ポピュリズムは英国保守主義の最初の仮想敵である

2017年01月06日 06:00

前回記事では「ポピュリズム」という語がリベラル左派によって如何に乱用されているかを概説したので、今回はそれに引き続き西欧において「保守主義」が本来の「ポピュリズム」に対するアンチテーゼとして成立したということ、及びそこから現代の保守主義にとってポピュリズムとは何かを提示したい。

ポピュリズムに抵抗することこそが英国流保守主義の原点

民主主義の絶対性を肯定する際によく援用されるのはルソーの政治思想であるが、そのルソーの政治思想に大きな影響を受けたと言われる「フランス革命」は、当時の多くの知識人にとって「理性の輝き」であると同時に、一部にはそれを「民主主義の陥穽」の露呈と見る者もいた。

今日の英国保守主義の原点と言われるエドマンド・バークは、特に天賦人権論という「理論」に基づいて大規模に大衆を動員し、本来許されるべきではない貴族の虐殺を事実上正当化していた「フランス革命」という動きを批判的に見ていた。

その際バークは単に感情的に批判するのではなく理論的に「自由権」の根拠を天賦人権論や「理性」以外のものに見出すことで反駁しようとしたのであるが、そこでバークが着眼したのが「相続されるもの」としての「伝統」である。

バークによれば、「権利」というのはまず何らかの形で「獲得」されるのだが、その獲得された権利を「相続」することで我々は権利を「生まれながらにして」得ることができるのであり、神によって万人に無条件に与えられるというのは現実に即していない。従って既存の実定法以外のものを根拠に「権利」を主張することの正統性をバークは否定する。

啓蒙思想家の理論や自然法は権利の法源になり得ないのだ。そんな根拠薄弱なものを基礎に権利主張することを認め、しかも実定法に根拠を持つより確かな正統性を持つ貴族の「権利」の方は逆に否定するという倒錯的横暴を正当化する現実のフランス革命には、大衆の無制限の暴走を自制する力はない、とバークは喝破した。実際フランス革命は隣国を次々と侵略し膨張をつづけ、それを憂いた諸外国の王権による対仏同盟によって鎮圧されたものの、自ら自制することは遂になかった。

冷戦後の世界は「民主主義推進派」対「民主主義制限派」の戦いになりつつある

世界大戦の後にはヨーロッパの王権は崩壊していき「共和国」や社会主義体制が激増するが、フランス革命の理念はより洗練された形でEUの理念へと受け継がれていき、今もEUという巨大「共和国」連邦は膨張をつづけている。(EU加盟国の中にはベルギーのように名目上「王国」である国もあるが、EU法そのものは王権ではなく個人主義的な「人権」概念に基づくフランス革命の共和国憲法的な理念に基づいており、これを国内法の上位法として事実上認めている国家は、どんな国内法を持っていようとEU法に矛盾する法は結局無効化されるはずなので、その意味でEU加盟国は事実上共和国的である、という意味。)

現代におけるEUの膨張に抵抗するフロンティアは、Brexitでその保守的伝統の健在を世界に示した英国と、回教に基づく反近代主義を捨てきれない中東諸国である。その両者に共通するのは、政治的正統性の究極根拠に「王権」が存在していることだ。英国は腐ってもKingdomであり、中東もアリーの血を受け継ぐ預言者の末裔達が王族となって支配を続けている。インド以東のアジアでは、日本やタイなど少数の例外を除いてほとんどは事実上共和国化しているが、中国を筆頭にアジア式の理性主義的共和国もやはり自己の肥大化を続けている。無論アメリカ合衆国は、その成立当初から天賦人権論と民主主義によって成り立つ王権無き共和国である。

冷戦時代には共産主義と資本主義という対立軸が目立っていたが、共産主義体制が軒並み崩壊しその多くが単なる開発独裁的共和国体制に移行した現代においては、天賦人権論を基礎とする「民主主義」を推進する派閥と、「伝統」に基づき「民主主義」の行き過ぎを警戒する派閥という対立軸がくっきりと浮かび上がってきている。従って左派にとっては同じ「ポピュリズム」でも、EUを離脱した英国とトランプ氏は真逆の方向を向いているのだ。

どんなに左派がトランプ氏を批判しようと、トランプ氏はEUと同じ方向(天賦人権論に基づき民主主義を拡大していく方向)を向いており、英国は回教圏や日本の保守派と同じ方向(民主主義を伝統の権威によって制限することで穏健化しバランスをとっていく方向)を向いているという事実は変わらない。(かつ英国のこうした動きは決して時代に逆行するのでも退行的であるのでもなく、単純に英国の伝統的懐疑主義がEU的「民主主義」に対しても発動したというだけのことに過ぎない。)むしろ左派は自分たちにとって重要な「民主主義」という価値がトランプ氏によって「汚された」と捉えているが故に、自分たちの掲げる「民主主義」とトランプ氏の「ポピュリズム」を区別しようと躍起になっているのかもしれない。

だとすれば、仮にトランプ氏の「政治的正しさ」批判が痛快であったにしても、トランプ氏はあくまで民主主義推進派であり、その意味で日本の保守派にとってEUや中国と同じ危険性を持つ存在であることに変わりはない。9条改正や日本の軍事的独立の実現という点のみに着眼すればトランプ氏は日本の保守派にとって歓迎すべき大統領かもしれないが、トランプ氏が日本における「民主主義」への制限に苛立ちを感じることなどないという保証はどこにもない。

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