トランプ次期大統領は、記者会見を続けるのか否か

2016年12月05日 06:00

ホワイトハウス記者会見場

バロンズ誌、今週のカバーはトランプ新政権下で米国を救うべき方策を提示するコラムの第3弾として”大いなる再建(The Great Rebuilding)”を掲げる。米大統領選で、トランプ次期大統領は10年間で1兆ドルのインフラ投資を方針を描いた。ウェブサイトでは「輸出を促し、人々が迅速かつ安全に移動できるよう保証するため」投資を行うと説明する。しかし2つの戦争と世界恐慌以来で最悪の景気後退を経験し、米連邦債務は19兆ドルに達し、インフラ投資に踏み切る余地は限られている。どうすれば巨額なインフラ投資が可能となるだろうか。

方法はある。100年債の発行に加え、トランプ氏が商務長官に指名した投資家で日本通のウィルバー・ロス氏と経済アドバイザーであるピーター・ナバロ氏の”自力調達プラン”によると、1,370億ドルの税額控除で1兆ドル近いインフラ計画を支援できるという。民主党のクリントン候補が掲げたインフラ銀行は、財務長官として指名されたスティーブン・ムニューチン氏もお墨付きを与えた。バロンズ誌としては、ビルド・アメリカ債(BAB)の再発行を推奨。BABは2009年4月に、深刻な景気後退を背景にオバマ米大統領が景気刺激策の一環として導入、地方自治体の雇用促進を狙った。①利払いコストの35%は連邦政府が補助、②地方債でも課税対象、③高利回り——という特徴がある。

別の記事では年末恒例として、2017年のバロンズ誌推奨10銘柄も発表した。アルファベット順で、以下の通りとなります。2016年に続いてリストに上がった銘柄はアップル、デルタ航空の2つのみでした。カバーと合わせ、詳細は本誌をご覧下さい。

1.アルファベット
2.アップル
3.シティグループ
4.デルタ航空
5.ドイツテレコム
6.メルク
7.ノバルティス
8.トール・ブラザーズ
9.ユニリーバ
10.ウォルト・ディズニー

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はカバーを執筆したランダル・フォーサイス氏の代わりに、前週に続きコピン・タン氏が担当する。トランプ新政権とメディアの関係に注目した今回のコラムの抄訳は、以下の通り。


ニュースピークの時代へようこそ—Welcome to America’s Newspeak Era.

*ニュースピークとは、ジョージ・オーウェルの小説”1984”に登場する架空の言語で。全体主義国家が英語が”oldspeak”をもとに作り、曖昧な語彙、表現を削ぎかつ文法を単純化し思想などを統制した。

トランプ新政権の閣僚メンバー指名の話題でニュースはもちきりだが、次期大統領は7月以来、記者会見を開いていない。記者会見で大統領や大統領報道官が説明責任を果たすというニクソン元大統領が確立したジャーナリストの役割に、トランプ氏は頓着していないようだ。レポーターの質問に回答することを嫌い、ツイッターやユーチューブなどで米国民に直接対話する手法を好む。トランプ大統領誕生後、記者会見用の部屋は一体どうなるのだろうか?

トランプ次期大統領は、記者会見を行う義務はない。また、自身で情報発信することを好んだ大統領は彼が初めてではない。フランクリン・D・ルーズベルト大統領は、ラジオで演説を通じ国民と対話した。ジョン・F・ケネディ元大統領は、居間からTVを通じて語りかけた。ただ、どの大統領も報道をここまであからさまに馬鹿にしたことはない。

元NY州知事のマリオ・クオモ氏はかつて「選挙運動は詩のごとく、政治活動は散文であれ」と語った。しかし、トランプ氏はメディアを「最も低俗な生命体」とまで罵倒し、反トランプ運動を煽動したとも批判する。5thアベニューの金色で囲まれた部屋に住むトランプ氏が報道陣を”エリート主義”と呼ぶのは、チェダーチーズをグリエール・チーズと呼ぶようなものだ。そのトランプ新政権は、報道にどのような影響を与えるだろう?

President-elect of the Unite Statesの文字が眩しい限り。フォロワー数は1,660万人とホワイトハウスの1,280万を上回る。
twitter-d
(出所:Twitter

考えてみてほしい。企業の最高経営責任者(CEO)がカンファレンス・コールを行わず、ツイッターで業績に有利な会計基準を採用したと説明すれば、あるいは業績悪化のニュースを配信した時にどうなるのか。ロシアが発信したとされる偽のニュースに惑わされるケースも増加しうる。

辞書で権威のあるオックスフォードは、2016年を代表する言葉として”post-truth(日本語ではポスト真実と訳される)”を選んだ。事実より、個人の感情や信念がまかり通る米英の風潮を指す。post=投稿から成る真実を受け入れる体制を迎えた現代、”高慢と偏見”は”分別と感性”に打ち勝ったと言えよう。

ピュー・リサーチ・センターの世論調査で、”大いなる信頼を寄せる”対象としてメディアを挙げた割合は5%に過ぎず、33%は米軍や科学者を挙げた。メディア以下だったのは企業のリーダー(4%)、政治家(3%)などに過ぎない。メディアの信頼度が低下した背景には、クリック数で広告を稼ぐようになった収入体制が挙げられる。その結果、”痩せるための5つの食品”、”リッチになるために取得すべき10銘柄”など、分かりやすいヘッドラインのニュースが好まれてきた。

そうしたニュースを閲覧するにあたって、台所のようにカスタマイズできてしまうことで視野が狭くなる短所もある。ニュースは”何を知るべきか”よりも、”何を知りたいか”に変化してしまった。市民間の対話を急激に減らし、異なる見解を持った米国民の間での共通の場を失わせてしまっている。

トランプ氏は、中傷を口にするのを憚らずニュースのヘッドラインを提供する自身の言葉がメディアに溢れるのを理解していた。結果的に同氏を共和党の大統領候補から次期大統領に押し上げたと言える。ただし、変化が訪れるのは近い。ザ・リンガー・ドットコム(TheRinger.com)のビクター・ラッカーソン記者は、今のところトランプ氏は「対照的で矛盾を含んだ自身のメッセージをコントロールしている」という。しかし、記者会見の質疑応答は偽善や矛盾を炙り出すため、その場で事実確認が可能となりネットで通用していた成功例が成り立たなくなるというわけだ。トランプ氏は一般投票の得票数で敗北した点について、民主党のクリントン候補との得票差が250万票に及んだにも関わらず「数百万人が違法投票した」ためと根拠なしに訴えた。投稿が真実を作る”ポスト真実”の時代に、世界が何を出来るのか考えて欲しい。

トランプ・ラリーが一服した間に、ある国の株式市場は米株を上回るパフォーマンスを遂げている。中国株であり、S&P500のリターンが2.5%に対し、中国A株に連動する上場投資信託(ETF)は3.8%も上昇した。トランプ政権誕生に絡む世界貿易の不透明性、米金利上昇と米国への資本流入など中国に不利な状況を示すものの、内向きな米国が中国の台頭を支援するとの見方が流れるためだろう。

中国と言えば、囚人においてジャーナリストの割合が高い国のひとつだ。その中国は、市民の社会的な行動ならびに投資・金融関連の行動を格付けするためデジタル記録を収集、その上で個人の社会信用力を格付けし管理する方針を打ち出す。習近平氏は2012年に主席に就任してから、国内の報道管理を強化し、海外報道機関は政府の報道戦略の一挙手一投足を拾っている。しかし中国の国営メディアはより協力的であり抑制されてきた。


トランプ次期大統領は就任後もツイッターなどを利用し続ける移行を表明しており、独自に米国民並びに世界と対話する見通しです。長女イヴァンカのインスタグラムも、トランプ政権の裏外交ツールとして今後は注目すべきでしょう。ひとつ明確な点は、トランプ新政権がワシントン流に倣わず我流を貫くということ。週末はワシントンD.C.からNYへ戻って過ごし、メラニア夫人と勝利演説で話題になった三男バロンくんはNYでの生活を続けると言われています。善かれ悪しかれ、新政権が話題を振りまきメディアがネタに困ることはなさそうです。

(カバー写真:John Sonderman/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年12月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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