【映画評】ザ・ギフト

転居した郊外の新居で幸せな生活を送っている若い夫婦サイモンとロビン。ある日ふたりの前に、夫の同級生と名乗る男ゴードが現れる。サイモンは彼のことをすっかり忘れていたが、再会を喜んだゴードは、次々に二人に贈り物を送り始める。だが、それは次第にエスカレートし常軌を逸していった。サイモンとゴードの間には、25年前にある因縁があったのだ。やがて夫婦の周囲で異変が起こり始める…。

幸せに暮らす夫婦がある男から執拗な贈り物を送られるサイコ・スリラー「ザ・ギフト」。オーストラリア出身でハリウッドでも活躍する俳優ジョエル・エドガートンが、監督、脚本、主演を務める作品だ。エドガートンは、短編の監督作はあるが、長編ではこれが監督デビューだそう。ストーリーや演出、特に、じわじわと真綿で絞めるようなサスペンスの恐怖演出は、なかなか見事なものだ。物語の根底にはあるのは、いじめ問題で、いじめた本人がそのことを忘れているというところが一番罪深い。だが、いじめや嘘によって深く傷付けられ人生を台無しにされた被害者は、決して忘れないし、決して許しはしないのだ。最初は、ゴードの意図が読めず不穏な空気が流れるが、彼とサイモンの因縁の過去が明らかになると、それは腑に落ちる復讐劇へと変わっていく。善と悪がクルリと入れ替わるその瞬間が、最高に怖い。

精神的に追い詰められていく妻の運命が気の毒ではあるが、ゴードの最後の贈り物は、いわば究極のギフト。流血や残酷描写は使わずに、少しずつ、でも、確実に対象者を追い詰める手法は、古典的なサスペンスの趣で、この物語の結末の衝撃度を高めている。善人顔のジェイソン・ベイトマンを意外な役柄で起用するセンスをみせるかと思えば、エドガートン本人は薄気味の悪い人物を静かに怪演。俳優としてハリウッドで存在感を増しているエドガートンだが、脚本や監督業などの裏方の仕事にも力を注いでいる才人だ。今後も注目しておきたい。

【65点】
(原題「THE GIFT」)
(アメリカ/ジョエル・エドガートン監督/ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール、ジョエル・エドガートン、他)
(因果応報度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月16日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。