脅し取られた絵画を買ってしまったら?

2016年12月28日 06:00

前回、盗まれた絵画の場合、2年以内であれば所有者が取り戻すことができるということと、その規定は不合理で削除すべきだということについてご説明しました。

では、その絵画が誰かによって脅し取られた場合はどうなるのでしょう?
鈴木さんが、佐藤さんに「ねえ鈴木さん。私はあんたの不倫の証拠をつかんでいるんだ。黙っていて欲しかったらその絵画を50万円で譲ってくれないか?」と脅されて、やむなく佐藤さんに譲りました。あなたは、佐藤さんからその絵画を100万円で買い受けたとしましょう。

民法96条は次のように規定しています。
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

第3項は「詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」と規定されています。表意者が保護されるのは「詐欺」の場合だけなのです。なぜ、詐欺の場合だけ善意の第三者に対抗できないかというと、詐欺で騙される人の多くは甘い話に乗ってしまう欲張りが多いから「善意の第三者」の方を”より保護すべきだ”という解釈が一般的です。逆に考えると、「強迫」による意思表示の取り消しは「善意の第三者」にも対抗できるということになります。

厳密に説明すると、鈴木さんは脅迫者である佐藤さんに絵画を売るという意思表示を取り消すことができます。その結果、鈴木さんと佐藤さんの売買契約は最初からなかったことになります。理屈としては、最初から権利がなかったこととなる佐藤さんから絵画を買い受けたあなたは、権利を取得しないはずです。

はて?
無権利者であっても、善意無過失平穏公然と絵画を買い受けたあなたは、民法192条の即時取得で保護されるはずではないのでしょうか?

民法192条は次のように規定しています。
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
民法96条3項だと、鈴木さんが佐藤さんの強迫を原因として取り消すと、善意の第三者であるあなたは鈴木さんに絵画を返還しなければなりません。

しかし、民法192条を見ると、(遡って)佐藤さんが無権利者になったとしても、あなたは絵画の所有権を取得することになりそうです。

結論としては、あなたは絵画の所有権を取得するということになるのでしょう。その法律的な説明はいろいろとあるでしょうが、経済学的なリスク配分という点で考えれば明快な説明ができます。

あなたにとって、鈴木さんと佐藤さんとの関係は全く預かり知らないことですよね。鈴木さんが不倫をしようが、佐藤さんにそれがバレようが、佐藤さんがそれをネタに鈴木さんを強迫しようが…それらはすべて鈴木サイドの問題なのです。

本件で「絵画を手放さなければならない」という損害を事前に防止できたのは、鈴木サイドだけです。あなたは、損害発生を事前に予防することなど全くできない立場にあったのです。あなたが不倫をしたわけでも、佐藤さんに脅されたわけでもないのですから(笑)ですから、それによって生じる損害のリスクは鈴木サイドが全面的に負担すべきでしょう。

とりあえず、対象物が絵画のような動産であれば民法192条であなたは救済されます。しかし、対象物が不動産の場合には192条のような規定はありません。事前に予防できた側がリスクを負擔するという大原則に照らすと、鈴木サイドが全てのリスクを負担すべきなのは同じです。

さて、どうやって解決すればいいのでしょう?

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編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2016年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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