ECB、「テーパリング」否定も資産買入額を縮小

ECBテーパリング否定

欧州中央銀行(ECB)は8日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、引き続き市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。3月に決定した追加措置も、堅持した。据え置きは、6回連続となる。

ドラギ総裁は、記者会見で以下の決定を発表した。
・資産買い入れプログラム(APP)の期間を2017年3月から9ヵ月延長、2017年12月末まで
(資産買い入れ額は5,400億ユーロ、約65.6兆億円増加させ、資産買い入れ総額は2.3兆ユーロへ)
・月額の買入額は800億ユーロから、600億ユーロへ縮小
・発行銘柄ごとの保有上限は33%で維持
・中銀預金金利(マイナス0.4%)を下回る水準での買入を承認
・残存期間の下限を従来の2年から1年へ変更

ドラギ総裁は量的緩和(QE)の延長につき、引き続き「必要であれば」延長する意志を表明した。買入額を縮小したとはいえ「見通しが芳しくなく、金融環境がインフレ目標への進展と合致しない場合は規模や期間を延長・拡大する」とも付け加えた。質疑応答では理事会で「テーパリングへの質問はなく、協議もしなかった」と強調。むしろ資産買い入れ期間の延長が「ECBの存在感を持続的とし、刺激策の効果を一段と長続きさせる」と述べハト派寄りの姿勢を打ち出す。

ハト派寄りの姿勢を印象づけるように、「デフレのリスクは減退したがあらゆるところで先行き不透明性が優勢である」とも言及。ECBスタッフによるインフレ見通しでは目標値2%手前の達成が2019年である通り、目標到達までの道程が依然として遠い可能性をちらつかせる。経済は予想通りの回復をたどりつつ「下振れリスク」が残り、緩和策の必要性を唱えた。

2017年3月にオランダで総選挙、2017年5月にはフランスの大統領選挙、同年9月にはドイツで総選挙を控えるなか「実用性と柔軟性を持ってリスクに対応する」と述べた。今回の金融政策決定は、「緩和を維持するよう意図した」と説明することも忘れない。

ECBスタッフによる経済見通し、改訂版は以下の通り。

2016年見通し(12月時点)
GDP 1.7%
HICP 0.2%
コアHICP 0.9%

2016年見通し(9月時点)
GDP 1.7%
HICP 0.2%
コアHICP 0.9%

2017年見通し(12月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.1%
コアHICP 1.3%

2017年見通し(9月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.4%
コアHICP 1.3%

2018年見通し(12月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.4%
コアHICP 1.5%

2018年見通し(9月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.6%
コアHICP 1.5%

2019年見通し
GDP 1.6%
HICP 1.7%
コアHICP 1.7%

BNPパリバのルイジ・スペランザ欧州・CEEMAマーケット・エコノミクス共同ヘッドは、レポートにて「ECBは買入額の縮小により市場にQEが永遠に続くわけではないとのメッセージを送った」と振り返る。緩和余地を残したとはいえ、ECBスタッフ経済見通しが微調整の域を出なかった事情もあり「ユーロ圏経済が予想通りに進展すれば、さらなる縮小もありうる」と指摘。深謀遠慮な手法で、テーパリングへの扉を開いたとの考えを示した。

――ECBの決定を受け、ユーロが乱高下しつつ欧州株は上昇で反応しました。ハト派トーンにアクセントを置いた記者会見ながら、出資の割合いわゆるキャピタル・キーに応じた買入額の規定は変更せず。ドイツなど大口出資国への配慮を示した決定となっています。バイトマン独連銀総裁がQE期間延長に反対した一方、南欧諸国が9ヵ月ではなく12ヵ月の期間延長を求めたとのニュースも。仮に本当だとしたら、複数の南欧諸国の中銀総裁より独連銀総裁1人の影響力がいかに大きいかが伺えますね。

ECBの決定は、13〜14日予定の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えユーロ安加速を回避する絶妙な落としどころだったといっても過言ではありません。日銀の金融政策も、長短金利操作付き量的・質的緩和策へ姿を変え円安誘導色が弱まりました。米国がくしゃみをすれば各国が風邪を引かずとも咳込む環境であるだけに、無用なドル独歩高で世界経済を減速させたくない狙いが見え隠れします。

(カバー写真:European Central Bank/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年12月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。