「人工知能(AI)は君より薄情」

2016年12月19日 11:30

独週刊誌「シュピーゲル」大学版が届いた。表紙タイトルは「人工知能(AI)は君より利口!」。天才物理学者アルベルト・アインシュタインの顔をしたロボットが表紙を飾っている。

AI長谷川

▲シュピーゲル大学版の表紙(2016年6号)

AIの拡大で単純労働市場ではロボットが席巻してきたが、大学学位修得者(大学卒業者)の将来の職場にもAIの進出が目立ち始めた。AIが雇用を奪うのではないか、といった漠然とした懸念を感じだした大学生の不安をテーマとしたタイムリーな記事だ。

「デジタル化できるものはデジタル化し、ネット化できるものはネット化する。そしてデジタル化とネット化ができれば、その自動化が次のステップとなり、ロボットが誕生する。国民経済が不況に陥った時代、日本でも「大学は出たが……」といった嘆き節が聞かれたものだ。欧州の大学界でも、目覚ましいAIの進出に雇用の危機を感じる学生たちが増えてきている。

独日刊紙ヴェルトは「AIは100万の雇用を消滅させる」と報じ、シュピーゲル電子版は「ロボットは仕事を食ってしまう」(Job-Fresser)と報道するなど、ロボット恐怖を煽っている。確かに、ロボットは病気で会社を休むことはないし、出産休暇も夏季休暇も必要ではない。昼夜働き続けることができる。そのロボットと人間が対抗できないことは明らかだ。

シュピーゲル大学版は「AIは人間より利口」というタイトルを付け、大学生の不安を煽っている。情報量とその処理能力ではAIは普通の人間より迅速であることは疑問の余地はない。

問題は、「人間に代わってロボット」という捉え方が本来、間違っていることだ。情報量やその処理能力でAIと競うこと自体が間違いだろう。人間が人間であるのは創造力であり、他者へのエンパシーだ。その分野ではAIは人間の後塵を拝することに甘んじている。

もちろん、AIは経験を重ね、そこから新しい知識を学ぶことで成長は可能だ。ディープラーニング自動設計アルゴリズムが開発されている。しかし、人間の感情の世界を完全にマスターしたAIの誕生には、たとえそれが可能としても、まだまだ多くの時間がかかるだろう。

だから、「AIは君より利口」という大学版の表紙タイトルを「AIは君より薄情」とすればいいのだ。AIと人間の現時点の力関係を適切に言い当てているうえ、人間は自信を失うことがないだろう。

このコラム欄で一度、紹介したが、米CBS放送のTV番組「パーソン・オブ・インタレスト」(Person of Interest)は非常に啓蒙的だった 。米国では今年6月最後の第5シーズンの放映が終わったが、ファンから「続きを制作してほしい」という声が出ているという。

「パーソン・オブ・インタレスト」のストーリーは元CIA工作員ジョン・リースとコンピューターの天才ハロルド・フィンチが犯罪を未然に防止するために戦うが、後半、AIマシーンで世界を牛耳ろうとする英国情報機関出身の男が操るマシーン(サマリタンと呼ぶ)とフィンチが作ったマシーンが戦う展開は面白い。

フィンチのマシーンは人間の感情を持っていないが、フィンチから学び人間の心を次第に理解していく。一方、サマリタンは実務的、効率的に機能する。所有者が願う世界を作り出すために殺人も行う。番組の中では、一種の善と悪のマシーンの対決として描かれている。

両マシーンは結局、破壊されるが、フィンチのマシーンが再生できる余地を匂わせて番組は終わる。カント的世界観で構築されたフィンチのマシーンが「目的は手段を選ばない」的な世界観を有するサマリタンのマシーンと戦うプロットは、近い将来のAI開発プロセスで直面する課題でもあるはずだ。如何なる人間の生命をも重視するフィンチのマシーンに対し、サマリタンは10人を救うために1人や2人の命を犠牲してもいいと考える。カントの世界観と功利主義の対立だ。

人間の心を理解するAIが登場した時、大学卒業者は仕事がAIに奪われる、と悲鳴を上げざるを得ないかもしれない。シュピーゲル誌大学版は「学生諸君、まだ時間はある」というメッセージで記事を閉じている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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