既存リベラルメディアこそ「脱真実」化している

2017年01月09日 06:00

英米における「脱真実」論を紹介する記事がYahooニュースに出ている。

「脱真実」(post-truth)論とは、あたかも既存メディアの報道する「真実」の影響力が、「代替右派」(alt-right)のネットやSNSを利用した「嘘」や「偽情報」の拡散によって弱められていることを問題視する既存メディア側が、alt-rightを侮蔑的に批判する為に最近導入した議論である。

曰く、Breitbart Newsなどのalt-right的なネットメディアは、「陰謀論」のようなデマ情報を拡散することで、これらの情報を信じるような「リテラシーの低い」人々をリベラルメディアから遠ざている。このことが(本来起こるべきではなかった)ヒラリーに対するトランプ氏の勝利の一因となったと、「有識者」は見ている。だがこの状況は是正されるべきであり、alt-rightの発信する「デマ情報」はネットの世界から駆逐されるべきだ、とのことだ。実際英語圏では既にFacebookやTwitterなどがalt-right的言説やそれらに関連する記事の「シェア」を規制しようという動きが既に出始めている。

確かに昨年の米大統領選の時に限らず、またalt-rightとされるメディアに限らず、インターネット上で様々な偽情報や嘘情報を拡散するということは様々な立場の人々が今日まで行ってきた。alt-right側のデマに関しては既にリベラルメディアが多数の事例を紹介しているので、以下では逆にalt-rightに対立する側(必ずしもリベラル派であるわけではないが、alt-right側から見てリベラル陣営に属する立場)の虚偽の事例を紹介したい。

リベラル派や少数派もインターネットを利用して虚偽情報を拡散している

まず、Daesh/ISISなどの回教過激派はインターネットを利用して反西洋世俗主義に基づく「西側陰謀論」を展開し、これを信じたインターネットユーザーを勧誘していることは既に知られている。Daeshに限らずとも西側陰謀論的な言説は回教コミュニティーの中で比較的伝染しやすく、「普通の」回教徒の方と話をする場合でも西側陰謀論的言説は頻繁に聞かれる。「西側の腐敗に毒されてはいけない」という意識を彼らは元々強く持っているが、それがインターネットの「情報」によって強化されてもいるのだ。さすがに西欧諸国も直接テロ攻撃を指示するような言説に対しては敏感になっているが、例えば「欧州の白人は回教徒を不当に差別している」ので「回教徒は団結してこれに抵抗すべき」等といった程度の言説であればリベラル派自身も加担している。このような言説は白人社会に対して教育的効果を及ぼすことができる一方で、回教社会の「被害者意識」を強化し事実上社会を「加害者」と「被害者」に分断しているのだ。

あるいは、現在アメリカで大流行中のBlack Lives Matter(BLM, 「黒人の命は重要なんだ」運動)と呼ばれる黒人の人権団体は、「メラニンの欠如が肌の色を白くする。従って白人性とは、黒人性の欠如であり、人間としての劣等性である(whitness is not humxness)」などと白人至上主義ならぬ「黒人至上主義」的な発言が一部に見られるとalt-right側から指摘され痛烈に批判されている。他方でBLMは「リベラルな一般人」には黒人の犯罪者を白人の警察が逮捕ないし射殺するのは白人社会の黒人に対する「人種差別」であるとし、黒人容疑者が射殺されるといった類の事件が起こる度に警察に対して抗議デモを頻繁に行うことで知られている。彼らも主にインターネットを利用して自分たちの主張を拡散しているのだが、BLMの言説は必ずしも「中立的」であるとはいえない。例えば彼らの公式ホームページには、

Black Lives Matter is an ideological and political intervention in a world where Black lives are systematically and intentionally targeted for demise.

(Black Lives Matterは、黒人の生命が組織的かつ意図的に終焉させられるべき攻撃対象として標的とされている世界に対する、イデオロギー的また政治的に干渉である。)

とあるのだが、ここには「白人社会が黒人を絶滅しようとしているのだ」という陰謀論的な危機感が婉曲な形で、しかしはっきりと表現されている。無論BLM擁護派はBLM側がtwitterなどで発したさらに極端な陰謀論的発言を「alt-rightの捏造である」と一蹴するか、あるいは見て見ぬ振りをして公式メディア上では一切触れない上に、BLM側も批判を受ければ発言を削除ないし編集したりするのでその実態は簡単にはつかめない。とはいえ、そんな危うさを持つBLMをリベラルな既存メディアは既にほとんど手放しで絶賛しているという事実だけは揺るぎようがない。曰く、「BLMの台頭は暴力への抵抗だ」と。

他にも現在パリ市長のAnne Hidalgo氏が『フランスの国民戦線はナチスに協力した「collabarateur」の政党である』などと批判し、またフランスのHuffingtonpostなどにはこれに便乗してFNの古いメンバーとヴィシー政権との「繋がり」を指摘しこの路線でのFN批判を事実上バックアップするような記事などが出ることがあった。無論1972年に結成されたFNが直接ヴィシー政権に協力していたはずはないのだが、リベラル派はFNのメンバーの中に過去にヴィシー政権側に立っていた人物が混じっているというだけのことでこれは「ファシスト」の党だと決めつけて批判しているのである。こんな論理が通るなら、過去には元A級戦犯をも抱えていた自民党も「ファシスト」政党ということになってしまいかねないが、日本で今日の自民党を「ファシスト」の政党だなどと言う人はさすがにリベラル派の中でも少数派だろう。これだけでも(フランスの)リベラル派がいかに扇情的であるかがわかる。

キリがないので例証はこのくらいにしておくが、要するにリベラル派や既存メディアは必ずしも全ての「事実」を余すところなく語ってくれるのではなく、ある程度の意図的な取捨選択という形での検閲はしているのであり、また「イデオロギー」に基づいて「嘘」とまでは言わないにしても論理学的には「虚偽的(fallacious)」な言説で読者をミスリードすることにいつも反対しているわけではないのである。むしろ「イデオロギー」の内容こそが問題になっているのであり、その内容が「政治的に正し」ければある程度の「誤り」は見逃されているのだ。

既存メディアこそ「真実」よりも「イデオロギー」を優先しているのではないか

そもそも、ネット上におけるalt-rightや反PCの動きはこうした既存メディアの虚偽性を暴き市民をリベラル派のイデオロギーから「解放」しようという動機から生じている。その中に低劣な陰謀論などが混じっていたとしても、それだけではリベラル派が触れない「事実」が存在することを否定する根拠にはならない。

実際、現状では「人種差別につながる」という理由で人種に関する統計データの作成を禁じているフランスのような例もあれば、逆に英米では人種に基づくデータそのものは作成されているが、例えば「黒人の犯罪率が高いのは事実だが、それは白人による黒人に対する人種差別が原因であり、それこそが改善されるべき点だ」といった具合に「解釈」という形で論点を「政治的に正しい」方向へと変えていくということが学問研究のレベルでも普通に行われている。その結果なのか、アメリカではgender studiesを始めとする無数の「マイノリティ」に対する差別を解消することを目的とする個別研究を行う「反差別社会学」系の学部が激増している。

他にも「回教/イスラーム教」に関しては西欧のリベラルな「クルアーン」解釈こそが正しく、「過激派」の解釈は誤りなのだと「西側」の権威を押しつけて一般回教徒の間に対立を生み、歴史に関しては常に旧枢軸国側を責め立てて戦勝国側が道義的に正しいという方向での「歴史研究」を横行させ、科学研究においてさえ「性差」に関する研究や「地球温暖化」に懐疑的な研究などを「研究資金」による差別という形で事実上検閲するなど、リベラル派がイデオロギーの為に「真実」を軽視しているということを立証する為の実例は既に十分に蓄積されている。

無論、「右寄り」の情報の全てが正しいわけではない。むしろ「右寄り」であるということは、往々にして「人種的偏見」や「自民族優越主義」等の陥穽に陥りやすい分、その情報の信憑性には細心の注意を払う必要がある。道徳的に正しいわけではない分、右派の「情報」はもしそれが「真実」でないのであれば単なる「ヘイトスピーチ」になってしまいかねない。その点には十分に気をつけるべきだが、だからといって「不都合な真実」に関しては沈黙を貫くという姿勢は、「真実」から逃げてしまっているのではないだろうか。そう考える時、既存メディアの「脱真実」論は、むしろ「真実」をさらに隠蔽するためのレトリックに思われてならない。少なくとも、SNSでの検閲をさらに強化せよという方向に議論が進んでいることに対しては、警鐘が鳴らされるべきなのではないだろうか。

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