オーストリア日刊紙「エステライヒ」23日付によると、同国のクリスマス・ショッピングは好況だ。調査によると、国民はこの期間、1人当たり395ユーロをプレゼントに費やしている。クリスマス期間の総売り上げは初めて20億ユーロを超えた。国民の86%はインターネットを利用してオンライン・ショッピングでプレゼントを探す。イスラム過激派テロの不安や国民経済の停滞にもかかわらず、国民はクリスマス期間、その財布の紐を緩め、プレゼントを買うために奔走してきたわけだ。

長谷川161224

▲ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場風景(2016年11月12日、撮影)

ところで、光が明るくなれば、その周辺の影は一層濃く感じるように、周囲がクリスマスの祝いに包まれ、家族間で楽しい会話が交わされるクリスマス・シーズンになると、その華やかさに入れない人、無縁の人にとって格別寂しさを感じる期間となる。

クリスマス期間は自殺件数が増えると言われてきた。当方の手元にはそれを裏付ける統計はないが、クリスマス・シーズンに孤独を感じる人々が多いことは知っている。

クリスマス・シーズンに入ると思いだす老人がいる。当方がウィーン外国人記者クラブに頻繁に通っていた時だ。クラブのファックスを整理するために70歳ぐらいの老人が働いていた。自然と話すようになった。老人は足りない年金の助けのために仕事しているのではないという。これは老人の自尊心から出たものではなく、事実だ。部屋に一人いても退屈だ。そこで人と話す機会がある外国人記者クラブの仕事を見つけて働き出したという。老人は当方がクラブに顔を見せるといつも話しかけてきた。

彼は、「腕に付ける緊急連絡用の器材を買ったよ。自分が部屋で倒れた時、この器材のボタンを押せば、救急車に連絡が入るようになっている。これで少し、心が落ち着いたよ」という。急病で倒れ、助け手がなく、床に倒れている自分の姿を想像するのは堪らないからだという。

オーストリアではこの老人のような一人暮らしが多い。一人でクリスマス・シーズンを迎える老人たちをケアしたり、訪問する慈善団体が活発だ。ニーダ―エステライヒ州の慈善団体では650人のボランティアが約850人の老人たちをケアしているという。

クリスマス・シーズンになると、「訪問に来てほしい」という電話が増える。一種のホットラインだ。普段は余り苦にならないが、クリスマスになると、一人住まいの老人たちは「自分は一人だ」「誰も自分に関心を寄せてくれない」という思いが襲ってきて苦しくなるという。

36年前、当方はオーストリアで初めてクリスマスを迎えた時だ。友人はクリスマスを実家で過ごすことになった。彼は当方がウィーンで一人でクリスマスを迎えるのはかわいそうだと考えたのか、当方を彼の両親の実家に招いてくれた。、彼の実家では家族が集まり、一晩中、過ぎし一年の歩みを報告し合っていた。そしてプレゼント交換だ。当方にも青色のワイシャツがプレゼントされた。

老人の話に戻る。当方は一度、彼をお茶に招待して喫茶店で世間話をしたことがある。老人は多くのことを語ってくれた。オーストリアのこと、政治の話などだ。当方はもっぱら聞き手だった。

当方はその後、仕事の拠点を国連記者室に移したので外国人記者クラブにはめったに顔を出さなくなった。老人のことは聞かなくなって久しい。クリスマス・シーズンになると、老人の人懐っこい顔を思い出す。老人は寂しかったはずだが、オーストリア人の彼は外国人の当方にはそんな弱音を見せることはなかった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年12月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。