「極右ポピュリズム」の流れはフランスにも来るか?

2016年11月20日 11:30

フランス時間で今月20日から行われるフランス共和党(les Républicains)内の予備選挙(Primaire)に関して、最新のアンケート調査の結果が出ている。

これによると、何とこれまでの予想に反してジュペ氏(Alain Juppé)やサルコジ氏(Nicolas Sarkozy)を上回り、フィヨン氏(François Fillon)が30%の支持率を獲得して首位に立っているとのことだ。といっても、ジュペ氏はサルコジ氏は両者とも29%獲得しており、極めて白熱した接戦である。三者が完全にほぼ同数の支持を獲得しているとなると、実際の結果がどうなるかは本当にわからない。

従来の見解では

ただ、仮にもしジュペ氏でもサルコジ氏でもなくフィヨン氏が勝利するのであれば、知名度に若干マリーン・ル・ペン氏に劣る嫌いのあるフィヨン氏がマリーンに大敗北してまさかのル・ペン大統領の誕生というシナリオも全く有りえないわけではない。

これまでの予想では、大統領選の第一次選挙ではルペン氏がかなり高い確率でトップで勝利するが、過半数まではとれず、従って第2位で第二次選挙に進む共和党候補あるいは旧社会党所属のマクロン氏が次期大統領の座を占めるだろうと考えられてきた。

とはいえマクロン氏は社会党を離党し自分の名前(Emmanuel Macron)のイニシャルとかけた “En Marche!”というよくわからない政党を立てて社会党から顰蹙をかっているなど、若干迷走気味なのでマクロン氏が共和党候補を抑えて第二次選まで進めるかは疑問である。

そこで大方の予想では、共和党内の予備選挙に勝利し共和党候補となった者が次期大統領になるだろうというのが「常識的」な見方であったが、それはあくまで共和党候補がジュペ氏かサルコジ氏であるという前提の下で建てられた見解である。

というのも、ジュペ氏が対立候補なのであれば、反国民戦線という点で利害の一致する左派票や中道派の票が集まることでジュペ氏が勝利することは確実であるとみられていたし、サルコジ氏の場合には左派や中道派の一部が棄権する可能性があるとはいえ、無党派層や極右支持層の一部をサルコジ氏が奪取できる+富裕層や知識層の反FN親中道路線の傾向は強いという二つの理由でやはりサルコジ氏が勝利すると思われていたからだ。

フィヨン氏が共和党の候補になるとどうなる?

ところが共和党候補がフィヨン氏となると話は別である。一応事前予想ではフィヨン氏 vs マリーン(ルペン氏)の場合フィヨン氏が約60%、マリーンが40%を獲得してフィヨン氏が勝利するとされているが、36%が無回答という状況なのでルペン氏サイドの選挙戦略次第では今後どう動くかは未知数である。

何故ならまずフィヨン氏はマリーンと比べて知名度も注目度も低いし、かつ彼の行った教育改革は特にバカロレア試験を受ける程度に教育程度の高い若者の間で評判が非常に悪い。つまり左派の若者から敵視されている可能性のある候補だということだ。

確かにサルコジ氏よりはバランスがとれているかもしれないが、もしジュペ氏が何となく旧態依然とした現状維持的な、つまり中立的な意味での「保守性」の為に共和党内での人気がイマイチなのだとすれば、フィヨン氏が候補となっても全く同種の「つまらなさ」で国民の間でイマイチ人気が出ないということも考えられうる。

またこの記事の予想を見ても分かる通り、そもそもフィヨン氏が相手なら社会党の応援無しでも第一次選でマクロン氏がフィヨン氏に勝ってしまう可能性も皆無ではないし、あるいは場合によっては最近極右派の移民政策に部分的に賛同するなど「反動化」している、と左派から批判されつつも国民の間では支持を広げつつある極左のMelanchon氏が僅差で勝つ可能性も完全には否定できない。

といってもフランスの大統領選はアメリカ以上に厳しく、現段階で国民戦線(FN)候補のマリーンが大統領になれると予想するのはまだ難しいし、共和党候補がそのまま大統領になるというのが最も現実的な見方であるのはさすがに否定できない。

英国のEU離脱及びトランプ現象との比較

ただ英語圏の「ポピュリズムの勝利」の流れがフランスにも来るかもしれないという見方もあり得るかもしれない。そこで、英国EU離脱選挙と米大統領選を振り返って検討してみると、「ポピュリズム」側の勝因にはある共通項があることがわかる。

まず英国の国民投票では、若者の投票率が下がれば下がるほど離脱は現実味を帯びてくるということは言われていた。実際蓋を開けてみれば若者の投票率は低かったのだが、これが離脱派の勝利に繋がる一つの決定打になったと言われている。離脱派は数を増やしはしなかったが、残留派の投票率が予想以上に低かったことが離脱派の勝因となったのである。

トランプ氏の勝利に関しても同様の現象が起こったと言われている。つまりトランプ氏の勝因はトランプ氏の成果ではなく、単純にクリントン氏が自ら墓穴を掘ったからだということだ。その論拠は、今回鍵となった、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの三州でのトランプ氏支持率は、ロムニー氏の時とほとんど変わっていないという点である。

つまりトランプ氏は固定共和党支持層を失望させない程度の成果を出したに過ぎず、別に新たな支持層を開拓したわけではないのである。だがクリントン氏側がこれらの地域で選挙活動をほとんど行わず、何もしなくても「取れるもの」と見くびっていたことが仇となり、トランプ氏の人気上昇というよりはクリントン氏への当てつけで民主党支持層(黒人層など)の投票率がオバマ氏の時と比べて10%以上も下がっていたことが、クリントン氏にとって決定的な敗因となった、というわけだ。

こうしてみると、いずれの場合も確かに事前予想を覆したとはいえ、これまでEU残留派だった人や反トランプ派だった人達あるいは無党派層が大規模に意見を変えるというような現象は起こっていない。

むしろ単純に「リベラル」側の有権者(英国では若者、米国では黒人などのマイノリティ)の投票率が低下傾向にあったというのが英国民投票と米国大統領選の共通項であることがわかる。(つまり、既に米国全体での得票数の結果比較を基に渡瀬氏が指摘しているように、個別の激戦州の結果から見ても最近リベラル派に浸透しつつある所謂「隠れトランプ支持票」説は誤りであって、むしろ「架空のクリントン支持票」説が正しい。)

従って、仮にリベラル派の投票率低下が「ポピュリズム」勢力の伸長の核心的原因であるとするならば、共和党候補がフィヨン氏となり、第二次選挙でフィヨン氏 vs ルペン氏となるという状況は、またしてもリベラル派の選挙結果に対する無関心を増長する可能性があるかもしれない。そうだとすれば、わずかではあるがルペン氏にもまだ勝機がある。

マリーン・ル・ペン氏とフィヨン氏の比較

そこでルペン氏とフィヨン氏の政策を検討してみると、教育政策に関しては「各校の自主性」(=国家の教育予算の削減)を強調するフィヨン氏はジュペ氏ほどではなくともサルコジ氏以上には「エリート」側に立つと見られるだろうし、しかも移民に対する強硬論で「共和党内の最右翼」とまで言われることもあるフィヨン氏では、サルコジ氏と同程度に左派からの支持を集めにくいことが予想されるのでリベラル・中道派層の棄権が目立つ可能性は多少なりともある。

またフィヨン氏は移民に対してクオータ制を導入し制限するなどの強硬姿勢で臨むことを主張しているので、この点も左派から見ればFNと同程度に「邪悪」と評価され得る。

経済政策に関してはフィヨン氏は相当に自由主義的な政策を主張している。例えばルペン氏が現在週35時間までを限度としている労働時間制限を「必要な場合に限って」週39時間までに「緩和」することに言及するに留めているのに対し、フィヨン氏はフランス独自の労働時間制限を撤廃しEU法の限界である週48時間まで交渉次第で合法化させることを意図していると言われている。従ってフィヨン氏は貧困層や労働者には相当嫌われる可能性があるが、富裕層や使用者側からは大歓迎され得る。

他方ルペン氏は公的歳出の大幅削減を主張しているが、同時にユーロ通貨からの離脱も主張している。これは富裕層や外国資本にとって脅威となるが、貧困層にどのような影響が出るかは未知数である。従って「脱EU」を掲げるルペン氏に不安を持つ人々は結局フィヨン氏を支持するかもしれないが、明確に反EU的立場をとる人にはルペン氏が熱烈に支持されるだろう。

とはいえ、もしこのように特に経済面で「右派的」政策を主張するフィヨン氏が候補となることが、リベラル派や若者を何となく白けさせることになる一方、熱心なFN支持層をルペン氏が着々と少しずつ拡大していくという状況が続けばルペン氏が大逆転する可能性もあるかもしれない。

また仮にフィヨン氏が次期大統領になったとしても、知的で穏健な彼ではフランスの社会面での問題に関する現状を何も変えられないのは目に見えている。国民が社会党のみならず共和党にも失望するまでそんなに時間がかからないとしたら、ルペン氏が大統領になるのも単に時間の問題に過ぎないかもしれない。

尤も、ルペン氏は最近大統領選を意識して穏健化してきており、そのことが党内での分裂を生んでいるとも噂されている。畢竟「極右」政治家も「健全」な民主主義制度の下で人気が出てしまうと民意と主義の板挟みになってしまい結局民意に流され穏健化してしまうものなのだろうか。

最近のトランプ氏の動向を見ているとつくづくそう思うが、ルペン氏も結局同じ運命を辿るのなら、実は今のまま批判野党でいる方が本領を発揮できるかもしれない。そういう意味では最近のマリーン氏の「転向」を暗に批判していると噂される姪のマリオン(Marion-Maréchal Le Pen)の方がFNという政党の存在意義をより明確に自覚しているのかもしれない。

 

*追記:フィヨン氏の経済政策に関して一部修正致しました。修正前はフィヨン氏は35時間制を維持するつもりがあるとしていましたが、現在のフィヨン氏は明確に35時間制廃止を打ち出してきているようなので、それを考慮し内容も修正した次第です。混乱を招きましたこと、ここに深くお詫び申し上げます。

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