日本企業を瀕死に追いやる、「助け合い」という絶対の正義 --- 宮寺 達也

2016年12月21日 11:30
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写真ACより

前回の記事では日本人の生産性が低い原因として、「お客様は神様」という絶対の正義であることを考察した。

今回は、日本企業を覆い尽くすもう一つの絶対の正義、「助け合い」について考察したい。

日本企業は一部の黒字事業におんぶに抱っこ

それは前職のメーカーの入社式であった。当たり障りの無い式典が終了し、それ以来一度も耳にしたことの無い社歌を斉唱した後、役員と新入社員を交えての歓談会があった。つまらない式典にぐったりしていた私は、ここぞとばかりに役員に質問をした。そこで、今でも忘れられない言葉を聞いた。

その役員は、会社の中核事業である複合機の事業部長であった。事業部長は、

「私たちの事業部は、年間1500億円を稼いでいる。会社のトータルの利益が1000億円だから、私がいなければ会社は潰れてしまうよ」

と言った。当時は偉そうな人だなあくらいにしか思わなかったが、今思い返せば真理をついていた。

私が勤務していた事務機器メーカーは、10個程度の事業部が存在していた。トータルの売り上げは2兆円ほどであり、その75%である1兆5千億円を複合機が稼いでいた。事業部長の言った通りで、残りの9つの事業部は合計して5000億円を売り上げ、500億円の赤字を出していたのだ。

なお、事業部の人数はどこも同じくらいで、大体500人前後であった。つまり、複合機部門の社員は年間で一人当たり、30億円を売り上げる。残りの9割の社員の売り上げは遥かに低く、年間一人当たり1億円強である。

同じ会社に属しながらも、事業部が違うと生産性が30倍は違うのだ。なお、私が最初に配属された事業部は開発で不具合を連発し、3年間ほど商品を発売できなかったので、私の生産性はほぼゼロであった。

しかし、私は複合機部門で頑張って稼いでいる同期とほぼ同じ給料をもらい、数千円少ない程度のボーナスをもらっていた。それどころか、赤字部門には優秀な社員が少ないので、複合機部門の同期より早く昇進してしまった。ちなみに、同期で一番早く課長に出世した社員は、ずっと撤退が噂されている万年赤字部門に所属していた。

このような黒字部門が赤字部門を支える構造は、日本企業では多く見られる。

ソニーは花形部門に思えるテレビ事業は11年連続赤字であり、足を引っ張り続けていた。今や稼ぎ頭は金融である。

東芝もフラッシュメモリが稼いでいた黒字を、他の事業部の「チャレンジ」が吹き飛ばしてしまった。

シャープは液晶テレビがずっと黒字を稼ぐ一本足打法であったが、その一本がこけると会社そのものがこけてしまった。

そして、これからも、シャープのように黒字部門がこけることで会社そのものが潰れる会社は増えるだろう。一部の黒字部門への過剰な依存は、日本企業を瀕死に追いやっているのだ。

日本企業は仲間を絶対に見捨てない

では、なぜ日本企業は赤字事業を清算し、黒字事業に専念しないのか?

良く言われる意見として、「日本は解雇規制が厳しいので、赤字企業を潰して、社員を解雇するのが難しいからだ」というものがある。私はこれは正しいとは思うが、足りないと思う。

メーカー勤務時代、合法的なリストラができないせいで歪んだ早期退職をごり押しする現場を見てきた。また、潰れたはずのJALで解雇不当の裁判がまだ続いているのを見ると、赤字事業部を潰し、社員を解雇することが難しいことは良く分かる。

しかし、解雇しなくても赤字部門を清算し、黒字部門に資源を集中する方法はあるはずだ。赤字事業部を他社に売却したり、社員は存続させても新規事業にチャレンジさせたり、優秀な社員をこぞって黒字部門に集めたり、と。

しかし、日本の大企業はそうしたことすらせず、漫然と赤字部門を継続している。私はこの行動は「解雇規制が厳しい」という法律・判例の問題では説明できないと思っている。

そもそも、日本のサラリーマンが一番に考えていることは何だろうか?

少なくとも「生産性を上げて、売り上げを倍にして、給料2倍をゲットだぜ」では無い。

大方、「新卒で入ったこの会社で定年まで勤め上げて、老後は退職金で悠々自適に過ごそう。そのためには、多少の不都合には目を瞑ろう」といったところではないか。

赤字部門はさっさと潰して、黒字部門に専念する経営は、この思想とは一致しない。なぜなら、シャープの液晶テレビが示すように黒字部門は永遠に黒字を維持できるとは限らないからだ。好調な部門にリソースを集中し、赤字部門はどんどん撤退していくスピーディーな経営では、いつかは自分が撤退の対象になるかもしれない。40年間の長い会社人生を全うするには、社員みんなが手を取り合って助け合い、会社全体を維持していく必要があるのだ。

だから、赤字部門の同期が先に出世しても、自分の事業は稼いでいるのに会社全体が赤字になってボーナスを一斉にカットされても、昇給をカットされても、決して文句は言わない。そして、みんなで40年間の長い会社人生を全うしたいのだ。

なんのことはない、この思想は「100メートル走でみんなで手を繋いでゴールする」というゆとり教育そのものではないか。ゆとり教育の是非を特に述べるつもりは無いが、ゆとり教育をバカにしていたサラリーマンは猛省して欲しいものだ。

日本の企業の「助け合い」で、消費者は幸せだった

このように、日本のサラリーマンが老後のためにお手て繋いで助け合っていたことは、日本の消費者にとって幸せだった。

赤字部門の商品は本来ならば、利益を獲得するためにもっと価格を上げなければいけない。しかし、黒字部門が補てんしてくれるので、利益を度外視して安売りできる。また、赤字でも撤退しないお陰で競争相手が減らず、ライバル企業も安売りを余儀なくされる。

最新型の4K液晶テレビが10万円以下で買えるのは、日本企業の技術力でも経営努力でもなく、サラリーマン同士の助け合いのお陰なのだ。これが日本がいつまでたってもデフレから脱却できない一因だろう。

もちろん、こんな理屈は海外では通用しない。特に日本のエレクトロニクス企業が海外で不振なのは、このためであろう。

日本人の生産性を向上するためには、企業はもっとドライに赤字部門から撤退し、黒字部門の商品・サービスに経営資源を絞り込む必要がある。そして、その結果、利益を度外視していた安売り商品は店頭から姿を消し、商品の価格はぐんと上がってしまう。消費者にとっては悪い状況になるだろう。

しかし、これはやはり今までが異常で、企業と従業員の利益を削り過ぎてきただけなのだ。

前回の記事と同じ結論になるが、消費者は商品・サービスの中身をきちんと理解し、良いものにはしっかりとお金を払う習慣が根付いて欲しい。もちろん、日本企業は皆が納得する魅力的な新製品を出す努力をしなければならない。

低成長の幻想を捨て、生産性を向上する覚悟を!

なお、生産性の向上は諦めて、みんなで低成長社会を辛抱していくという選択肢もある。

しかし、私は反対だ。

人口減少時代、一人当たりの生産性が向上しないと、日本の福祉制度は破綻してしまう。それは日本という国が死ぬことと同じだ。

低い生産性に甘んじ、企業・従業員・消費者の利害を一致させることができたのは、昭和の一時期、人口増大時代の泡沫の夢だったと思う。

「人口減少」という、最早どうしようもない現実を直視し、生産性を向上させて日本の社会を維持することを選択しなければならない。

生産性の向上には副作用はもちろんある。だが、それを乗り越えるためにこそ、「助け合い」が必要だと思う。

 

宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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