2016年の米国スポーツ界を振り返って

2017年01月01日 09:30

日本から14時間遅い米国東海岸はまだ大晦日です。今年も最後のポストで一年を振り返り、独断と偏見で米国スポーツ界のトレンド・重大ニュースを整理してみようと思います。

スポーツ賭博合法化の流れ

2016年はDFS問題で明けた年でした。ニューヨーク州を筆頭に多くの州政府がDFSは賭博であり、法律違反とする立場を取り、これに反対するDFS事業者と訴訟になりました。結局、州政府も財源が欲しいのが本音なので、最終的には和解して一定の規制やライセンス料を州に支払うなどの内容でDFSが合法化される形に落ち着きました。Draft KingsとFanDuelは合併しますね。

これと並行してNJ州が制定したスポーツ賭博合法化法案に反対する4大スポーツ+NCAAが訴訟を起こしており、これが最高裁で審理されるかどうかという状況になっています(控訴審まではNJ州が敗訴)。ただ、この訴訟が起こされた時から状況が変わってきているのは特筆すべき点でしょう。

まず、原告の4大スポーツのうち、NBAとMLBはスポーツ賭博容認に傾きつつあります。八百長を防ぐという意味で、スポーツは賭博のメッカ、ラスベガスから距離を置いてきましたが、NHLがエクスパンションで新チームをラスベガスに誕生させましたし、NFLでもオークランド・レイダーズがベガス移転を狙って動いています。さらに、実はトランプ大統領の誕生がスポーツ賭博の容認に影響を与えるかもしれません。

米国ではスポーツ賭博は、マリファナと同じような状況に置かれており、連邦法のレベルでは厳密には違法なのですが、州政府が独自に合法化法案を制定している状況です。スポーツ賭博に関しては、連邦法のPASPAがネバダ州など一部の州を除き禁じているにもかかわらず、NJ州などはこれを無視して合法化法案を進めているんですね。

で、トランプさんはご存知のようにアトランティック・シティにカジノを持っていたほどの賭博推進派です。大統領は司法長官の任命権を持っていますから、スポーツ賭博容認派の人事を行えば、事実上、州の動きを黙認させることは可能なんです。

NCAAのオバンノン訴訟が結審

大学スポーツにも大きな動きがありました。2009年に提起されたこの訴訟では、学生アスリートへの報酬の支払いを禁じたアマチュア規定の合法性が争われましたが、第一審、控訴審ともにアマチュア規定は反トラスト法(日本の独禁法に相当)違反との判決が下されていました。原告被告ともに上告していたのですが、結果は意外にも最高裁が審理を受け付けないというもので、控訴審判決が確定しました。

大学スポーツは、スポーツビジネスにおける最大のコスト要因である選手報酬を極小化することでステークホルダーに巨額の富を分配することが可能になっていたわけですが、今後はそのビジネスモデルの転換が迫られることになるでしょう。

実際、この訴訟に並行して制限的な現行の奨学金規定やトランスファー規定に対して現・元学生アスリートにより訴訟が続々と起こされています。Big Eastは学生選手によるエンドースメント契約解禁を検討しており、来年以降も様々な領域から変化が起こるのは必至です。大学スポーツのビジネス化を志向している日本にも無縁ではない話です。

スポーツの社会課題解決ツールとしての認知

昨日も書きましたが、今年はスポーツ組織や選手が社会問題に対して積極的にアクションを起こした年になりました。

反LGBT法案を可決したノースカロライナ州に対して、当地でオールスターゲーム開催を予定していたNBAが開催地を変更しました。サンフランシスコ49ersのキャパニック選手は、国家斉唱時に起立を拒否することでスポーツ選手が社会問題に対してフィールド上で意思表示を行うという前代未聞の行動を起こし、しかも多くの支持者を得ることになりました。トランプが大統領に決まった際は、NBA数球団が遠征先での宿泊先からトランプホテルを外すことを表明しました(大統領の存在が社会問題になるのは情けないですが)。

挙げるときりがないですが、こうしたスポーツ組織や選手の判断・行動が注目を浴び、しかも多くの市民から共感を得ています。これは、裏を返せば、スポーツが社会課題を解決するための存在であることが社会的に認知されてきていることの証と言えるかもしれません。

米国スポーツ界では、2005年にNBAが社会課題の解決も自身のビジネスの柱として位置付けることを宣言し、スポーツ組織のValue Propositionにイノベーションを起こしました。あれから10余年。今や、米国ではスポーツ組織はスポーツをすることだけがビジネスではないという「スポーツCSV」の流れが定着しています。

先日締結されたMLBの新労使協定には、「反DV」「反いじめ」などの文言が明記されています。新人選手への女装禁止などが通達されたのも、同じ流れの話です。この流れは早晩日本にも訪れるでしょう。2017年は日本で「ソーシャルスポンサーシップ」の元年になるかもしれません。

メディア収入に支えられた労使協調

この12月にMLBとNBAが相次いで新労使協定を締結しました。一部でロックアウトになるのではとも囁かれていたのですが、杞憂に終わりましたね。双方ともに交渉が決裂しなかった一番の要因は、両リーグともに右肩上がりの成長を続けているためです。パイが広がっているので、細かい点で喧嘩しなくても良いのです。

MLB新協定の変更点(Slugger3月号に寄稿予定)を細かく見てみると、ぜいたく税や収益分配制度といった球団の資金管理の点や、国際・国内FA選手獲得といった選手の流動性管理の点双方から戦力均衡を強化する方向で制度設計の変更が加えられています。選手の立場からは、短期的には年俸抑制的に働く変更にも見えますが、長期的にリーグが最も成長するシナリオを選択したように感じます。

さて、欧米プロスポーツリーグの堅調な成長を支えているのは、好調なテレビ放映権収入です。MLBは2014年から更新されたテレビ放映権契約(8年契約)で権利料が倍になっています。NBAに至っては、今年からキックインした新契約(9年契約)の権利料は約3倍になっています。しかし、永遠にこの世の春が続くわけではありません。今年に入り、ちょっと暗雲が見え隠れしてきています。

例えば、ケーブルテレビの雄、ESPNが購読者数を減らし続けています。ESPNは2016年11月だけで購読者を62万人以上失ったと報じられ、業界に激震が走りました。ESPNは今でも約8900万世帯へのリーチを持ちますが、ここ3年で購読者数を1000万人以上減らしています。

僕自身、ニュースやちょっとしたハイライトならソーシャルメディアで事足りてしまうので、ESPNの看板ニュース番組「Sports Center」も今ではほとんど観なくなりました。時代の流れなんでしょう。

そういえば、昨日書き忘れたのですが、SBJの読者アンケートで面白い設問がありました。

Q:今有料テレビ(ケーブル・衛星)に加入しているか?

・はい(90%)・いいえ(10%)

Q:今OTT(Netflix、Hulu、Amazon Primeなど)に加入しているか?

・はい(88%)・いいえ(12%)

Q:今後7年以内にTwitterやAmazonなどのテクノロジー企業が4大メジャースポーツの独占放映権を獲得すると思うか?

・思う(65%)・思わない(35%)

ここから分かるのは、コードカッティングとは文字通り有料テレビを解約してOTTに鞍替えするわけではなく、今は両方を購読しながらOTTオンリーにする時期を見極めているというのが今起こっていることだということ。そして、次の放映権契約更新のタイミングでOTT事業者へのシフトが起こると考えている人(経営者)が過半数もいるということです。

テクノロジーを自ら育成する時代に突入

昨年ドジャースがスポーツに特化したベンチャーを支援するアクセラレーターを米スポーツ界で初めて設立してニュースになりましたが、今年は様々な領域から似たような動きが加速しています。コービー・ブライアントやビック・パピーなど引退したスター選手がスポーツ界を成長させる技術を持つベンチャー企業に投資するファンドを立ち上げましたし、NFL選手会もちょうど今月スポーツビジネスに特化したアクセラレーター「OneTeam Collective」を設立しました。

米国では、スポーツ界がテクノロジーを自ら投資・育成する時代に突入しています。

eSports

前の流れにも重なりますが、メジャー球団などがeSportsの買収に走っていますね。テレビ局もeSportsをコンテンツとして高く評価しており、設備投資を行っています。今年春にTNTにNBAのデジタルメディア部門の視察に行った際(NBAはTNTとJV作ってデジタルコンテンツを制作している)、既にeSports専用のスタジオを作っていました。動き早いです。

さあ、2017年はどんな年になるんでしょう。皆さん、良いお年を!


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2017年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。

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鈴木 友也
スポーツマーケティングコンサルタント

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