人間天皇より天皇制が大事な識者たち

2016年11月25日 06:00

違和感のある天皇観が目立つ

天皇陛下自らが健康上の理由などから望んでいるとされる退位問題で、有識者会議は2回のヒアリングを終え、最終回を残すだけとなりました。11人の識者の発言を読み返してみますと、ついていけない天皇観を述べる識者がかなり目立ちます。この人たちは、人間としての天皇より、天皇制という制度の維持、解釈に意識が集中している感じで、違和感を持ちますね。

敗戦を受けた憲法改正で、天皇は現人神から「象徴天皇」になり、天皇も「人間宣言」をしました。「人間宣言」という文言は正式には発せられていなくても、神の扱いから人間としての扱いに変わったということでしょう。「象徴」とは、憲法第一条に「天皇は日本国民統合の象徴。この地位は国民の総意に基づく」とあります。様々に解釈される「象徴」の意味は、裏を返していえば、主権者はあくまでも国民だ、もう神聖視するな、ということなのでしょう。識者の発言で気になった部分を取り上げてみました。

「天皇陛下ご苦労様という国民感情が天皇の退位に直結してよいのか。民族の象徴であるのは、祈ることにより祖先へと続くからだ。世間の同情に乗じ、特例法で対応するならば、憲法違反に近い」(平川東大名誉教授)。「国民感情が直結」とか、「世間の同情」とか、世論にも天皇にもきつく、表現が気になります。

現行制度が最良なのか

「現行制度が最良の策で、退位は皇位継承の安定性確保のためには避けるべきである。退位を求める場合、皇室典範改正により、恒久制度化すべきである」(古川日大教授)。人間天皇が高齢になり、退位問題を速やかに解決すべきなのに、時間がかかる皇室典範改正を先行させよ、ですね。天皇がいつまで健康でいられると思っているのでしょうか。

「同じ天皇がいつまでもいらっしゃるというご存在の継続そのものが、国民統合の要となっている。天皇の制度自体が基本的人権の例外である。その例外の中で考える必要がある」(大原国学院大名誉教授)。「同じ天皇がいつまでも」ではなくなりかけているから今回の問題が起きたのです。さらに人間天皇なのに「基本的人権の例外」とは、ついていけませんね。人間天皇の健康に配慮しては、天皇制が一大事になるとの考えでしょうか。

「宮中で国と国民のためにお祈りくだされば、天皇は仕事を本質的に十分なさったことになる。天皇の身体は宮中にあっても、国民のために祈ることがもっとも大切なことである」(渡部上智大名誉教授)。祈ることだけではたりないので、戦地や被災地に慰霊、慰問に出かけるのでしょう。太平洋戦争で国民に悲惨な思いをさせた償いに、平和を願い慰霊の旅を続けてきたのでしょう。祈りの神事で十分とは、言い過ぎですね。天皇神格化の影がうかがえます。

国家安寧の基軸である皇室は?

「国家安寧の基軸である皇室には、安定性が必要だ。天皇の役割は国家、国民のために祭祀を執り行って、祈ってくださることだ」(櫻井よしこ・ジャーナリスト)も渡部氏に通じるところがあります。人間天皇の生身のご様子、状態よりも、天皇制という制度に価値を見るのでしょうか。国によっては国王、大統領という国家元首が「国家安寧の基軸」でしょう。日本の皇室に対しては、位置づけからして言い過ぎです。

「存在自体が貴重であり、国事行為・公的行為は必ずしも、天皇ご自身でなさる必要はない。被災地の訪問はおやめになり、お言葉のみで十分だ。退位すると、天皇より上皇が権威を持つ」(今谷帝京大教授)。「存在自体が貴重」とは、なんだか天皇を神格化しようとする思想ですね。さらに「与野党が一致するまで退位を送れ」と。要するに退位の否定ですか。

識者のなかには、「退位を認め、法律の形式については、皇室典範の例外法とする。将来、皇室典範を改正する場合には・・」(石原・元官房副長官)と、二段階方式を提唱する現実的な人もいます。「高齢譲位という概念で議論してほしい。特別法で対応し、その後に本格的な議論を」(所京産大名誉教授)も同様でしょう。

「生前退位」、「退位」、「譲位」など表現も様々で、神経を使う問題です。そのうえ、天皇の神格化を望む人、宗教色の強い天皇制を想定する人、戦前はおろか神話時代の天皇像に親近感を持つ人、逆に天皇の役割をできるだけ狭い範囲に押し込めたい人、国民に寄り添う天皇観を歓迎する人など、多様でしょう。

「天皇の地位は国民の総意に基づく」(憲法)ですから、当然、識者の思想、信条、天皇観はその人の自由であっていいと思います。それにしても最後のヒアリングでは、「多様な意見が聞けた」となってほしいですね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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