「隠れホーファー票」って何

2016年11月18日 11:30

オーストリアで来月4日、大統領選が実施される。当コラム欄で数回、報じたが、今回は5月22日の決選投票のやり直し選挙だ。「緑の党」元党首アレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)と、極右政党「自由党」議員で国民議会第3議長を務めるノルベルト・ホーファー氏(45)の2人の候補者の間で争われる。

▲大統領選のプラカードが並ぶウィーン市内(2016年10月30日、撮影)

▲大統領選のプラカードが並ぶウィーン市内(2016年10月30日、撮影)

ドナルド・トランプ氏が米大統領選でヒラリー・クリントン氏を破ったばかりだ。その余勢(?)を駆って、ホーファー氏が「わが国でも……」と威勢がいい一方、バン・デ・ベレン氏は、「わが国に欧州最初の極右派大統領を選出してはならない」と有権者に警告を発している。
情勢は、リベラル派代表だったクリントン氏にトランプ氏が挑戦した米大統領選に少し似てきた。米大統領選では、世論調査では潜伏していた「隠れトランプ票」の存在に注目が集まったが、オーストリア大統領選でも「隠れホーファー票」が勝敗を決定する可能性があると囁かれだしているのだ。その点、少し説明が必要だろう。

米大統領選ではニューヨーク・タイムズなど主要メディアがクリントン氏を支援する一方、トランプ氏を酷評してきた。トランプ氏はメディアの批判にさらされ、ほぼ全ての世論調査がクリントン氏の勝利を確信していた。そのような雰囲気の中で、「自分はトランプ氏を応援している」と口に出せなくなった有権者が多数いたという。世論調査の予想を裏切り、トランプ氏が勝利した背後には、世論調査には反映されなかっら「隠れトランプ票」があったからだというわけだ。

ホーファー氏の場合、極右政党「自由党」の幹部だ。同党はネオナチとの関係が久しく囁かれ、ドイツやオーストリアのメディアでは機会がある度に批判にさらされてきた経緯がある。同党はオーストリア・ファースト、反ユダヤ主義、外国人排斥を掲げ、難民の収容には消極的な立場をとってきた。左派系メディアや与党社会民主党の影響が強い国営放送は「自由党」批判の先頭にたってきた。しかし、「自由党」は選挙の度に得票率を伸ばしていった。「隠れ自由党票」の存在を示唆していたわけだ。

その「自由党」の大統領候補者、ホーファー氏の場合、国営放送を中心にホーファー氏嫌いのジャーナリスがTV議論などで同氏を厳しく追及する。ホーファー氏を支持するといえば、「君はネオナチスか」と疑われるのを嫌う国民も結構多い。学生など若い層の知識人の中には「ホーファー氏を支持する」と公言することを避ける傾向がある。民族主義者と受け取られ、その世界観が狭いと見られることを恐れるからだ。その点、米国人の「隠れトランプ支持者」と似ているわけだ。

しかし、「隠れ自由党・ホーファー支持者」はここにきて隠れる必要がなくなりつつあるのだ。なぜならば、「自由党」がネオナチ党のイメージ払しょくのため努力を重ねてきたからだ。シュトラーヒェ党首とホーファー氏は今年に入りイスラエルを訪問し、イスラエルとの関係改善に乗り出し、反ユダヤ主義を公の場で批判している。欧州連合(EU)との関係でも、英国のEU離脱を問う国民投票後の英国民の反応を配慮し、EU離脱シナリオをひっこめるなど、「自由党」はそのイメージの修正に乗り出しているからだ。外観ではソフトなイメージのホーファー氏を大統領候補者に担ぎ出したことで、「自由党」は得している面も否定できない。

それに対し、バン・デ・ベレン氏は、「極右政党出身の大統領はわが国の恥となる」と主張し、極右派大統領誕生の阻止を有権者に懸命にアピールしている。「自由党」は過去、国民に不安や恐怖を訴えて得票率を伸ばしてきた。「緑の党」はその「自由党」を「国民の不安を恣意的に煽っている」と批判してきた経緯がある。その「緑の党」代表のバン・デ・ベレン氏が今度、「ホーファー氏は危険人物だ」と国民に不安を煽っているわけだ。不安を煽る政党は代わったが、不安は常に有権者獲得の武器として政治家に悪用されることを今回も端的に実証しているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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