米国発アノミーがもたらす今後の国際情勢と14の対策

尾藤 克之

 

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写真は塚口直史氏。

ファンドマネージャーは、投資家の資産を預かり管理しながらそれを上手く増やし運用する仕事である。資産運用を委託され、投資のプロとして業務を行うことは決して簡単ではない。国際金融市場にも精通し情報と分析を兼ね備えていなければ一流とはいえない。

トランプ・シフト』(朝日新聞出版)の著者である、塚口直史(以下、塚口氏)は、ファンドマネージャーとして世界第3位の運用実績をあげた実力をもつ(ファンド評価会社バークレイヘッジ社、2015年度グローバルマクロ戦略部門)。また同年、ロシア国内での運用成績でも1位を記録している(ロシアヘッジファンドインダストリー 国際部門)。

リーマン・ショックを含む世界金融危機、ギリシャ・ショックなど、世界が揺れ、ほかの投資家が軒並みマイナスの成績となるなか、驚異的なリターンをあげる塚口氏が、今後の債券市場を分析する。今回はその一部を紹介したい。

■階級闘争経済のはじまり

――2016年11月、ドナルド・トランプ大統領が誕生した。何故、当初泡沫候補であったトランプ氏が、クリントン氏に勝利することができたのだろうか。これについて、塚口氏は「貧富の格差が拡大している中での貧の側、怒れる層への両候補の心情的距離感の差」があったと主張している。

「トランプ氏の言動や行動は、粗野と言われながらも、大衆に身近に感じられるものとして緻密に計算されていたと評されます。実際、貧富の格差、トマ・ピケティ風に言えば、資本家と労働者の間にある格差拡大が米国で顕在化しています。」(塚口氏)

「10万ドル以上とも言われる大学進学費用や、ガンにかかれば破産を意味すると言われるほどにまで騰貴した医療費など、サービス費用の極端な上昇を考えるとき、一般の米国民にとって死活問題が眼前に突きつけられていたのです。」(同)

――そのうえで、「階級闘争」が、今回の大統領選の背後にあるのではないかと塚口氏は分析している。

「会社は給与を削減して配当を拡大し、株主を守ることが正義とされています。国家は福祉を削減し、果敢に増税し、国債を保有する主体を守ることが是とされていきます。ではなぜ今、階級闘争の開始なのか?という問いに答えるならば、それは“危機の先延ばし”ができなくなったからだということでしょう。」(塚口氏)

「アメリカが保護貿易主義を強化していくならぱ、米国で失われた有効需要を補おうと、かつてと同じように先進国各国が米国を除く新興国はじめ世界中のあらゆる場所で経済戦争を拡大していくようになってしまいます。TPPなどは、どうせ保護貿易主義の流れが変わらないのであれば、その潮流の中でも一番優位な米国が加入する経済圏に入ろう、というのが日本の戦略として考えられます。」(同)

――しかし、従来と違ってそのメリットは限りなく小さいものになっている。

■本日のまとめ

「米国経済はさまざまなバブルを意図的につくって、なんとかだましだまし今まで延命してきましたが、これ以上バブルをつくることが難しくなってきました。そして、国民には不人気ながら保守本流の増税で財政を賄っていこうと唱えていたクリントン候補が敗退しました。」(塚口氏)

――現況を鑑みれば、日本も様々な国家と独自の外交や技術交換を通じて、日本寄りの経済圏を確かなものにしていく必要性を検討すべきなのかも知れない。

本書は、緻密な裏付けと実績に基づいた将来分析である。’08「リーマン」、’15「チャイナ」で50%超のリターンを得た、世界第3位の現役ファンドマネージャーが明らかにする、“Gゼロ後”に起きる債券市場の解説は興味深い。主論が「アノミー」であることから難解にも聞こえるが多角的な視点で分かりやすく説明している。

尾藤克之
コラムニスト

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