「日本死ね」という言葉が公共空間に飛び交う不気味さ

2016年12月02日 08:54

奇妙な民進党議員の笑顔

「保育園落ちた日本死ね」

このような言葉を使った匿名のブログが今年3月にネットで騒ぎになった。新聞などが「母親の叫びを聞け」という趣旨で頻繁に取り上げた。毎年、政治色が疑問を持たれ炎上する「流行語大賞」で、今年はそれがトップテンに入り、国会の予算委員会でこのブログを取り上げた民進党の山尾しおり議員が授賞式に登場した。「死ね」とあちこちで叫んだ彼女は、授賞式で「保育園問題を政治課題にできた」と、うれしそうだ。

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この光景は異常だ。国会やメディアなどの公共空間で「死ね」という言葉が飛び交う国は、現代史で私は記憶がない。異様なお笑い国家の北朝鮮が、他国を罵るとき程度だ。「死ね」という異様な言葉を、笑いながら一部の人が公共空間で軽々しく使う。さらに、自らの国に呪いを向ける。普通の人の持つ愛国心を傷つける行為だ。これに不気味さを感じない人は、人間としての感覚がおかしい。

保育制度にはたしかに問題があろう。ただし、この「日本死ね」発言を肯定的に広げる動きに、まともな常識人は、眉をしかめるだろう。安倍首相は山尾氏の質問に「匿名の、死ねという発言には答えられない」という常識的な趣旨の返事をした。なぜか山尾氏、民進党、メディアは「母親の苦しみが分かっていない」という奇妙な、感情的な攻撃をした。

過激な言葉は注目を一時的に集めるかもしれないが、解決策を示すものではない。問題が別の方向に転がっていき(このコラムもそうだが)、保育園問題の解決に必ず悪影響を与えるだろう。

ナチスでさえ「死ね」という言葉を使わない

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現代史の中で、国家が組織的な殺人を繰り返す異様な国は、いくつかあった。ナチスドイツ(1933−45)は欧州のユダヤ人を最大推計で600万人、また政治犯、ロシア人捕虜、精神病患者、占領地の反対者を組織的に殺害し続けた。

なぜこんな残酷な政治体制が、当時の先進国であったドイツで成立したのか。こうした疑問をもって、私は当時のドイツの状況を分析した本を何冊も読んだが、国内プロパガンダで印象に残ることがあった。そこでは相手を「殺す」とか、「死ね」などの、下劣な言葉は可能な限り注意深く避けられていた。

ユダヤ人の組織的殺害については「政治的解決」「措置」「移送」という言葉が使われた。パルチザン、占領地の虐殺は「政治的検査」という言葉が使われていた。プロパガンダでは、敵の存在は強調されたが、それをどう処置したか、明確にされなかった。当時のドイツ人、ドイツ軍人は何が行われていたかはうすうす気づいていたが、何も言わなかった。

ナチスの特徴の一つは、国内、国外に向けて自分たちの「正義の闘争」を演出することにあった。闘いは非日常の行為で、エネルギーが必要だ。憎しみと同時に正当性が必要になる。それゆえに「死ね」などの、倫理的に下劣で、異様な言葉は、下級の構成員は別にして、公共空間では使われなかったのだろう。そうした言葉は自らの正当性を失わせてしまう。ましてや自分の国を意図的に穢すことを、ナチスはしなかった。国を呪うことは、正当性を根本から政治主張でなくしてしまう。

日本をおとしめる人の意図は何か

日本人は、こうしたナチスより、またそれを受け入れた当時のドイツ人より、民度が低いのだろうか。

そんなことは決してないはずだ。この国は、「言霊」(ことだま)という、言葉の霊力を称え、恐れる文化がある。「大和歌は人の心を種として
よろづの言の葉とぞなれりける」「力をも入れずして天地を動かし
目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」(紀貫之・古今和歌集・序、10世紀)というように、いにしえから言葉を丁寧に扱ってきた。「死ね」という言葉を公共空間で使う人々の姿は、非日本的である。

「死ね」という言葉を流布する政党、メディアの、その異様さを警戒した方がいい。一部の人々に、意図的に、もしくは無邪気に、日本をおとしめることを喜び、広めたいおかしな意図があり、その目的に沿った活動をしているとしか思えない。なぜか日本では政治家とメディアにそうした人が多いのは不思議だ。

異様な人々の行動に、私たち「普通の」日本人が引きずり回される必要はない。おかしな人々の言説が流行することに注意し、その人々が力を持たないようにしていかなければならないだろう。

ナチスの情報大臣で、宣伝を担当したゲッペルスは次の言葉を残しているという。

「思想宣伝には秘訣がある。何より対象人物に、それが宣伝だと気づかせてはならない。同様に意図も巧妙に隠しておく必要がある。相手の知らぬ間に、情報にたっぷり思想をしみこませるのだ」

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