バルト三国が「北欧」に、国連の思惑とは

2017年01月10日 11:30

2017年になって、国連が公式にバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)を従来の「東ヨーロッパ」分類から「北ヨーロッパ」分類へと変更することを発表した、と報道されている。

欧州及びアメリカの対露関係という視点からは、ギリシャやトルコ同様地政学的に重要な場所に位置するバルト三国では、自陣営に引き込もうとするロシア側と、それに強烈に反対し隣国の西側諸国(多くの場合それはつまりドイツである)の協力の下「民族独立」を実現しようとする反露現地住民の対立という政治状況が帝政ロシア時代から継続しており、漸くロシアの影響力を徹底排除し国家としての独立性を確立することができるようになったのはソ連崩壊後のことで、つまりごく最近のことである。斯様な複雑な歴史的経緯を経て成立したエストニア、ラトヴィア、リトアニアの三国は全て現在ではNATOにもEUにも加盟しており、名実共に「西側諸国」の一員として受け入れられているが、それを示すようにバルト三国の若年エリート層の間では第二言語の「英語化」急速に進んでいる。とはいえ、現若者世代(現在18-25歳までの層)の親世代はまだ現役のロシア語世代なので、バルト三国出身のエリート学生らは例えば「学校や友達との会話では英語、両親や親戚との会話はロシア語、新聞やメディアは自国語(ラトヴィア語、リトアニア語ないしエストニア語)」などといった言語の分断状況に置かれているのが現状だ。

私が英国内で知り合った学生にもバルト三国出身者は少なくないが、大抵は英語及び自国語に加えてロシア語もある程度理解できるという人が半数程度はいる。中には既にロシア語を全く学んでいない者もいるが、特にラトヴィア出身者にとってはロシア語はラトヴィア語と十分に類似している部分もあるのでロシア語を話さないまでも理解できる者は多い。ラトヴィア政府は特に強硬な反ロシア語政策を実施しているが、それでもロシア語話者は一定数存在し続けているのだ。

だが、基本的には反枢軸国を是とするEUの歴史観の中では、バルト三国のナショナリズムは非常に複雑な形で現れざるを得ない。というのも、20世紀を通して反露感情が何よりも強かったバルト三国は、帝政ロシア及びソ連に対抗する為にナチス・ドイツに協力したという「暗い過去」が存在するからだ。バルト三国ではEUの方針に倣いナチスの「卍字」は法的に厳禁されているが、例えば2010年にはラトヴィアの首都リガ(Riga)及びリトアニアの首都ヴィリニュス(Vilnius)において「民族の英雄」達及び彼らの支持者らによるデモ「行進」が行われるなどという出来事が時折発生しているのも事実である。しかもそれらは欧米メディアからはほとんど無視されており、このバルト三国における「ultra-nationalism」に対する欧米メディアの「無関心」それ自体が問題であるという記事が英国のガーディアン紙から出されているほどだ。

少々脱線するが、このガーディアンの記事の論調自体も興味深い。例えば以下のような記述などは、英国のリベラル派が「外国」一般をどういう眼で見ているのかを垣間見せてくれる。

[I]t was particularly shocking to read the remarks made by the new US ambassador to Lithuania, Anne E Derse, who in a speech last week at Vilnius University made no mention of the march but asserted that “The United States and Lithuania are partners in the fight against antisemitism and in efforts to address the legacy of the Holocaust.” If Lithuania, Latvia and Estonia, had been making serious progress in educating its people about the horrible crimes committed by local Nazi collaborators during the Holocaust and had made an honest effort to bring unprosecuted local killers to justice, then perhaps we could ignore the marches. But not a single Lithuanian, Latvian, or Estonian Nazi war criminal has been punished by a Baltic court since independence. Instead, Jewish anti-Nazi Soviet partisans in Lithuania have been singled out for legal harassment, and these countries are leading the campaign to equate communism with Nazism. (太字は私が編集したもの)

長いので全文を翻訳することはしないが、要するにガーディアンのこの論者はバルト三国のいずれもが自国で行われた「ホロコースト」の事実を十分に自国民に「教育」しておらず、また「ナチ協力者」を一人も罰してもいないどころか、むしろ反ナチス派のユダヤ人を法的ハラスメント(legal harrassment)に晒し、共産主義をナチズムと同視するという「キャンペーン」をリードしてさえいるのだと痛烈に批判している。

逆に言えば、バルト三国はEU加盟国の中で最も現代西欧の政治的正しさ(political correctness)に対し挑戦的な姿勢をとっているのであり、しかもそのことが政治経済的理由で黙認されているという、異例の事態が生じている場所なのである。

また、昨年にはトランプ氏当選後にロシアがバルト三国に再び影響を及ぼすことを懸念する論説が日本でも防衛大の佐瀬昌盛氏から出されたが、これらを総合すれば、トランプ大統領就任間際で出された今回の国連の分類変更通知は、国連側からのトランプ氏及びプーチン氏への牽制という面のみならず、バルト三国そのものの「ultra-nationalism」を牽制するという意図も含んでいるのかもしれない。別の言い方をすれば、EU加盟国の「結束(solidarity)」を固めようというEU側の意思を国連が支持しているのだろう。

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