バロンズ:トランプ・ラリーは行き過ぎたか

2016年11月21日 06:00

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バロンズ誌、今週のカバーは”米国債の制御:100年債発行の場合(Taming Federal Debt: The Case for 100-Year Bonds”)と題し債務の王(King of debt)”を自称するドナルド・トランプ氏の米大統領選就任に合わせ100年債の導入を提案する。足元で米政府の債務残高は14兆ドルに及び、米議会予算局の試算ではトランプ新政権が支出増加を回避し減税を実施しなければ20年後の政府債務は45兆ドルとなる見通し。45兆ドルの政府債務の金利負担は現行の低金利ですら年間7,500億ドル、金利上昇が進めば年間1.5兆ドルに達する公算だ。現状では30年債が最長の国債だが、メキシコを始め100年債を発行済みの国が増えるなか、ドルの信認を有する米国で低金利環境を利用し100年債の発行を検討すべきではないかと問う。詳細は、本誌をご覧下さい。

なお中国は1996年に100年債を、メキシコは2010年10月に表面金利6.1%で10億ドル発行し、100年債規模としては過去最高を記録した。そのほか2015年にはベルギーが表面金利2.5%で5,000万ユーロ、アイルランドは2016年3月に表面金利2.35%で1億ユーロを発行してきた。今回のカバーは、バロンズ誌の名物コラムニストでアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートの執筆者であるランダル・フォーサイス氏が担当し、トランプ新政権下で米国を救うべき方策を提示するコラムの第一弾である。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は”トランプ・ラリー”に着目する。抄訳は、以下の通り。


トランプ・ラリーは行き過ぎたか?—Has the Trump Rally Gone Too Far?

”伝道の書”には、全てに季節があると記されていた。金融市場には、ある資産クラスが別の株式市場など別の資産へ振り分けられるように、”ローテーション”というものがある。投資信託の調査会社であるトリムタブス・インベストメント・リサーチのヘッドであるチャールズ・ビダーマン氏に言わせれば、市場の資金の動きは”暴走”そのものだ。トリムタブスのデータでは、株式の上場投資信託(ETF)には米大統領選から津波のように446億ドルもの資金が押し寄せた。これは2007年7月以来、過去2番目の高水準にあたる。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、EPFRのデータを基に米大統領選後の1週間で株式ETFに253.9億ドル流入し2014年12月(テーパリング終了は2014年10月)以来で最大だったと指摘。当時は、テーパー・タントラムの嵐が吹き荒れ始めた2013年6月以来で最大の規模を示した。

時間を現在に戻して、米大統領選から債券から株式への資金移動が急速に進んでいる。ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル・アグリゲート・インデックスは直近の2週間で4%も低下した。ファンド動向をみると米地方債ファンドから30億ドル、エマージング市場の債券ファンドから66億ドル流出するほどだ。それもこれも、トランプ政権スタートで減税・インフラ投資並びに防衛費の拡大、関税引き上げなど保護主義への傾倒が見込まれるためで、成長を促進すると共にインフレ上昇が予想されている。市場関係者の間ではダウやS&P500がそれぞれ19,000ドル、2,200pを突破する日が近いとの見方が優勢だ。

マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏は、トランプ次期大統領が選挙公約通り政策を進めれば企業家精神を養い生活水準を引き上げ、経済成長につながると予想する。しかし、レーガノミクスで謳歌したような経済成長は望み難い。株式市場が変わってしまったためで、レーガン政権が発足した当時、米株のバリュエーションは第2次大戦後以来で最低だったため時価総額は国内総生産(GDP)比40%に過ぎなかった。しかし、足元の米株時価総額はGDP比196%に及ぶ。

ダウは15日まで7日続伸、過去最高値は4日連続。

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(出所:Stockcharts

レーガン政権発足時の米株のバリュエーションにおける低下は、長きに渡る米債の弱気相場につながった。当時、米10年債利回りは1964年の4%から14%まで上昇。その逆で株式相場が上昇するに合わせ米債は切り返し、30年に及び強気相場が続いた。ただし、ストラテジストをはじめ市場関係者は米債ブル相場の終了を宣言し始めた。

ホイジントン・インベストメント・マネジメントのヴァン・ホイジントン氏とレーシー・ハント氏によれば、レーガン政権での減税は金利低下を背景に実施された。足元より低い水準の債務にとどまる経済では、減税が成長に貢献したものだ。しかし、今は違う。非金融関連の債務はGDP比251%に達し、レーガン政権発足時の135%を大幅に上回る。従ってポンボイ氏が指摘する通り、米経済は金利上昇に敏感にならざるを得ない。米30年債利回りは4%を突破した半面、ローン返済総額が持ち家の価格を下回る(ネガティブ・エクィティ)の割合は依然として24%の状況だ。ホーム・エクィティ(持ち家価格からローン残債を引いた価値)も57%にとどまり、約10年前の住宅バブル崩壊時より低い。10月には住宅差し押さえ軒数が27%も急伸し、1ヵ月での上昇率が2007年8月以来の高水準だった。

住宅バブル期にホーム・エクイティ・ローンを利用した世帯は、10年後に金利のリセットを迎える。その数は今年で約84万世帯、2017年には約100万世帯に達する見通しだ。米10月住宅着工件数の急増は、ピークを示す可能性を示す。

企業も、金利上昇のリスクを検討しなければならない。向こう2年間で、2兆ドルの社債が償還を迎える。肝心の現金保有高はというと、S&P500構成企業全体で1.6兆ドルのところのトップ25社に偏り、下位250社は900億ドルに過ぎない。金利上昇は社債による資金調達を困難とさせ、自社株買いが縮小しうる。

トランプ次期大統領は、レーガン元米大統領と違い保護主義を目指す可能性があり関税引き上げに踏み切りかねない。そうなれば金利上昇というコスト負担だけでなく、価格上昇にも悩まされそうだ。

金利上昇の陰で、ドル高も進行してきた。ドル高のダメージはメキシコだけでなくアジアも直撃し、トランプ次期大統領が”為替操作国”と呼んで憚らない中国では人民元が対ドルで2010年以来の安値をつけた。結果、中国当局は人民元安にブレーキを掛けるため元買い・ドル売り介入に踏み切らざるを得なくなっている。9月対米証券投資で中国は米国債を149億ドル売り越し、海外中銀と海外の民間投資家を合わせた米国債売り越し額は766億ドルに及んだ。

ドル高は、金利上昇に加え米国の輸出業者に対し金融引き締め効果を与える。足元で米国市場はドル高を無視しているが、2016年の年始にマーケットが急落した点は覚えておきたい。


米大統領選直後の米株”トランプ・ラリー”は、傍目からみて”行き過ぎ”感は拭えません。年末にかけての大規模なドレッシング買いが進んでいるかのようにすら見えます。エマージング諸国の株安・通貨安による負の影響を鑑みず、かつドル高を受けた業績への打撃に加え、自社株買い・増配など株主還元策の梯子が外される可能性すら無視しているようです。また、トランプ政権入りメンバーの顔ぶれだけでなく、トランプ・ファミリーの政策介入が注視されます。安倍首相とトランプ次期大統領との会談では、長女のイヴァンカの存在がありました。イヴァンカ氏と言えば夫はジャレッド・クシュナー氏で、その父チャールズを脱税と違法献金の疑いで告発した当時の連邦検査官はニュージャージー州のクリス・クリスティ知事。クリスティ知事が政権移行チームから脱落したのは、周知の通りです。一家の思惑が政策決定に影響し、共和党主流派との関係にヒビが入らなければ良いのですが・・。

トランプ新大統領が任期前に辞任するとの観測も出回っていますが、個人的にはないと考えます。イヴァンカ氏や夫のクシュナー氏など政治的野心が垣間みれますから、この2人の政界進出を挫くような失態は演じないでしょう。

(カバー写真:Sam valadi/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年11月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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