テレビ事業はネット配信を前提に

山田 肇

ビデオリサーチが実質独占していた視聴率調査事業に、2014年に新規参入したスイッチ・メディア・ラボが、興味深い調査結果を発表している。12月8日には「テレビの録画視聴の実態に関する調査」、11月24日には「オンライン動画の視聴実態に関する調査」を出した。

前者によれば、テレビのリアルタイム視聴が平日平均54分、土日1時間50分であるのに対して、タイムシフト視聴が平日20分、土日44分と無視できない時間に伸びている。ドラマ・映画・バラエティはタイムシフト視聴に向き、スポーツは向かない。後者によれば、オンライン動画をスマホで「ほぼ毎日」視聴しているとの回答が、10代では4割超となった。民放の「見逃し配信サービス」は認知度60%。利用している16%だった。二つの調査は、リアルタイム視聴から録画やネット配信に人々が移行し始めていることを示す。それは、人々が放送時刻にテレビの前にいるのはむずかしいからだ。

一方、総務省が組織した「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、ネット同時配信について議論が行われたと報道されている。

スポーツ中継などで同時配信に対する需要があるのは確かだが、タイムシフトで視聴できるネット配信需要のほうが多いことはスイッチ・メディア・ラボの調査からも明らかだ。検討会は一見マイナーな議論をしていることになる。それはなぜか。理由は記事が伝えるテレビ朝日専務の発言から推察できる。彼は「ローカル局には視聴率の低下などで影響が出るのでは」と述べたという。

キー局からのネット同時配信を楽しむ視聴者はローカル局を見ないので視聴率低下が危惧されるというわけだ。しかし、そもそも、ローカル局の多くは9割以上の時間帯でキー局の番組を再送信しているだけである。キー局の電波が届かないから商売になっていたわけだが、ネットで届くのであれば存在意義はない。

再送信を続けても先細りは必至なのだから、ローカル局はローカルコンテンツをネット配信するビジネスを何としても立ち上げるべきである。いずれにしろ、キー局によるネット配信・同時配信に反対するのは、視聴者の動向からも時代遅れである。検討会の議事録には「ローカル局の地域情報の提供等の役割に配慮」という発言があるが、地域情報はネットでも提供できる。せっかくの検討会なのだから、ローカル局の在り方についても根本的な議論をしてはどうだろうか。