オスプレイ事故で見たポピュリズム新聞

2016年12月19日 06:00
オスプレイwiki

Wikipediaより(編集部)

読者に迎合するジャーナリズム

米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイが沖縄県の沖合で起こした不時着事故の新聞を読んで、どこまで正確な報道、的確な論評なのだろうかと、考え込みました。読者がいかにも怒りそうな書き方をする習性が気になってしょうがありません。何かにつけポピュリズム(大衆迎合)政治の批判をする新聞自ら、ポピュリズムの罠にはまっているのではないでしょうか。

それを「新聞ポピュリズム」と名付けてみました。この場合は「読者迎合型新聞」を意味します。東京新聞(中日新聞と一体)の一面題字下に「読者とともに」という宣伝文句が載っています。読者のためになる情報を分かりやすくという意味ならば、歓迎します。それが無意識あるいは意識的に、不正確、誇張、感情的な記事を書き、読者に迎合しているならば問題です。表面的な動きに振り回されず、問題の本質をに到達できるよう、記事を掘り下げるべきです。

沖縄米軍のトップ(4軍調整官)が「県民や住宅に被害を与えなかったことは感謝されるべきだ」、「住宅を避けたパイロットの決断は称賛されるべきだ」と、沖縄県副知事に語ったとされ、「重大な事故を起こしながら、感謝されるべき、とは何事だ」と波紋を広げました。本当にそういったというならば、不用意な発言で怒りを買って当然です。他にも「パイロットは表彰ものだ」とも、刺激的な発言をしたといいます。

他方、乱暴な発言が目立つトランプ次期大統領ならともかく、沖縄軍のトップが「本当にそんな表現をしたのだろうか」との疑問を持ちますね。事故でいらだっている米軍トップに副知事が合いに行き、通訳を通して伝わった日本語が「感謝されるべき」のようですね。もともとの英語の発言は「should be thankful」とされます。それも日本語で聞いた「感謝されるべき」を英語に逆に戻すと、「thankful」だったはず、というのが真相という説も聞かれます。

「感謝すべき」は言葉の行き違い?

「感謝すべき」は新聞(朝日新聞)の見出しにもとられ、読売、朝日、毎日などの社説でも一様に言及しています。そこまで書くならば、「もともとはどういう表現だったのか」、「不時着でしのげ、大事故に至らずよかった、というのが真意だったのではないか」などと、思いを巡らすべきです。ジャーナリズムならば、そこをきちんと検証し、真相にとどりつけなかったならば、少なくとも英語の専門家の意見を聞き、見解を載せるべき場面です。

不正確な情報しかないまま、沖縄県民をもっとも刺激するであろう表現を見出しに掲げることこそ、読者迎合型新聞、つまり新聞ポピュリズムです。読売、毎日の社説は「一歩間違えれば、大惨事に」と書きました。民家に落ちないように浅瀬に不時着した、だから名護市近くが現場になった、と理解するのが正しいように思います。

東京新聞の社説は、「現場は米側が規制線を張り、機動隊は米軍の意向に沿って、立ち入りを制限し、取材しようとする記者たちもそれに阻まれた」とも書きました。日本の民間機が事故を起こした場合でも、警察当局は規制線を張るでしょう。このように書けば、米軍を悪者扱いにでき、読者の反感をあおれるという気持ちが下地にあるのでしょうか。

感情的衝動の抑制が必要

「あわや危ないところだった」と、読者に思わせる表現は他にもあります。「名護市沖、約80mに落ち、機体は大破」(毎日、東京社説)、「浅瀬で大破。機体の残骸は事態の深刻さを物語る」(朝日社説)。社会面などの雑感記事には、こうした表現はよく登場しても、社説では感情的な表現を抑制するのが普通です。

「浅瀬に不時着」は、陸上での事故を回避、あるいは死者がでかねない海上での事故を回避するぎりぎりの選択が「浅瀬」だったとみるのが普通のように思います。民間機でも一般人を巻き込まないように、こうした場合は浅瀬、川などを選択するでしょう。「軍人は自分の身より住民安全を優先する訓練を受けている。その通り行動した部下を擁護するのが当然」(志方俊之帝京大名誉教授、朝日)の談話もどうでしょうか。民間航空会社でも「住民の安全優先」のはずです。

ラッセル米国務次官補の発言はまともです。「非常に遺憾だ。政府として、深刻に受け止めている。透明性をもって情報提供をしたい」。問題の発言が全部、正確だったとしても、殺気だっている現場司令官の発言を率先して取り上げるのはどうでしょうか。説明、釈明の仕事は外交官や広報担当の仕事です。新聞ポピュリズムが報道を通じて反基地感情を増幅させ、トランプさんがそのような国からは米軍を撤退させるとか、言い出したら、あわてるのは日本です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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