トランプ・ユーフォリアに死角はないのか

2016年12月18日 16:00

yasuda1217

バロンズ誌、今週のカバーはトランプ新政権下で米国を救うべき方策を提示するコラムの第4弾として”ドナルド・トランプの最悪の政策アイデア:貿易障壁(Donald Trump’s Worst Idea: Trade Barriers)”で警句を発する。トランプ氏は選挙中、中国やメキシコをはじめ関税を35〜45%引き上げるとアピールした。一連の発言がスムート・ホーリー法の復活を想起させ、同誌は自由貿易を称賛するエコノミストに倣い過去の過ちを犯さないよう訴える。トランプ氏が反対した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が破綻すれば、中国によるアジア間での貿易関係強化が進んでしまう。また関税引き上げで米国が輸入を減少させれば、海外諸国がドルを獲得できず米国の輸出減少につながりかねない。バロンズ誌は、むしろトランプ新政権に貿易をさらに自由化させるべきと主張する。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はトランプ・ユーフォリアに一石を投じる。抄訳は、以下の通り。


誰もがマーケットに楽観的なら、懸念すべきか?—Everyone’s Optimistic About the Markets. Is It Time to Worry?

中央銀行のなかの中央銀行と言われる国際決済銀行(BIS)は、四半期のレポートで”市場におけるパラダイム・シフトか”と問い掛けた。中銀らしく結論は曖昧な表現にとどめたが、米大統領選後、明らかに資産クラスで変化が起きている。しかし、経済と金融動向において本当のパラダイム・シフトは確認できていない。

1月20日の米大統領就任式後の米国をにらんだ市場関係者の予想は、未だ狭いレンジに収れんされている。実質の国内総生産(GDP)伸び率は2%付近だ。米10年債利回りは2.59%から3%へ、米株相場は5%付近が見込まれておりS&P500でいえば16日終値の2258から2400へ上昇する見通しである。

これだけ予想が収れんされていれば、メリルリンチのボブ・フェレル氏の”難局を乗り越えるための10カ条”の9カ条目を思い出したくなるものだ——”市場予想と専門家の見通しが全て一致した時には、他に違うことが起こりうる”。まさにBREXITと米大統領選で、実証された警句だ。

足元で、市場はリスクを警戒していないかのようだ。S&P500のプット・オプション取引の値動きを基に算出されるVIX指数は年初来のレンジ下限にあたる12付近で落ち着いている。高利回り債も波乱を予想していないかのようで、米債利回り格差は4.2%ポイント差にとどまり米株が弱気相場に差し掛かった2月の8.64%ポイントから大幅に縮小した。

VIX指数の低空飛行は、嵐の前の静けさなのか。

vix
(出所:Stockcharts)

トランプ新大統領が選挙公約を実行するとの観測にも、疑いの目が向けられていない。米議会の承認が必要ではないためで、その一つには中国を”為替操作国”と認定することも含まれる。その中国の人民元は下落の一途をたどり、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げもあって心理的節目の1ドル=7元が差し掛かっている。しかし、その他の貿易相手国とのレートでは割合安定的だ。

中国はまた、米財務省が公表する為替報告書で”為替操作国”のレッテルを貼るべき4項目を全て満たしていない。すなわち1)対米貿易額が年間550億ドル超、2)対米貿易黒字が200億ドル超、3)経常黒字が自国GDPの3%超、4)一方的な為替介を通じた海外資産の取得がGDPの2%超——にあたる。特に最後の項目に至っては、中国は足元で米国債を売却している状況だ。10月対米証券投資では、遂に中国が米国債保有高ナンバーワンの座を日本に譲り渡した。中国の個人が次々に年間5万ドルという制限に沿った海外送金を行い、企業が海外企業の買収に励むなか、中国の債券市場は前週に大荒れの展開を迎え先物取引停止を余儀なくされた。

中国と言えば、国際通貨基金(IMF)における特別引出権(SDR)バスケット入りの夢を果たした。その一方で中国の努力も空しく元安が続くなか、ワシントンが”為替操作国”と非難すれば中国にとって侮辱と映るだろう。米国の海洋調査用ドローンを中国海軍が南シナ海で拿捕したというニュースは、南シナ海を舞台とした対決の前哨戦と見えなくもない。こうした地政学的リスクは、市場で織り込まれていないだろう。

市場は、トランプ次期大統領のインフラ支出拡大や減税策を共和党が多数派を握る上下院でスムーズに成立すると見込む。しかし、財政タカ派が反対しないとも言い切れない

最高裁判事の指名も、見逃せない。複数の共和党議員がアントニン・スカリア氏の後任指名を最優先に掲げる可能性がある。そうなれば、2018年までインフラ投資や減税に手が回らず2017年に描いたバラ色の未来がしおれてしまうだろう。

原油価格も、障害となりうる。2016年は原油価格の急落で幕を開け、エネルギー関連企業が発行したジャンク債などの償還能力に疑問符をつけた。その後、原油価格は持ち直したが石油輸出国機構(OPEC)加盟国で合意したようにサウジアラビアが産油量を1日当たり1,070万バレルから1,000万バレル付近でとどめるかが焦点となる。サウジアラビアは史上最大との呼び声が高い国営石油企業サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を控え、原油価格を安定させたいのだろう。しかしサウジアラムコのIPOが無事に終われば、どうなるかは誰にも分からない

トランプ次期大統領が巨額のインフラ投資と減税を目指すなか、金利収入が非課税となっている州・地方債が財源として標的にされる恐れもある。2017年から2026年にかけ課税された場合は歳入を4,200億ドル押し上げる見通しだが、押し上げ効果は比較的限定的と言えよう。しかし、州・地方債のパフォーマンスは減税期待が需要を削ぎ米国債と同じく売りの流れが続いている。

2016年に予想された逆をいき、起こりそうもないことが起こったという事実を忘れるべきではないだろう。


過去最高値を更新し続ける米株をはじめ、米12月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値米12月フィラデルフィア連銀製造業景況指数米11月NFIB中小企業楽観度指数などセンチメント関連の指標は米大統領選後に急伸し、まさにこの世の春を迎えたように見えます。面白いことに、トランプノミクスは”長期停滞(secular stagnation)”論を払拭させました。財政刺激が企業や個人の支出を促し、まさにパラダイム・シフトが起こりつつあると誰もが確信しているようです。その一方で、米11月小売売上高ではホリデー商戦が開幕した割に振るわず。米11月鉱工業生産も期待に沿わない内容で、実体経済を表す指標に明るさが増したとは言えません。上振れした米12月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値の内容をみると、購入見通しは自動車と住宅市場が伸び悩みをみせました。年明けには経済指標やトランプ新大統領の就任を経て、期待先行のトランプ・ユーフォリアから目を覚ます可能性は見逃せません。トランプ新政権での減税を見据え先延ばしにした利益確定売りも、年明けに起こらないとも限りませんしね。

(カバー写真:Randy Lemoine/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年12月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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