伊藤園はお茶だけでない コーヒー・乳製品にも進出 M&A駆使し総合飲料メーカーへ

2016年12月31日 06:00
お茶を飲む女性(イメージ画像)

お茶を飲む女性(イメージ画像)

お茶製品、野菜飲料、コーヒー飲料を扱う飲料メーカーの伊藤園<2593>。1980年、世界初の「缶入りウーロン茶」を開発。1985年に販売開始した「缶入り煎茶」を1989年に「お~いお茶」に名称変更したことで販売数が増加し、2003年に全ての茶系飲料の中で販売量No.1ブランドとなった。茶系飲料のイメージが強い伊藤園について主にM&Aの観点から分析する。

【企業概要】 茶系飲料への依存度高く

代表取締役会長である本庄八郎氏が、兄である正則氏と共に設立したフロンティア製茶が1969年に商号変更により伊藤園となった。

伊藤園の経営理念は「お客様第一主義」、全てのお客様(消費者、株主、販売先、仕入先、金融機関、地域社会)を大切にすることを経営の基本としている。

伊藤園の経営理念は営業にも表れている。伊藤園の営業の特徴として「ルートセールス」が挙げられる。飲料メーカーの多くは問屋を経由し卸 しているが、伊藤園では創業当初より問屋を経由せず直接小売店に卸す仕組みを採用している。小売店はもちろん自動販売機も店であるとし、一軒一軒営業担当 が訪問している。対面で顧客と話すことで、顧客が何を欲しているか、どのような商品が売れているか等の情報を直接入手することができるのが強みである。余 談だが、自動販売機については商品配置の変更はもちろん、自動販売機周辺の清掃や空き缶回収も営業担当が行っているという。

上記の経営理念をもとに、伊藤園は1996年に東証二部に上場、1998年に東証一部に鞍替えした後も順調に業績をのばし、2016年4月期の連結売上高は4655億円、経常利益は150億円、子会社36社、関連会社3社、連結従業員数8044人となっている。

伊藤園は総合飲料メーカーを目指して商品ラインナップの充実を図っているが、「お~いお茶」のイメージが強いのが実情である。今後は茶系飲料への依存度を低下させることが一つの課題となる。

【経営陣】 創業者一族による経営

創業者である本庄八郎氏が会長、同じく創業者である本条正則氏の長男である大介氏が社長、八郎氏の長男である周介氏が副社長となっている。いずれも代表取締役であり、創業者一族による経営が行われているといえる。本庄大介氏は2009年に社長に就任、53歳。

【株主構成】 創業者一族の影響が強い

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伊藤園の筆頭株主及び第2位は創業者一族が代表であるグリーンコア、本庄国際奨学財団、第4位には代表取締役会長である本庄八郎氏となっており、創業者一族の持ち株比率は27%ほどとなっている。

【M&A戦略】 品揃え拡充へ買収を重なる

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伊藤園は「お~いお茶」を筆頭に茶系飲料ではすでに高シェアを占めているが、総合飲料メーカーとしての地位を確立するため、品揃えを充実させること を目的にM&Aを行っている。すでにコーヒー飲料市場には参入していたが、2007年にコーヒー飲料強化を目的にタリーズコーヒーを経営する会社 を買収した。2011年には乳製品市場に参入するため中堅乳業メーカーのチチヤスを買収した。

飲料メーカー業界においては近年、M&Aが活発に行われている。特に日本国内においては人口の減少が始まっており、限られたパイ を得るために国内の同業を買収するケースがある。一方、海外に目を向けて外国の飲料メーカー等を買収するケースも多い。ここで、主な飲料メーカーの売上高 及び時価総額をグラフにしてみる(売上高は直近の有価証券報告書上の金額、時価総額は2016年11月末時点)。

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アサヒグループホールディングス(以下、アサヒ)とサントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)が他社を圧倒しているのが分かる。アサヒ、サントリーはいずれも積極的に大型のM&Aを手掛けている。2社の直近の主なM&Aは以下の通りである。伊藤園もM&Aは行っているが、M&Aの規模としては上位2社のM&Aに比べ相当小さいといえる。

アサヒ及びサントリー以外の飲料メーカーの時価総額は3000億円台が多い。アサヒ及びサントリーが過去手掛けたM&Aの金額だけみると、今後国内飲料メーカーが買収される可能性も否定できない。

再編が進んでいる飲料事業において伊藤園が一定の地位を保つためにも今後M&Aをさらに積極的に行うべきである。ここで、主な飲料メーカーの現預金と有利子負債の比較をグラフにしてみた。

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主な飲料メーカー8社のうち売上上位4社は現預金に比べ有利子負債の金額が大幅に大きくなっている一方、下位4社は現預金と有利子負債がほぼ同額、または現預金のほうが大きくなっている。下位4社については有利子負債を増やす、つまり資金調達を行う余地は多分に残っていると言える。再編の波にのまれないよう、資金を調達し積極的にM&Aに投じることで会社の規模を拡大し、身を守ることを検討する必要があると思われる。

【財務分析】 業績は堅調、M&A効果は限定的

伊藤園は中長期計画において2017年4月期の連結売上高5000億円、ROE(自己資本利益率)10%、配当性向40%を掲げていたが、2016年4月期決算発表において公表された2017年4月期の計画は、連結売上高4715億円(前期比1.3%増)、ROE9.1%、配当性向44.5%となっている。茶系飲料メーカーだけあって渋い(手堅い)計画となっている。

①売上高と経常利益

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売上高は2015年4月期に減少しているが、それ以外は順調に増加している。経常利益は2008年4月期、2009年4月期及び2015年4月期に減少している。2008年4月期、2009年4月期は、原材料の高騰や販売促進費の増加が影響している。2015年4月期は全国的な天候不順による影響の他、2014年4月より引き上げられた消費税の影響で売上及び経常利益が減少している。外部的要因(原材料の高騰、天候、税金等)により売上等が左右されることが分かる。

なお、2007年4月期にフードエックス・グローブ、2013年4月期にネオスを連結子会社としている。2007年4月期は売上が前期比221億円増加、2013年4月期は前期比346億円増加している。

②財務キャッシュフロー

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伊藤園のキャッシュ・フロー計算書の財務キャッシュ・フロー(CF)に注目してみた。2008年4月期、2012年4月期、2015年4月期に大きく増加(資金を調達)していることが分かる。2008年4月期は「株式の発行による収入」(優先株式の発行)により145億円増加している。調達した資金は設備投資に充当する他、コマーシャルペーパーの償還(76億円)にも充当している。このコマーシャルペーパーは2007年6月に実行したフードエックス・グローブの株式の追加投資の際に発行したものである。2012年4月に「社債の発行による収入」により調達した200億円の一部はネオスの株式買収に充当し、2015年4月期に「長期借入れによる収入」により調達した130億円の一部はDISTANT LANDS TRADING CO.の株式買収に充当している。

③自己資本比率と有利子負債

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自己資本比率は70%近くまで上昇したが、徐々に下降し2016年4月期では43.9%まで下がっている。その要因は、上記グラフから明らかで、有利子負債の増加である。2007年にフードエックス・グローブを買収したが、その資金は上記の通り、最終的に優先株式の発行で対応したことで有利子負債は増加していない。2009年4月期まで有利子負債ゼロであったが、2009年からネオスを段階的に買収したこと及び2015年にDISTANT LANDS TRADING CO.を買収したことで有利子負債が増加。これにより自己資本比率も下降している。

④セグメント情報

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2007年4月期から「その他」の金額が徐々に大きくなってきている。これは2006年にフードエックス・グローブの株式を買収したことで飲食関連 事業(タリーズコーヒーの経営)の売上が増加したことが要因である。2013年4月期からは、セグメント情報の有用性を高めるため、飲食関連事業を独立し たセグメントとして扱っている。M&Aにより獲得した事業が順調に成長していることが伺える。

しかし、主要セグメントであるリーフ・ドリンク関連事業の割合が圧倒的に大きいため、飲食関連事業が柱となるのは相当先の話であり、現時 点ではリーフ・ドリンク関連事業の単一セグメントであるといっても過言ではない。リーフ・ドリンク関連事業は天候等の外部要因で業績が左右されるリスクが あるため、別の柱となる事業をM&Aにより手に入れることが重要であると思われる。

【株価】業績好調を受け、高値圏に

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伊藤園の株価は堅調に推移している。2016年7月には一時4000円台に上昇し、現在も高値圏で推移している。2017年4月期の業績が好調に推 移していることが背景にある。12月1日に通期の業績予想を上方修正した。日本茶、健康茶、コーヒー飲料の販売が好調なほか、販売管理の管理強化も奏功し ている。通期の売上高は前期比2%増の4750億円、経常利益は29%増の195億円を見込んでいる。

今期の予想PER(株価収益率)は約40倍。約28倍のダイドートリンコや約35倍のヤクルト本社に比べて割高感がある。さらに上値を追うには、既存事業を伸ばすことに加え、新たなM&Aなどによる成長戦略の強化が必要になりそうだ。

【まとめ】再編に備え必要、積極的なM&Aを

伊藤園は総合飲料メーカーを目指すべくM&Aを行ってはいるが、他社(特に上位2社)に比べまだ消極的であるといえる。業績が順調に推移していることもあり、M&Aに積極的になる必要性が乏しいのかもしれない。しかし、飲料事業は天候不順等の外部要因により業績が左右されるリスクが高いこともさることながら、飲料事業の再編に飲み込まれないためにも、積極的な投資を行うことが必要ではないだろうか。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年12月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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