【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

2016年11月18日 06:00

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オリンパス<7733>というとカメラや内視鏡というイメージに加えて、2011年の粉飾決算事件の印象が強い。一部幹部による財テクの失敗に端を発した事件で、粉飾の際にM&Aを利用したことで話題にもなった。なぜ、かつては売上高1兆円の超優良企業であったオリンパスが、どういった経緯で不正に手を染め、M&Aを利用した粉飾をおこなったのか。過去のM&Aの歴史を振り返りながら、その経緯をたどるとともに、今後のオリンパスがどうなっていくのかを考えたい。

【企業概要】内視鏡、世界シェア90%

オリンパスは、顕微鏡の国産化を目指して1919年に「株式会社高千穂製作所」として発足した企業である。現在は、「オリンパス株式会社」(社名は ギリシャ神話の神々が住むと言われる山の名前に由来)と社名を変え、医療分野、顕微鏡分野、映像分野において事業を展開している。

医療分 野においては、世界シェアの90%をおさえるとも言われる内視鏡が代表的な製品で、同分野はオリンパスの稼ぎ頭となっている。祖業である顕微鏡分野は、景 気の波には左右されるものの、新興国の台頭などを背景に市場の拡大が見込まれている。一方で、映像分野の大半を占めるデジタルカメラ市場はスマートフォン の性能向上のあおりを受けて市場が縮小し、競争が激化している。今後もこの傾向は続く可能性が高く、守りの経営が強いられることになりそうだ。

【経営陣】粉飾発覚で内紛、2012年に笹社長が就任

オリンパスは菊川剛氏が2001年から2011年まで社長を務めていた。2011年に菊川氏が会長に就任し、英国人のマイケル・ウッドフォード氏が 社長に就いた。その半年後にウッドフォード氏が粉飾決算を指摘すると、菊川氏は同氏を解任し、一時社長に返り咲いたが、粉飾決算事件を受け、退任した。

現在の社長の笹宏行氏は1992年にオリンパスに入社。内視鏡事業企画部長、オリンパスメディカルシステムズで第1開発本部長、マーケティング部長などを2012年からオリンパスの社長に就いた。61歳。

【株主構成】10%以上の大株主、存在せず

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オリンパスは10%以上を保有する大株主は存在せず、株式は分散している。日本トラスティ・サービス信託銀行は信託口などとして保有しているもの。資本業務提携先のソニーは2016年4月に保有するオリンパス株の約半分をJPモルガン証券に売却、持ち株比率は10%から5%に低下している。

【M&A戦略】財テク失敗、のれんで穴埋め ソニーから出資受け入れ

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このように、過去のM&Aを見てみると、財テクなどの巨額損失を穴埋めするためのM&A(青塗部分)と、それ以外に大別される。

後者の主だったM&Aは、日商岩井の情報通信部門を切り出した会社ITXの買収である。当時、医療分野、映像分野に加える新たな柱として、携帯電 話の販売代理店を主要事業とするITXの買収に乗り出した。2004年当時のITXは、連結売上で1,000億円を超え、売上高1兆円を標榜していたオリ ンパスにとっては、魅力的な新規事業というように映ったのだろう。その他にも、オリンパス製品の販売会社であるケイエスオリンパスや、医療機器の販売・修 理をおこなうイワケンを買収しており、エンドユーザーとの接点を作ろうとする動きが見られた。これは、メーカーとしてエンドユーザーの反応を取り込むこと を目的としていたというようにも見て取れ、当時の戦略としては自然なものだと見受けられる。

一方で、粉飾に利用されたM&Aであ るが、その前段の経緯から追ってみる。バブル崩壊期の財テクなどの失敗の積み重ねにより発生した1,000億円近くの巨額損失を穴埋めするために、オリン パスは連結外のファンドを使った損失処理の方法(通称「飛ばし」と呼ばれている)に着手した。これは、含み損のある金融商品を簿価でファンドに買い取らせ ることで、オリンパス本体には金融商品の評価損を計上しないという方法である。しかし、このファンドは、オリンパスの金融資産を担保に設立されたファンド などで、一時しのぎにしかならない方法であった。その後、会計基準の変更により、これらの連結外のファンドを連結決算に組み込まなければいけない可能性が 出てきたため、ファンドの損失を穴埋めすることを目的に、M&Aの買収資金とアドバイザリー費用が利用されることとなった。ファンドが買収したア ルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボらのベンチャー企業の買収に法外な買収金額をつぎ込んだのが、これに当たる。また、イギリスの医療機器メーカーのジャイラスを買収 した際も、高額なアドバイザリー費用をファンドに支払っている。最終的に、これらのファンドは、売却益やアドバイザリー費用を「飛ばし」をおこなった損失 に補てんし、一方のオリンパスはM&Aに伴って発生したのれんを相当期間で償却することを想定していた。

しかし、2009年3月 期に監査法人のからの指摘により、アルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボにかかるのれん代679億円のうち557億円が減損処理されることとなる。ただ、この時期はリーマンショックの影響で損失を計上す る企業が多かったため、オリンパスの巨額ののれん代の減損は脚光を浴びることがなかった。しかし、こういった無理な損失隠しを通じて、着実にオリンパスの 財務は悪化の一途を辿ることとなった。

粉飾の発覚後には、自己資本を確保し上場を維持することや信用力の補完を目的に、ソニーからの出資 を受け入れることとなった。2回の増資により、合計約500億円を調達して自己資本比率10%を下回る危機からは逃れることに成功した。実際には、さらに のれんの減損が発生すれば債務超過という状況であったため、今のオリンパスがあるのはソニーの支援があったからこそと言っても過言ではない。一方で、ソ ニーからすると、オリンパスの持つ貴重な医療分野におけるノウハウが合弁会社設立により手に入ることとなったため、ソニーのメリットも大きかったと言え る。

【財務分析】医療事業が成長、危険水域から脱出

ここで、オリンパスの財務の変遷を辿ると、下記のようになっている。

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一時期はのれんの比率が自己資本比率を上回っている状態が続いていたため、かなり危険な状態にあったと言える。さらに、こののれん代の大半がジャイ ラス買収の際ののれんであったため、状況はより深刻だった。万が一にでもジャイラスののれん代について、監査法人から減損処理を求められた場合、債務超過 すれすれまで財務内容は落ち込んでいたという状況である。こうした状況に耐えられたのも、堅調に推移していた医療分野があったからである。

現在は、本業である内視鏡を中心とした医療事業によって財務体質は回復を果たしている。

次に、セグメント別の売上推移を見てみる。

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2007年3月期に、ITXの買収により初めて売上高1兆円を達成し、2008年3月期までは上り調子であった。一方で、かつて主要事業であった映 像分野は年々売上高を落としている状況で、事業ポートフォリオも転換点を迎えていたと言える。したがって、不正に利用されたジャイラス社の買収も、医療分 野の強化という観点から見れば、必要なM&Aであったと捉えられる。

これらの攻めのM&Aから一変して、2011年の粉 飾事件以降、ITXの売却を始めとして、事業の見直しが図られていくこととなる。さらに、ソニーからの資本の受け入れにより強固な財務体質を手に入れた。 これらの施策の結果、オリンパスは今次のステージに来ていると言ってよいかもしれない。

2016年から始まる中期経営計画のなかで、医療 分野におけるトッププレーヤーを目指すとともに、将来事業の獲得にも注力していくと発表している。ただ、将来事業といっても、関連性の無い分野へは進出し ないと明確にビジョンを掲げており、現在の顧客チャネルの活かせる分野がターゲットになるものと思われる。

【株価】上昇が一服、本格回復は道半ば

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株価は2014年初から2015年4月にかけて約7割上昇した。医療事業の成長と粉飾で傷ついた財務の立て直しが進んだことが評価されている。しかしその後は一進一退の動きとなっており、本格的な上昇基調に入ったとはいえない。今期の予想PER(株価収益率)は22倍前後で、医療機器を手がけるテルモ(約30倍)とニプロ(約16倍)のちょうど中間ぐらいで株価に割安感は乏しい。上値を追うには成長力の強化が課題だ。

【まとめ】医療とソフト、融合させるM&Aに期待

M&Aが粉飾に利用された悪例を作ってしまったオリンパス。正当な目的を有したM&Aも目に見える結果が出ているとは言えず、これ までに成功したM&Aはないと言える。粉飾事件の発覚により、日本の超優良企業が倒産の危機にさらされたが、本業への回帰によって復活を遂げた。

しかし、会社の復活はスタートラインに過ぎない。オリンパスがこのスタートラインで掲げた目標が、医療分野の世界トッププレーヤーになることで、それを目 指すにはM&Aは避けては通れない選択肢となるため、今後の対象領域には注目が集まる。近年は人工知能(AI)と医療分野を組み合わせた領域も広 がりを見せており、M&A対象は必ずしもハードとは限らない。世界トップの品質を誇るハードを持つオリンパスだからこそ活かせるソフトの技術もあ るのではないだろうか。

いずれにせよ、次なるM&Aはオリンパスの復活の狼煙となるのか、期待をして動向を注視していきたい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年11月17日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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