【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

2016年11月17日 06:00

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ニプロ<8086>がM&Aをテコに医療関連事業を拡大している。医療機器、医薬品、医療用硝子材料など幅広い製品を持ち、医療現場のニーズに密着した製品を開発する。成長分野である人工透析関連機器では海外メーカーを買収し世界トップシェアを狙う。国内のバイオベンチャーにも出資、将来に向けた種まきに余念がない。ニプロの成長をけん引するM&A戦略を解剖する。

【企業概要】M&Aから始まった主力の医療機器事業

ニプロは医療機器・医薬品・医療用硝子材料と、幅広い分野の医療関連製品を取り扱う会社である。特に医療機器分野における人工透析関連機器では、世界的にも高いシェアと技術力を有する企業である。

創業は1947年、滋賀県大津市で電球再生事業から始まった。1954年に日本硝子商事(現ニプロ)を京都市に設立し、アンプル用硝子管や医療用硝子製品 を販売する。本店を大阪市に移転した後は、魔法瓶用中瓶加工の自動機械を開発し、魔法瓶用硝子の販売を開始する一方、スーパーマーケット事業(後のニッ ショーストア)にも参入している。

同社の現在の主力事業である医療機器事業は、1969年に富沢製作所(群馬県館林市)に出資し注射針の 生産を行ったことから始まる。この時期から同社は医療分野に本格的に軸足を移し、その象徴的な製品がダイアライザー(人工腎臓)であった。ダイアライザ― は人工透析に用いられ、同社の製品は国内外で高いシェアを誇る。

ニプロの歴史は、アンプル硝子の販売から着実に事業を拡大し、複数回にわたるM&Aを繰り返す中で現在の社名「ニプロ」となり、メイン事業も医療機器事業へとシフトしていることが特徴である。

1996年12月に東京証券取引所第一部に上場を果たした同社は、その後も成長を続け、2016年3月期決算において、売上高約3600億円、経常利益約 140億円、子会社83社、関連会社5社、連結従業員数24,243名であり、2014年時点での国内医療機器メーカー売上高では3位(出所:業界動向 serch.com(http://gyokai-search.com/4-iryo-uriage.html))となっている。

【経営陣】創業家の佐野嘉彦社長、2012年に就任

ニプロでは長年、創業者の佐野実氏が社長を務めていたが、2012年に実氏が死去。実氏のおいの佐野嘉彦氏が2012年5月に社長に就任した。嘉彦氏は1943年に日本硝子繊維(現日本板硝子)入社。1975年にニプロ入社し、営業本部長、国内事業部長などを経て社長に昇格した。71歳。

【株主構成】日本電気硝子と株式持ち合い

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ニプロでは長らくNECが筆頭株主だった。日本電気硝子がニプロの筆頭株主になったのは2011年。市場で株式を買い増し、現在は発行済株式数の 14%を保有する。これに対してニプロも2011年に日本電気硝子株を取得しており、2015年12月末時点で13.7%を保有する。日本電気硝子とニプ ロは医療用管ガラスのメーカーと国内の販売代理店という取引関係にあり、株式取得を通じて同事業を強化する狙いがあるとみられる。

株式時価総額は日本電気硝子が約2800億円、ニプロが約2000億円と比較的近い。一方、ニプロの硝子事業の売上高が約300億円にとどまるのに対し、日本電気硝子が約2500億円と大きい。両社が今後より踏み込んだ関係に発展するか注目したい。

【M&A戦略】医療分野へ選択と集中、海外企業買収も積極化

世界的に進む高齢化や新興国での人口増加を背景に、医療機器に対する需要は年々増加傾向にある。特に日本は世界的にも高齢化が急速に進んでおり、国 内医療機器市場は世界市場の伸びを上回っている。その市場規模は世界第2位の約2.8兆円(2014年厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」より)と なっており、年によって多少の増減があるものの、過去20年間で平均約3%拡大している。しかしながら、国内医療機器市場は輸入依存度が高く、外資系医療 機器メーカーが高いシェアを持っているのが特徴である。

世界第1位の医療機器メーカーである米ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、 J&J)を筆頭に、米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンス等、欧米メーカーは早くから海外市場の開拓を図ってきており、規模を活かした製品のライン アップが充実していることも強みとなっている。そのため、国内医療機器市場は輸入超過で長らく推移している。国内メーカーでは首位のオリンパスでさえ売上 高約5千億円と、世界1位のJ&Jの売上高約3.4兆円とは大きな差が生じている。

国内メーカーが国内市場で競争力を発揮でない理由とし て上げられるのが、欧米主要メーカーが医療機器と医療サービスをパッケージとした積極的な海外展開を推進する中で日本企業が遅れをとっていることが原因の 一つと考えられる。医療機関とのネットワーク構築に日本メーカーが遅れを取る中、欧米のメーカーが先行して国内医療機関へ医療機器と医療サービスをパッ ケージとして提供することでシェアを拡大してきた。命に関わる医療機器分野においては、実績に基づく信頼性が重要になるため、出遅れた国内メーカーは特定 の分野で高いシェアを獲得出来ても、多くの製品で外資系メーカーには及んでいない。

国内医療機器メーカーは海外の医療機器メーカーを買収したり、未開拓の新興国へ積極的に進出したりすることでこうした状況を打開しようとしており、ニプロの経営戦略においてもそういった戦略が見受けられる。

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世界的に成長を続ける医療機器の分野において、ニプロの戦略は「医療機器」と「医薬品」、「硝子」の3事業を柱として位置付け、あらゆる医療ニーズに応えられる総合医療メーカーを目指してきた。

1988年に海外初となる製造・販売拠点をタイに開設し、事業のグローバル化を図って以来、業績は順調に伸びている。特にストア部門を会社分割により (株)ニッショーとし、商号をニプロ株式会社に変更し、医療分野への集中に舵を切った2001年3月期の売上高約1500億円からは、直近2016年3月 期の売上高約3600億円と2倍強にまで売上は拡大している。

医療分野の売上が急拡大する裏では、1963年から行っていたスーパーマーケット事業を含む小売関連事業の切り離しを図っている。

2006年3月期に売上の32.5%を占めていたニッショーの全株式を阪急百貨店へ譲渡し、ニッショードラッグのニプロ保有株72.4%全てをキリン堂へ譲渡している。これにより、医療分野への経営資源の集中を明確化している。

国内では細胞関連ベンチャーに出資

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海外でのM&Aも積極的に行っており、医療機器事業では、2010年にナスダック市場に上場していた米ホームダイアグノスティクスをTOBにより買 収した。同社は米国で糖尿病患者向けの血糖値測定器を製造販売する会社である。 また、2012年には同社の強みである人工腎臓(ダイアライザー)の世界トップシェアを目指し、スペインの透析液製造・販売会社のネフロイオンとブラジル の同業のサルベゴラボラトリオファルマセウティコを買収しており、2015年にもスイスの販売代理店のリギ・メディティン・テクニックを買収している。

硝子事業では2010年に、中国の医薬用ガラス製品製造販売会社の成都平原尼普洛薬業包装を買収している。同社を買収は、米印仏などと共に、ニプロの硝子事業における海外製造拠点の一つとなった。

一方、国内企業に対するM&Aも行っており、2013年にジャスダック上場でディスポーザブル医療機器の輸入、開発、製造、販売を行うグッドマンをTOB により買収し、2014年には関連会社のバイオベンチャーで免疫細胞療法研究向けの培養液製造を手がける細胞科学研究所を追加出資し子会社している。

これまで、日本の医療機器メーカーは高い技術力を背景に、技術に拘った製品開発に傾注してきた面もあった。医療機器は人命に関わるため、高度な機能や多く の技術力が重要な要素となることは間違いない。しかし、重要なことは医療機関や医師のニーズを汲み取り、それを製品開発に如何に活かしていくかということ である。

ニプロは長年に渡り医療分野に携わってきたこともあり、様々な技術力や業界独特のノウハウが蓄積されており、医療機器・医薬品・ 医療用硝子材料という幅広い製品を有している。特に、医療機器と医薬品を製造・販売している同社にとって、医療機器と医薬品営業の連携が医療現場との関係 強化に寄与していると思われる。

しかしながら、医療現場からニーズ情報を得ることは容易ではなく、高い技術力や医療機関及び医師とのネッ トワーク構築など、様々なノウハウが必要になる。この点においても、外資系医療機器メーカーは医療クラスターという集積された環境で医療機関との深い関係 を構築する、あるいは医療機関運営に深く関わり現場のニーズを汲み取るといった点に長けており、ニプロを含め国内メーカーは学ぶべき点も多い。

先進国の高齢化や新興国の医療需要拡大により、世界の医療機器市場は今後も拡大が見込まれ、市場の拡大はニプロにとっても大きなチャンスであることは言うまでもない。

一方、圧倒的なシェアや売上規模を持つ欧米を中心とした外資系大手医療機器メーカーに比べて日本の医療機器メーカーの規模は小さく、日本の各企業の売上高 は世界のトップ10に遠く及ばない。膨大な研究開発費を要する医療機器分野においては、製品開発には資金力が重要となり、豊富な資金力を有する欧米のメー カーは日本でも積極的に事業を拡大している。そういった面でも欧米の大手メーカーはニプロにとって非常に大きな競合相手となる。

【財務分析】有利子負債、売上高を上回る規模に

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ニプロの業績はここ数年、右肩上がりで成長している。2016年3月期の連結売上高は前期比12.8%増の3666億円、純利益は58%増の197 億円と過去最高を更新した。医療関連、医薬関連事業が国内外で伸長している。一方、硝子関連事業は16億円の営業赤字(前期は28億円の赤字)。前期より 赤字幅が縮小しているが、採算性は医療事業に見劣りし、テコ入れが課題だ。自己資本利益率(ROE)は11.2%と2桁台に乗せている。

2017年3月期は売上高が前期比1%減の3630億円と予想している。純利益は為替差損などで営業外損益が悪化し36.6%減の125億円を見込んでいる。

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海外でのM&Aを積極的に行ってきた結果、世界のエリア別の2016年3月期の売上高は2013年3月期比で、米国で1.5倍、ヨーロッパで1.4倍、アジアでは1.9倍となっており、海外全体では売上高の45%を占めるに至っている。

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選択と集中を行いながら積極的に事業を拡大した結果、ニプロの直近の有利子負債は売上高を上回る規模にまで達している。同社は2020年度売上高5000億円、そして、2030年度売上高1兆円という目標を掲げているが、同社が今後も規模を拡大し欧米大手とも競合していく上では財務体質の改善は避けて通れない。

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【株価】医療事業の成長評価も円高が重荷

医療分野を軸とした利益成長に伴い、ニプロの株価は2015年8月に1500円近くまで上昇したが、足元では伸び悩んでいる。同社は海外売上高比率が約45%と高く、為替の円高傾向が業績の懸念材料。2017年3月期は業績の伸びが鈍化することも影響しているようだ。

今期の予想PER(株価収益率)は11月11日時点で約16倍。テルモ(約29倍)やオリンパス(約21倍)と比べて低く、株価に割高感はない。為替が円安に転じれば、買い直される場面もありそうだ。

【まとめ】高い成長期待、財務との両立課題

ニプロはスーパーマーケットなどの小売事業を切り離す一方、医療事業に経営資源を集中。医療現場のニーズに密着した製品開発や海外メーカーに対する M&Aで業績を伸ばしてきた。しかし、豊富な研究資金を持つ欧米の医療機器メーカーに比べて規模ではまだ見劣りする。世界の医療機器市場は高い成長性が期 待される分、外資系メーカーとの競合は激しく、度重なる買収で有利子負債も膨らんでいる。どのように売上拡大と経営効率化を両立させ、事業再編も含め M&Aを活用していくのかに注目していきたい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年11月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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