字が使える。次のようなケースでは、どのように考えることが望ましいだろうか。

<ケース>
あなたは、A課の課長です。半期を過ぎて達成率が40%です。頑張っても目標には届きそうもありません。予算減額の交渉をしたいときどのように交渉をしますか。

A課 売上目標2億(半期達成率40%) スタッフ10名
B課 売上目標1億(半期達成率60%) スタッフ5名

A課、B課のコストを算出します。給料などの固定費や経費のコストを計算します(両課とも5000万円)。さらに、スタッフ1名あたりの粗利益も算出します。

A課 売上実績8000万円-コスト5000万円=粗利益3000万円
粗利益3000万円÷10名=粗利益300万円/1名あたり

B課 売上実績6000万円-コスト5000万円=粗利益1000万円
粗利益1000万円÷5名=粗利益200万円/1名あたり
※本ケースはあくまでもシミュレーションである。

「粗利益を見れば、達成率60%のB課より達成率40%のA課のほうがパフォーマンスが良いとも評価できます。A課の課長は、ここを交渉の武器にするべきでしょう。決して質の低い仕事をしていないことを訴求すべきです。」(深沢)

「数字は上司を説得する際の材料として効果的です。使用する数字やデータを精査しましょう。他にも、上司との関係性や置かれた立場など副次的要因があるものの、数字がもたらす影響について理解したいところです。」(同)

数学者のパスカルは「人を説得する方法はふたつある。ひとつは論理的に相手を打ち負かすこと。もうひとつは相手の気に入るようなものの言い方をすること」と述べている。いまの現代社会にも通じるメッセージともいえよう。

尾藤克之
コラムニスト

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